16 朝の王宮
こんなに気持ちが上がらない朝を迎えるのは初めてだ。
ナターシャにノアに昨日会えなかったから今日の朝会いに行ってくると説明して、朝から馬車を動かしてもらう。
彼女はずっとニヤニヤしていたが、私はとてもじゃないがそんな気分になれなかった。
ナターシャは私に協力してくれて、父には私が外の空気を吸いに出かけたと言ってくれるそうだ。昨日言い合いになったし、止めに来るってことはないと思う。
出来ればこのまま放任主義になって欲しい。
ギルバートと軽く挨拶を交わし、馬車に乗る。夜と朝では随分と道の雰囲気が違う。
不気味さを少しも感じない。なんて清々しい朝なの。
これから実行される作戦のことさえ考えなければ最高の気分なのに……。
馬車が止まったのと同時に、私は馬車がいつもと違うところに止められていることに気付く。
「本日は明るいので、裏門から少し離れた所に止めさせていただきます。出来るだけ目立たないように王宮に入った方が良いと思うので……」
ギルバートの声が外から聞こえた。私は馬車から降りて、周りを確認する。
「大丈夫よ。ここからなら歩いて行けるわ」
「え、分かるんですか?」
「ええ。気を遣ってくれてありがとう」
ギルバートにお礼を言う。彼は「いえ」と頬が少し赤く染めた。
いつも暗い場所であっていたから、表情がよく分からなかったけど案外かわいいところもあるのかもしれない。
後は、その深く被っている帽子を外すことさえ出来れば素顔が分かる。
いつかギルバートが顔を見せてくれるようになるまで仲良くなれるように頑張ろう。
「じゃあ、今日はもう帰っていいわよ」
「でも、帰りは……」
私の言葉にギルバートは驚く。
「えっと、こっちで手配してくれるみたい」
嘘は言っていないから、大丈夫。まぁ、私は使用人として家に戻ることになるのだけど。
「そうですか。それでは失礼致します。お気をつけて」
ギルのお辞儀に「行ってくるわ」と返し、私は裏門へと向かった。
背中で、彼が見送ってくれているのが分かる。
私が見えなくなるまでずっと見守ってくれているなんて、律儀ね。
暫く歩くと、無事に裏門に着くことが出来た。いつも通りマントを深く被り、王宮の中へと入っていく。
階段を上りきると、イアンが待っていた。
……どうしてイアンがここに?
「日中は目立つから、俺と一緒に来い」
私の心を読み取ったのか、イアンはそう言った。
返答する間もなく、イアンは大股で歩いていく。私は遅れまいと少し駆け足で彼の後ろを歩いた。
マントを被った女が第一王子の側近の後ろを歩いているなんて明らかにおかしいでしょ。
「ねぇ」と、私が言葉を発すると「今は喋りかけるな」という言葉が冷たく返って来る。
ちぇッと心の中で小さく舌打ちする。
私は少し不貞腐れながら会議室へと向かった。




