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東京ブレイク  作者: LK LEBLANC
3/4

ゾンビ・ギャング

デスクで仕事をしていた丸山は、空いている椅子を手で指し示して、座るように美咲を促した。

「座ってください」

美咲が腰を下ろすと、丸山は書類の束を彼女に手渡し、そしてタイピングを続けた。美咲は彼をちらっと見た。

「あの…課長」

「それらの請求を確認し、それぞれの損害に対する標準的な支払い額と照らし合わせてください。最も低い金額から順に並べられていますので」

「あの…」

「今週末までに私のインボックスに入れておいてください」」

「丸山課長!」

丸山はタイピングの手を止め、驚いたような表情で美咲を見た。

「今日は木曜日です。今週末までに提出するということは…」

「はい、明日です。何か問題がありますか?」

美咲はがっくりとうなだれた。丸山は再び仕事に向かった。美咲が立ち上がり、丸山に背を向けて部屋を出ようとしたとき、彼は言った。

「小野さん。あなたならできるとわかっているからお願いしているのです。私を失望させないでください」

美咲は振り返ってぎこちなく笑い、かすかに頭を下げると、部屋を出てドアを閉めた。


美咲はドアを背にして立ち、溜め息をついた。気が付くと、彼女は期待に満ちた表情を浮かべた同僚たちに囲まれていた。彼らは目を輝かせながら、美咲が何か言うのを待っていた。

「中で何があったの?」

同僚の一人が言った。

「課長に文句言った?」

別の同僚が言った。

美咲はプレッシャーを感じてぎこちなく笑い、親指を立ててみせた。同僚たちは彼女に喝采を送った。

「やったわね!小野さんならできると思ってたわ」

長野が言った。

美咲は弱々しく笑って席に戻り、受け取った書類の束をデスクに置いて、深い溜め息をついた。

(何も言えなかった、なんて言ったら皆がっかりするよね。丸山課長が、皆に対してもうちょっとおおらかになってくれたらいいのに)

書類の山がさらに増えたのを見て、美咲は溜め息をついたが、やがて決意とともに歯を食いしばった。

(丸山…私がどれだけできるか見せてあげるわ!)

美咲は軽く伸びをすると、仕事に取りかかった。彼女は、どんどん小さくなる書類の山を見ながら時折笑みを浮かべていたが、やがてスマートフォンのアラームが鳴った。彼女は画面を見た。

(もうこんな時間なの?)

美咲は再び伸びをして、欠伸をした。彼女は疲れ切っていたが、残り少なくなった書類を見て、自分が成し遂げたことへの満足感でニヤリと笑った。

(私が本気になったらどうなるか、これであいつも思い知るでしょう)


美咲が会社を出ると、澄んだ夜空に輝く満月が彼女を出迎えたが、彼女には、その美しさを鑑賞する気力は残っていなかった。彼女は肩に重石を背負っているかのように、前かがみになり、足を引きずるようにして前に進んだ。

(ちょっと…がんばりすぎたかもしれない)

美咲が下を向いて歩いていると、汚れたテニスシューズが視界に入った。彼女は残されたエネルギーを振り絞るようにして顔を上げた。そこには、オーバーサイズの白いTシャツを着て、ダボっとした青のパンツを太いベルトで留めた若い男がいた。男は大きなサングラスをかけており、ぼさぼさに乱れたような無造作な髪形をしていた。同じような服装の若い男たちが三人、その後ろに立っていた。

「こんな夜遅くにサングラスをかけるなんて、いったいどこのバカなのかしら」

美咲は小さな声で言った。

「おい、今何て言った?」

男たちの一人が声を荒げた。

「あっ、今、私、声に出して言っちゃった?」

美咲はもう一度欠伸をした。

「ごめんなさい、私疲れていて、あなたたちに構うほどの気力がないの」

彼女は男たちの横を通り過ぎようとしたが、一人が後ろから彼女の肩をつかんで止めた。

「ゾンビ・ギャングに舐めくさった態度を取るやつが、逃げられると思うのか?」

「おれたちはこのエリアを支配しているんだぜ」

「リーダー、この女に、なぜおれたちがこの辺のストリートの支配者なのか見せてやろうぜ!」

「ああ、思い知らせてやる。用意しろ!」

疲れ果てた美咲が振り返ると、男たちが地面に段ボールを敷いて、大きなステレオをその横に置く様子が見えた。

「んっ?」

美咲はかすかに声を漏らした。

「えっ?」

彼女は我に返り、何が起きているか理解し始めた。

「おれとお前、今、ここで勝負だ。ATMから有り金全部引き出して、このバトルに賭けな」

「ちょっと待ってよ!そんなことできないわ!バカげたダンスバトルなんてやらないわよ」

男たちのリーダーはサングラスを外し、美咲を見下ろした。男は両目の周りに奇妙なメイクアップを施していた。眉の端から反対側まで黒い直線が伸び、その線がまぶたを斜めに通り、目の下まで降りるとまた直線が並行に引かれ、アルファベットの「Z」を形作っていた。目の周りのラメが月明かりの下でかすかに輝いていた。

「おう?お前、ゾンビ・ギャングから逃げられると思ってんのか?」

美咲は一瞬固まったが、その後吹き出し、そして笑いを堪えることができなくなった。

「どう…どうして、か、顔に…フフッ、Zゼット…アハハ」

彼女は腹を抱えて笑い始め、もう言葉を続けることもできなかった。

「このアマ…」


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