33 隠しごと
「その割には私の噂は散々よね」
マシュー先生の言葉に喜びながらも、私はそう言った。
カバとかゴリラって言われている私の噂に対して彼はどう思っていたのだろう。
「……それはレオナルド様がクロエ様をお守りになる為に」
「守るねぇ。具体的に何から守るのよ」
言いにくそうに話し始めてマシュー先生の言葉に被せるように私は声を出した。
「国王様を含め、家族以外の者から遠ざけたかったのでしょう」
父からの愛、おっっっも!
私は無意識に苦虫を嚙み潰したような表情になってしまう。
「マシュー先生を辞めさせたのも父のせい?」
「いえ、私は辞めさせられたわけではありません。自ら降りたのです」
彼のその言葉に私は固まってしまう。何も言葉が出てこない。
……えっと、どういうこと?
「クロエ様はきっと偉大な魔法使いになったでしょう」
誤魔化すように彼は口角を上げた。
誰も私に本当のことを教えてくれない態度に腹が立ってきた。
ここでマシュー先生を問い詰めたかったが、聞いてもきっと彼は答えてくれない。諦めて、私は魔法学園に来た理由を話すことにした。
「過去形にしないで。私も今日からここで魔法を学ぶのよ」
少し強い口調になったが、隠しごとをするマシュー先生も悪い。
「……クロエ様が?」と、マシュー先生は驚く。
ええ、と頷くと、困惑がマシュー先生の表情を覆った。
「レオナルド様は許可されたのですか?」
もちろん、と私はもう一度頷いた。
マシュー先生は更に難しい表情になる。私は何も言わず、ただ彼の様子を見つめていた。
……この話って、絶対廊下でする話じゃないわよね。
「と、とりあえず、学園長のところへ行きましょう」
暫くの沈黙の後に、彼は声を出し歩き始めた。私も一緒に足を進める。
「あ、それと、ここでは私のことはメイって呼んで。ただの平民のメイね」
「分かりましたメイ様」
「様は要らないわよ」
「メイ、確かにリベラ家と名乗らない方が賢明でしょう」
父と同じことを言うマシュー先生に少し違和感を抱いた。
私がクロエ・リベラだと公表したら何かまずいことでもあるのかしら。……毎日、この学園で過酷な虐めに遭うとか?
槍がいきなり飛んできて胸に刺さるような虐めだと対処しきれないけど、学生にいじめられたぐらいで精神を病むような性質じゃない。それはきっと父も先生も知っているはずだ。
どうしてそこまで私を隠したがるのだろう。
「私がクロエ・リベラだと知られたら?」
私の素朴な質問に妙な緊張感が走る。
一呼吸置いた後に、マシュー先生は静かに呟いた。
「……殺されるかもしれません」




