15 乗り込み作戦
「クソッ!」
会議室に入るなり、ノアの苛立った声が耳に響いた。
イアンは今日も裏門まで来てくれたが、明日からは勝手に入って来て大丈夫だと言われた。
……王宮に勝手に出入りできる許可を得られるなんて、かっこ良すぎない?
私は特別になったような気持ちになり、心が躍る。
「クロエ・リベラを直接見たくて、今日屋敷まで行ったが会えなかったんだ」
隣でイアンがそう説明してくれる。
私は何も知らない振りをして「どうして?」と聞いた。いつこの大根芝居がバレるのかと内心ひやひやする。
「体調不良だったらしい」
「へぇ」
余計なことを言わないように、短く相槌を打つ。
「やっぱり、王子が来るってことに警戒したのかもしれない」
ジャックは眼鏡を光らせながら口を開いた。王子はその言葉に小さく舌打ちをする。
「……俺の評判は良いはずだろ?」
はい、とジャックは即答する。
「良すぎて逆に怪しまれたのかもしれません」
イアンがそう言うと、ノアは暫く黙り込んで何か考え始めた。
私は窓の外へと視線を向ける。多分、ぼんやりと星空を眺めるのが私の癖なんだと思う。
星を見ながら、何か考えるのが好きだ。
今朝父に怒ったけれど、媚びた方が魔法学園に入学出来たのかもしれない。可愛い娘でいた方が良かったのかしら……。
けど、たまには本音をぶつけた方が良いような気もする。家族なんだし。
私はふとノアからの視線を感じ、彼の方を見る。見事に目が合う。ノアは何も言わず、ただ私をじっと見つめている。
……何、この見つめ合いの時間。
恋に落とす練習でもしてるの?
そんなに長く見つめなくても、ノアを一目で好きになる女性は多い。私は違うけど……。
「お前がリベラ家に乗り込め」
ようやく発せられた彼の言葉に固まる。
脳みそをトンカチで殴られたような気分だわ。自分の家に乗り込んで、自分の正体をノアに伝えるっていう作戦?
どんどん訳が分からなくなってくる。
「どうして私なんですか?」
「女同士の方が話しやすいだろ。クロエ・リベラに心を開かせろ。それがお前の任務だ」
「けど、彼女誰にも会わないんでしょ? 私なんかが入れるわけないじゃないですか」
私は必死に抵抗する。
前に私が書いたクロエ・リベラの情報を今提供しても怪しまれそうだから出来ない。
「王子が行くよりかは効果があるだろ。今俺達に必要なのは、クロエ・リベラの確かな情報だ。彼女がどういった見た目でどんな性格なのか把握することだ」
イアンが王子の提案に乗る。
頼みはジャックだけよ!
ジャックの方に視線を向けると、彼も頷きながら「僕もその案に賛成です」と答えた。
「どうやって乗り込むんですか?」
「使用人として雇われろ」
私はノアの決定に呆然とするしかなかった。
「服は俺達で手配する」
イアンがそう言うと、ジャックは何か紙にメモを取った。
皆手際が良いな、と思わず感心してしまう。
私、本当にリベラ家に送り込まれるんだ。…………それってまずくない?
「あの、やっぱり」
「明日の朝、ここに集合だ」
私の意見に聞く耳など持たずにノアの澄んだ声が部屋に響いた。
ナターシャ、これがこいつの本性よ。




