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帰宅-1

 3人は途中で食料を買ってから、屋敷の門のある通りまで来る。

 屋敷の門の前では、律儀にツキミは3人の事を待っていた。その手にはパジャマの入った紙袋をもっている。

 ツキミは通りを歩く3人に気づくと、手を振って寄ってくる。


「ごめん、先に行っちゃって」

「別に大丈夫だ。先に屋敷に入っててもよかったんだぞ?」

「いやー、オリビアが待ってると思うと1人だけで入りづらくて。折角だから皆でただいま言いたいじゃん?」


 そんな可愛らしいことを言うツキミに、ケモ丸はフッと微笑む。


「では皆で帰ろうか。儂らの家に」


 そう言ってケモ丸は、門を押し開く。

 門は軋む音を立てながらゆっくりと開くと、4人は屋敷の玄関へと続く石畳の道を歩き出す。


 つい先日まで汚れていた噴水はとても綺麗になっており、噴水の先からは水が吹き出ていた。

 それを見て、ケモ丸はコバルトに聞く。


「なぁ、あの噴水。水は出ていたか?」

「いや、出ていなかったはずだが」

「そうだよな?」


 ケモ丸は自分の記憶が正しかったことに安心すると、疑問を浮かべながら屋敷の両扉を開く。


 食堂から美味しそうな匂いが、玄関まで漂っていた。

 4人を出迎えるエントランスホールは相変わらず綺麗で、天井から吊り下げられている大きなシャンデリアはキラキラと輝いている。


 屋敷の扉は音を立てて閉まると、しばらくして食堂の方からバタバタと足音が聞こえてくる。

 その足音は近づいてくると、小さな人影はコバルトに抱きつく。


「おかえりなさい! おにいちゃん!」

「ただいまだ。オリビア」


 オリビアは嬉しそうに笑うと、それを見て微笑む3人の視線にハッとして、オリビアはコバルトから離れると、スカートの裾を両手で軽く持ち上げて、少し膝を曲げて挨拶する。


「お帰りなさいませ。お料理の用意ができていますわ」


 オリビアはそう言うと、てくてくと食堂の方へと歩いていく。

 4人が帰ってきたのが余程嬉しかったのだろう。オリビアは両手を元気色の頬に当てながら、食堂へと入っていった。その微笑ましい光景に、4人の口角は限界まで上がっている。


「やはり家とは良いものだな」


 コバルトのその発言に、3人は深々と何度も頷く。


「今のだけで疲れが一気に吹っ飛んだわ」

「ほんとそれな」

「オリビアは俺たちの癒しの女神」


 果たしてそれは家のことなのか、可愛らしいオリビアのことなのか。

 3人はどちらか分からないようなことを言うと、食堂の方からオリビアの声が聞こえてくる。


「早く食べないとお料理冷めちゃいますわよ〜!」

「「「「は〜い」」」」


 4人は声を揃えて返事すると、足並みを揃えてスキップで食堂へと向かった。


 食堂のテーブルの上に並んでいたのは、人数分のグラタンだった。


 コバルトは椅子に座るよりも先に、調理場に足を運ぶ。


「あ、おにいちゃん!」


 オリビアは調理場に入ってきたコバルトに気づくと、エプロンで濡れた手を拭きながらコバルトの元に駆け寄ってくる。


「どうしたの?」

「買ってきた食料を置きにな」

「えーっと、それなら……」


 オリビアは調理場を見回すと、木製の棚に駆け寄る。


「ここ!」


 そう言って棚をポンポンと叩くオリビアの近くまでコバルトは行くと、黒い渦から食料を取りだして、それをオリビアに渡していく。

 オリビアはコバルトから食料を受け取ると、それを空いている棚に素早く置いていく。


「ーー今日買ってきたのはこれで最後だ」


 そう言ってコバルトは、カボチャのような野菜を渡した。オリビアはそれを空いているところに適当に置く。


「よし! おしまい!」


 オリビアは腰に手を当てて満足気にそう言って、くるっと華麗にコバルトの方に振り向くと、小恥ずかしそうにモジモジとする。


「はじめての共同作業ね♡」


 コバルトはそれを見てフッと笑うと、オリビアのおでこに軽くデコピンする。


「あうっ……」

「そういうことは、もっと女の魅力が磨いてから言うのだな」

「な……! この前はもう立派なレディって……!」

「はて? なんの事やら?」

「むぅ……おにいちゃんのばか!」


 オリビアはふぐのように頬っぺたを膨らませ、涙を浮かべながら大声でそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた。

 コバルトは緩みそうな頬に力を込めてなんとか表情を壊さずにいると、後ろを振り向いてから頬を緩ませた。


 食堂に続く入口を見てハッとすると、再び頬に力を込めて普段の表情を心がける。

 入口から覗くようにして、3人はこちらを半目で見ていた。

 上から順に、ケモ丸、ツキミ、こびとんの順番でコバルトをニヤニヤと見つめる。


 コバルトは3人の横を通り過ぎようとすると、わざとコバルトに聞こえるような声で3人は話はじめる。


「ツキミさん、みました? さっきのコバルトさんの表情!」

「みましたみました。ゆるっゆるでしたわね〜」

「オリビアちゃんにあんなこと言ってたけど、本当は物凄く嬉しかったんでしょ」

「やっぱりそう思う?」

「絶対そうですって〜」

「……おい、貴様ら」


 おかしな口調でそんなことを話す3人に、コバルトは低い声で呼ぶが、それを無視してケモ丸は話し始める。


「もしかすると、オリビアちゃんの「おにいちゃんのばか!」聞くためにあんた態度をとったのかも……」

「なるほど!」

「さすがロリコン、計画的ね……」

「まったく、コバルトさんもツンデレなんだから」

「「「ね〜?」」」


 ケモ丸が最後にそう言うと、3人は声を揃えながらコバルトの方に振り向く。


「貴様ら……さっきから近所の奥様方のような喋り方で話しおって……」


 コバルトは拳をプルプルと震わせながら、3人の方をゆっくりと振り向く。

 3人は「やっべ……」と顔を青ざめると、コバルトはこちらを振り向きーー「あっ……」と声を漏らすと目を点にした。

 3人はコバルトの視線の先を追うと、恥ずかしそうに頬に手を当てながら身体を揺らしているオリビアがそこにいた。

 それを見て3人も「あっ……」と同時に声を漏らす。


「お兄ちゃん……恥ずかしかったからあんなことを……」

「い、いや、違う。違うぞ……? それはこやつらが勝手にだな……」

「まさかお兄ちゃんツンデレさんだったなんて……キャー!」


 オリビアは嬉し恥ずかしそうに、調理場の奥へと戻っていった。

 コバルトは弁解できなかったことに口をパクパクさせると、3人をギロッと睨む。


「貴様ら……」

「い、いや〜、その……気持ちを伝えられてよかったね♪」


 きゃるん♪ と幻聴が聞こえてくる仕草で、ペロッと下を出しながらケモ丸はそう言った。

 その瞬間、ツキミとこびとんは己の死を確信する。


「……死を持って償え」


 コバルトはそう言って右手を前に向けると、掌から真っ白の激しい光が放たれたーー。



 ーー結局、オリビアがコバルトを止めてくれたおかげで助かった3人は、コバルトに土下座して謝ると、料理が温かいうちに夕飯を食べることにした。


 目の前でホカホカの湯気を立てているグラタンは、我らを救ってくれた女神オリビア様の手料理なのだと、3人は手を擦り合わせてグラタンを拝むと、一口目を含んでその温かさに涙する。


「うめぇ……」

「俺たちの女神、まじさいこ〜」

「俺、オリビア教って名前の宗教作っちまおうかな……」


 一方、3人と少し離れて座るコバルトの膝の上には、3人の救いの女神であるオリビアが座っていた。オリビアは嬉しそうにニコニコとしながらスプーンでグラタンを掬うと、それをコバルトの口へと持っていく。


「はいっ! お兄ちゃん! あ〜ん!」

「いや、我は自分で食べれ……」


 コバルトが、自分で食べれると言いかけると、オリビアは涙を目元に浮かべながら上目遣いで聞いてくる。


「お兄ちゃん……やっぱり私の事……」

「い、いや、そうではなく……」


 コバルトは対応に困っていると、横の方からボソボソと聞こえてくる声が耳に入ってくる。


「……あ〜んされろって」

「……俺たちの女神泣かせんなよ」

「……ロリコン」


 そんなことをボソボソと言ってくる3人にイラッときたコバルトは、3人の脳内に魔法で言葉を送る。


 "おい貴様ら、あまり調子に乗るなよ? 特に最後の奴。後で覚えておけ。今度こそ殺してやる"


 それを聞いて、こびとんとツキミは即座に囁き声を辞めると、ケモ丸の方を見る。ケモ丸はサッと顔を俯かせると、無言でグラタンを食べだした。

 コバルトはそんな3人を見てため息を着くと、膝の上に座るオリビアを見る。オリビアは今にも泣きそうな顔で、グラタンの乗ったスプーンをこちらに向けて持っていた。

 コバルトは覚悟を決めると、大きく口を開く。


「あ〜んっ……!」


 コバルトがグラタンを食べると、オリビアはパァーっと表情を明るくした。


「どう? おいしい?」


 そう聞いてくるオリビアに、コバルトは微笑んで答える。


「あぁ、美味い」


 コバルトはそう言ってオリビアの頭に手を伸ばす。オリビアは目を閉じると、「えへへ」と嬉しそうに頭を撫でられる。

 それを見ていた3人は、心の中で「やっぱりロリコンじゃないか」と呟く。


 "おい貴様ら、聞こえているぞ"


 その言葉が脳内に流れて、3人は勢いよくコバルトを見る。

 コバルトはオリビアのあ〜んを口にしながら、見下すような笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「「「いや、心を読み取るのは卑怯だろ」」」


 3人は声を揃えて、そう言葉を漏らした。

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