13 父の呼び出し
あれから素晴らしい案が出ることもなく、私は家に帰らされた。
帰りもイアンに裏門まで送ってもらい「また明日」と言って、去って行った。
イアンと仲良くなりたいとは思わないが、もう少しフレンドリーに接して欲しいと思いながら彼の背中を見つめていた。
御者と軽く会話を交わし、彼の名前がギルバートだということを知った。それ以上深い話をしなかったが、少し距離が縮んだ気がする。
今のままで計画が進むと、私は毒殺で殺されてしまう。それは何としても避けたいところだ。
一体何人の人間を暗殺してきたのか分からないが、私はきっとまだ王家の怖さを知らない。
その日、ぐっすりと眠ることが出来た。
コンコンッと扉を叩く音で目が覚める。
もう少し寝ていたかったが、私はなんとか瞼を開けて「どうしたの?」と寝起きの少し掠れた声を発した。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「お父様が?」
ナターシャの言葉に脳が起きた。
父が私を呼び出すなんて珍しいわね。いっつも部屋に乗り込んでくるのに……。
丁度いい、私も父に話があった。
「あ、入っていいわよ」と、私はナターシャを部屋の中に入れる。
「失礼します」
彼女は少し深刻な顔つきで部屋に入ってきて、ベッドから降りる私をじっと見つめる。
……どうしてこんなに見つめられているのかしら。愛の告白でもするつもり?
「あ、あの……」
「な、なに!?」
ナターシャに合わせて、私も緊張感のある話し方をする。
「じ、実は……」
「じ、実は!?」と、あえて大袈裟に反応する。
じれったい。早く教えて欲しい。
私にそんなに言いにくいことって、何だろう。もしかして、父が死んだとか?
「ノア王子がいらっしゃるんです」
「え、どこに?」
「旦那様の部屋にです! いつの間にそんな関係になったんですか!」
ナターシャの大きな声が部屋に響く。
私は起きたての脳みそをもう一度眠らせてしまいたかった。
どうしてノアがここにいるの? もしかして、メイがクロエ・リベラってバレた?
それとも血迷って、堂々と父の前で私を殺しに来た?
刺されるのだけは勘弁して欲しい! 痛いのは嫌よ!
「お嬢様、大丈夫ですか?」
混乱している私に、ナターシャは顔を覗き込む。
「え、ええ。……ちょっと、体調が優れないから今日はお父様のところへ行けないわ」
私は咳き込む真似をする。
私の演技力が酷過ぎて、ナターシャは嘘だと気づかれているだろう。それでも、私はどんな言いがかりをつけても、この屋敷でノアに会うことは避けたい。
「ノア様に会いたくないのですか? 先ほど玄関でお見かけしましたが、本当に優しそうな美しい方でした。使用人たちにも微笑みかけてくれて本当に素敵な方でした。ノア様を見慣れる日なんて来ないと思います」
……え、誰? そんな人知らないわ。
そんなの私の知っているノアじゃない。
ナターシャ! 騙されないで! って叫びたかったけど、夢を壊しちゃいけないし、何よりノアの本性を言ったところで信じてくれないだろう。
興奮しているナターシャには悪いが、私は父の部屋へ行くことを断固拒否した。




