12 刺激的な女
「なんで分かったんだ?」
「勘」としか答えようがなかった。私の回答に不満だったらしく、イアンは私を鋭い目でじっと見つめる。
私は黙ってその圧力に耐える。
レディにそんな態度だと、モテないわよ。昨日から私は精神強化訓練所にでも来ているのかしら。
「どうして俺の魔法が気になったんだ?」
別にイアンだけの魔法属性が気になったわけじゃない。ノアは王家の人間だから水だって分かっているし、ジャックは絶対土だって私の細胞が言っていたから間違いない。
イアンはちょっと想像しにくくて、少し悩んで適当に言っただけなんだ。本気で当たるとは思っていなかった。
「魔法を使って人を殺せないかなって思って」と、私は適当に嘘をついた。
昨日と今日で一気に嘘をつくことが多くなった気がする。
「……人を殺すための魔法はない。そう習っただろ?」
疑わしい目を私に向けるイアンにノアが口を開く。
「こいつは魔法学校に行っていない」
その言葉にイアンはどこかハッとした様子で「ああ、そうでした」と小さな声で呟いた。
貴族は魔法学園に行く。これは当たり前のことなのだと私はその時初めて知った。
……父の過剰な過保護を憎んだ。
私の知らない常識がまだまだ沢山あるだろう。
私は魔法を全て習得したわけではないから、もしかしたら人を殺めることが出来る魔法があるのかもしれないと思っていた。けど、そんな魔法を使う機会など私には無縁だと思っていたから、誰かに聞くなんてことはしなかった。
少し気まずい空気の中、私は声を発した。
「無知ってとても恥ずかしいものね」
「……その恥ずかしさをバネに人は頑張れるんだ」
ジャックは優しい声でそう言ってくれた。
生意気な少年がほんの少しだけ私に心を開いてくれたように思えた。
もしかしたら、このチームって案外悪くないかも! …………私を殺す計画さえなければ!
「まぁ、これから色々と知っていけばいい」
「分からないことがあれば答えてやるからいつでも聞け」
ノアとイアンの声が幻聴だと思ってしまった。
喜びたいけど、急な青春の雰囲気に戸惑ってしまう。どういう反応が正解?
私は混乱したまま「よし! クロエを殺すわよ!」と意気込んで言うことしか出来なかった。
「やっぱり毒殺はやめましょ! 美しく殺してあげないと!」
「毒殺は譲らないから。それに、クロエ・リベラは醜いで有名じゃないか」
すぐにジャックが反論してくる。そこから私はジャックとの言い合いに夢中になり、ノアとイアンが何を話していたのか全く聞き取れなかった。
「どうしてあの女はこの計画をあんなに楽しんでいるんでしょう」
「……変わってるんだよ。それか、あいつもクロエに恨みがあるのかもしれない」
「カレンとはまた違う魅力を感じますね。黙っていれば品格のある美人な女だが、口を開けばおかしなことばかり話し出す。どんどん彼女の素性が気になりますね。……勿論、殿下に言われた通り調べたりはしませんが」
「……惚れるなよ?」
「それはこっちの台詞ですよ。…………きっと、殿下により刺激を与えてくれるのはこの女の方でしょう」
「何か言ったか?」
「いえ……、この計画が終われば彼女を始末するのかなと思いまして」
イアンの言葉にノアはジャックと大声で張り合っている女に目を向ける。不思議と彼女に吸い付けられ、目が離せなかった。
「……全て終わってから考えるさ」
ノアの曖昧な答えに、イアンは「はい」と頷いた。




