11 ノアの想い人
「どうしてそれをお前に言わないといけないんだ?」
「私もこの計画に手伝うんだから教えてくれてもいいでしょ」
イアンが私の方を睨む。その圧力に負けて「教えて下さい」と言い直した。
少し沈黙が続いた後、ノアはゆっくりと話を始めた。
「心に決めた女がいる」
おっと、急に恋愛の話? ……ノアに好かれる女性ってどんな人かすごく気になる。
「学園の生徒?」という質問に「ああ」と素直に答えてくれた。
きっと才色兼備で、彼女も魔法学園では高嶺の花の位置づけをされているに違いない。
「俺に興味を示さなかった初めての女だ」
なんだか急に自分が物語の中にいるモブキャラのような気分になってしまう。
主人公はノアで、ヒロインがその女性ってところかしら。……ってことは私は悪役!?
とろけるような表情を浮かべながらノアは話を続ける。
「平民のくせに俺と対等に話してこようとするし、魔法はそこらの貴族より優秀だ。あんなちっせえガキみたいな女、全くタイプじゃなかったのにいつの間にか目が離せない存在になっていた」
せめて貧乳であって欲しい、と心の底から願う。そこでしか私はその女性に勝てるところがない。
暫く部屋は静寂に包まれた。三人とも私の言葉を待っているように思えた。
「……話は終わりました?」
「おい、殿下からこんな話を聞けることなんて滅多にないぞ? というか、お前から聞いておいてその態度はないだろ」
イアンは私がノアの話に対してつまらなさそうな態度を取っているのが気に食わなかったらしい。
そんな恋愛話よりこっちは命が掛かっているんだもの。
「その人と結婚したいからクロエを殺すんですか?」
ノアの目を真っすぐ見つめる。ノアは少しきょとんとした表情を浮かべたが、すぐにニヤッと笑みを浮かべた。
「もし、そいつがカレンに手を出すようなら殺してやる」
カレン……、さんって言うんだ、その女性。
「クロエ・リベラには悪い噂しかないんだ」とジャックが割り込んでくる。
「逆に悪い噂しかないっておかしいと思わないの?」
「……本人は屋敷から出てこないんだ。確かな情報なんて手に入らない」
「まぁ、そんな女一人消えたぐらいで世界が良くなるとは思わないけど、多少はマシになるかもしれないわね」
「あんたを認めたくないけど、その意見には賛成だ」
私の名前はメイって名乗ったのに、誰一人その名を呼んでくれない。
私はジャックに向かって「それは良かったわ、眼鏡君」と返す。これぐらいの反撃は許されるはず。
ジャックは眼鏡越しに私を睨む。知性溢れる緑の瞳だ。
……そう言えば、ノアは水魔法だって知っているけど、他の二人は何魔法なのかまだ知らない。多分、ジャックは土魔法だと思う。
土魔法の父を持つ私の勘がそう言っている。
「イアンは風魔法かしら」
心の声が思わず漏れてしまった。あ、と急いで右手で口元を覆う。
ここで生きていくには、余計なことを言わない方が良い。改めて自分にそう言い聞かせた。




