10 防衛
「圧倒的に毒殺が一番です」
「いや、絶対に刃物で刺した方が一発だ」
「それだと逃げられる可能性が高いじゃないですか!」
「毒殺だと助かるかもしれないだろ。解毒剤を飲まれたら計画は台無しだ!」
ジャックとイアンがにらみ合いながら会話をしている。
そんな私の為に熱くならなくても、と言いたくなってしまう。
暗殺計画ってそんな必死立てるものなの? クロエ・リベラの情報が多すぎるし、どれも曖昧なものばかりだから計画を立てるのが難しいのかも。
……それとも第一王子の婚約者になってしまったから、殺しにくいとか?
私がぼーっと考え込んでいると、ノアが私に話を振った。
「お前はどう思う? 良い殺し方の案はあるか?」
う~ん! 私に聞かれても!
どうせなら、美味しいもの食べて死にたい。いや、でも一番痛みがないのが良いか。
私はスゥッと息を吸って、心を落ち着かせてから声を発する。
「痛みのない殺し方なんてどうでしょうか? 叫ぶ心配もないですし……、眠りながら死んじゃうみたいな」
「「却下」」
私が全て言い終える前に、イアンとジャックの声が重なる。
なんでよ! そこは本人の意見尊重してよ!
まぁ、ここにいる誰も私がクロエ・リベラだなんて想像もつかないだろう。
「確かに眠りながら死んだら自然だな」と、ノアが私の意見に賛同してくれた。
自分の意見が取り入れられたことに嬉しくなり、私はつい大きな声を出してしまう。
「でしょ!? 誰かに殺されたなんて痕跡があったら、大事になっちゃうわ。だから、密かに何事もなかったかのように殺せばいいのよ!」
「心臓発作で突然死したとか?」
「そういうこと!」とジャックに指をさしてしまう。
人に指をさしてはいけないって教えられてきたけど、興奮のあまりその教えは頭の中かすっかり抜けてしまっていた。
それに心臓発作は苦しそうだから却下だ。もっと楽に死にたい。……いや、死にたくはない!
けど、もしもの時は苦しまずに殺されたい。
「事故死と思わせるってことか?」
「え、でもそれって痛いわよね?」
「痛い?」とイアンは眉間に皺を寄せながら聞き返す。
まずい、つい本音が出てしまったわ。内心焦りながらも冷静に言葉を発する。
「扉に挟まれて死んだり、階段で転んで転落死したりってことでしょ? それって逆に怪しまれないかしら?」
「クロエ・リベラは噂を聞く限りそんな死に方しそうだけどな」
イアン、あんたを事故死させるわよ!
「多分、クロエはそんなドジするような子じゃない気が……」と、私は自分を守るために付け足す。
「あいつを知ってるのか?」
「し、知らないけど、なんとなくそう思っただけよ」
「知らないのかよ」
「まぁ、彼女の容姿や性格を明確に掴めていないから変なことはしない方がいいですね」
ジャックが口を挟む。まさか彼に助けられるとは思っていなかった。……本人は全くそんな気ないのだろうけど。
「確かな情報が欲しいな」と、王子は呟く。
どうしてそこまでクロエ・リベラを殺したいのだろう。確かに、私も昨日の情報を聞いていて「そんな奴は殺してしまえ!」って言いたくなったけど。
父も動いているのだから、婚約解消出来たりしないのかしら……。婚約破棄を出来ない契約でも結ばれているとか?
これは直接父か国王に確認する必要がありそうだ。
「何を考えているんだ?」
ノアは私の顔を覗き込む。
急にそんな眩しい顔を向けてこないで欲しい。目が溶けてしまいそうだ。
「……クロエ・リベラを暗殺したら、王子様にどんな利益があるのかと思いまして」
にこやかに笑う私を見て、ノアは私に疑いの目を向けた。




