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冒険者パーティ【旅酒】-2

 2階にあるちょっとした休憩室に出ると、そこには10人ばかりの冒険者が大きなガラス窓から下の方を眺めていた。その内の一人が4人に気づくと、隣にいた15歳程の魔術師の少女の肩を叩く。


「おいあれ……」


 肩を叩かれた魔術師の少女は、隣の者の視線の先をみて目を大にする。

 そこには、訓練場に敷き詰められているゴブリン共を倒した張本人たちがいたからだ。


「えっ……!」


 魔術師の少女は思わず声をあげると、それにその場にいた冒険者全員が4人の方を見る。


 4人の先頭に立つケモ丸は、その者達の反応に疑問を浮かべながらも、横を通り過ぎて行く。

 それに続いてこびとんは胸を張って偉そうに、ツキミは照れ臭そうにして歩く。

 最後を歩くコバルトは、申し訳なさそうに口元を手で隠している魔術師の少女を見て、その少女にグッジョブマークを向けた。

 それに魔術師の少女は目を少し大きくすると、口元から手を離して、小恥ずかしそうに笑いながらグッジョブマークを返す。


 4人はカウンター横の階段を降りると、そこには冒険者たちが試験場から戻ってきており、ガヤガヤと話している。その話の内容の殆どが4人に関する話題であり、それを聞いてようやくケモ丸は、先程の冒険者たちの反応を理解する。

 ケモ丸は階段の上から空いている机を見つけると、そこへと向かい。その途中で酒場にいた冒険者たちは4人に気づくと、4人の方をチラチラと見ながら冒険者たちは話を続ける。


 ケモ丸が机の空いた席に座ると、3人も適当な席に座る。

 全員が席に腰を下ろしたのを確認してから、ケモ丸は話し始める。


「なぁ、儂ら。もしかして目立ってね?」

「もしかしなくても目立ってるんだよ」


 ケモ丸の言葉に、ツキミは机にひじを着きながら、疲れた様子で即答する。


「俺、目立つのは嫌いなんだけどなぁ」

「まぁまぁ、いいじゃん! 別に変な意味で目立ってるわけじゃないしさ?」

「こびとんは楽しそうだな。羨ましいよ」

「まぁ、俺は目立つの好きだからね〜! あっ、すみませ〜ん!」


 こびとんは嬉しそうにそう言うと、近くを通り過ぎる女性ギルド職員を呼び止めて飲み物を注文する。


「冷たいオレンジジュースを。ケモは?」

「儂は酒なら何でも」

「ツキミは?」

「うーん……こびとんと同じやつで」

「おっけー。じゃあコバルトは……って、紅茶飲んでるからいらないか」

「うむ」


 コバルトは小皿の上にティーカップをカチャリと置くと、小さく頷いた。

 注文を聞いた女性ギルド職員はぺこりと頭を下げると、カウンターの方に戻っていく。

 こびとんは彼女の背中に向けてヒラヒラと手を振ると、肘を着いた手のひらに顎を乗っけて息を吐く。


「はぁ……」


 目の前に座るこびとんの幸せそうな表情を見て、ケモ丸は苛立ちを覚えると、こびとんの尖った耳を引っ張る。


「いたたたたた!! 何するんだよ!」

「いやすまん、なんか手が勝手に……」

「あまりにも理不尽!!」


 こびとんのさっきまでの幸せそうな顔は何処へやら。今のこびとんの顔には、「不機嫌です」と文字が書いてあるように見える。

 頬をふくらませてそっぽを向くこびとんを見て、ケモ丸はまたもやこびとんの耳を引っ張る。


「いたたたた!! だ〜か〜ら!! 痛いって!!」

「まぁまぁ、機嫌直してくれ」

「しょ〜がないな〜……って、耳引っ張られて機嫌直すやつがいるか!!!」


 こびとんは机に身を乗り出してそう言うと、「まったく……」と小声で呟きながらドカッと椅子に座る。


「飲み物はケモ丸の奢りね」

「儂、金持ってないけど?」

「ゴブリンの討伐報酬金が来るじゃん!」

「あぁ、そう言えば」

「いや忘れてたんかい!」

「まったく……。お前さん、さっきから声が大きいぞ。ほれ見ろ、周りの人達こっちを見てるじゃないか」

「それは多分、俺だけのせいじゃないと思うけど?」


 そんなくだらない会話のキリのいいところで、コバルトは態とらしくティーカップを音を立てて置く。


「貴様ら、そこの娘に気づいてやらんか」


 そう言ってコバルトが視線を向けたのは、ケモ丸とこびとんのすぐ横。そこにはお盆を持った女性ギルド職員が、笑いを堪えながら立っていた。お盆の上に置かれている木製のコップは、カタカタと揺れている。


「お、お待たせしました……。こ、こちら、お飲み物と……ぷっ。す、すみません。つい……ぷふっ!」


 女性ギルド職員は内からこみ上げてくる笑いを吹き出しながら飲み物を机の上に置くと、そそくさとカウンターに戻って行った。

 こびとんは目の前に置かれたオレンジジュースに浮かぶ氷を見ながら呟く。


「……俺、やっぱ目立つの嫌いだわ……」

「そ、そうか……」


 こびとんの隣に座っていたツキミはそう言って、こびとんの肩に優しく手を置く。


「ようこそ、こちら側へ」

「それは止めて。悲しくなるから」


 こびとんはコップの取っ手を持つと、オレンジジュースを口にした。

 オレンジ固有の香りと酸味が口いっぱいに広がり、飲み込むと冷たいジュースが食道を通っていくのが分かる。何も無くなった口の中には、優しい甘さと僅かな苦味が残っている。


「こんな時でもオレンジジュースうまいわ。なんかちょっと元気出たし」

「やったぜ」

「勝ったな」

「いや何の確定演出だよ」


 ツキミとケモ丸の怒涛の謎確定演出発言に、こびとんは即座にツッコむ。

 すると、酒場内に放送が鳴り響く。


 "冒険者パーティ【旅酒】の皆様、ゴブリン・エンペラー等の素材の査定が終わりましたのでカウンターまでお願いします"


 その放送の声はアメリアのものだった。カウンターを見ると、アメリアはマイクを手にしていた。

 4人は同時に立ち上がると、アメリアの座るカウンターへと向かう。


「お待たせしました。ではまずお渡しする金額の方ですが……ーー」


 アメリアは羊皮紙を1枚、カウンターの下から取り出すと、それを淡々と読み上げる。


「ーー今回お持ちいただいた素材の金額と報酬金を合わせまして、合計金額1億6012万リバ。達成報酬の3割はギルドが徴収致しますので、1億6008万リバ。白金貨1枚。金貨600枚。大銀貨8枚でのお支払いとなります」


 そう言ってアメリアがカウンターの下から取り出したのは、正方形の小さな箱と金貨の入った袋。その小さな箱の蓋を開けると、そこには白金に輝く硬貨が入っていた。

 コバルトは躊躇うことなくそれを受け取ろうとすると、ケモ丸はそれを止める。


「待て、コバルト。ここは4人均等に分けないか?」


 ケモ丸のその言葉に、こびとんとツキミは何度も大きく頷く。


「何故だ?」

「えーっと、あれだ。個々で金の管理をした方が、お前さんの負担も少なくて済むだろう? だからここは均等に分けてもらわんか?」

「ふむ……それもそうだな」


 コバルトのその言葉を聞いて、3人は安堵の息を漏らす。

 危なかった……。こやつに金を全て任せたら、また孤児院に全額寄付なんてことも有り得たかもしれん。そうなる前に止められて本当に良かった……。

 ケモ丸は心の底から安堵すると、両肩に手を置かれる。後ろを見ると、ツキミとこびとんは涙を浮かべながらグッジョブマークを向けていた。

 ケモ丸は目頭が熱くなるのを感じながら、2人にグッジョブマークを返す。


「ーーそういうことでしたら、もう暫くお待ちください」


 話を聞いていたアメリアは機転を利かせて、白金貨の入った箱を持ってギルドの奥へと続く扉に入っていった。

 しばらくして、受付嬢3名を引き連れて戻ってくる。アメリアを含む4名の受付嬢の手にはそれぞれ、金貨の入った袋が持たれていた。

 4名はその袋をカウンターの上に置くと、アメリア以外の3名は後ろに下がる。


「改めて、こちらが今回の報酬となります」


 アメリアのその言葉を聞いてから、4人はそれぞれ袋を受け取る。

 ケモ丸は袖の中に、こびとんは腰のベルトにさげ、ツキミはケモ丸と同じように袖の中に、コバルトは黒い渦の中に仕舞う。

 それを確認してから、アメリアはコホンと咳払いをしてから次の話題へと入る。


「次に皆様のランクですが……。ケモ丸様がBランクに昇格、こびとん様もBランクに昇格です。ツキミ様はCランクへの昇格となります。コバルト様のランクはそのままのCランクということになりました。これは試験場で皆様にお聞きした話を元にランク付けしておりますので悪しからず。また、ギルドカードの更新と、ランクプレートの更新をしなくてはなりませんので、一度こちらでお預かりします」


 アメリアはそう言ってカウンターの上に金属製のお盆を置くと、4人はそこにギルドカードとランクプレートを置く。


「それでは明日以降で、受け取りに来てください」

「了解した」


 コバルトは1度だけ頷いて後ろを振り向くと、冒険者ギルドの出入口である両扉へと向かう。


「では帰るとしようか」

「あぁ」

「うん!」

「そうだな」


 コバルトの言葉に3人は頷くと、旅酒一行は扉に向かって歩き出した。

 アメリアや他のギルド職員は、彼らがギルドから出るまで深く頭を下げる。

 酒場にいた冒険者たち全員が自主的に、彼らの背中が扉の向こう側に見えなくなるまで見送る。


 こうして今日、ここアルダム支部で四つ目の高ランク冒険者パーティが生まれたのだった。





 ◇◇





 屋敷までの帰り道。4人は雑談を交えながら、人混みの中を進んでいく。

 噴水のある広場を通り過ぎようとした時、どこからか肉を焼く香ばしい匂いが漂ってきた。

 こびとんの腹の虫が鳴く。


「お腹空いた……ねぇ、何か食べない?」

「そうだな。儂も少し腹が減っていたところだ」


 ケモ丸はこびとんの意見に賛同すると、周りを見回す。


「おっあれは……」


 ケモ丸は何かに気づくと、ある露店へと歩き出す。3人はその後に続くと、その露店から漂う匂いを嗅いで何かに気づく。


「おっ……! あの時の兄ちゃんたちじゃないか!」


 露店の店主のおじさんは、4人の存在に気づいてそう言った。

 頭には鉢巻を巻いており、着ている白いシャツには汗が滲んでいる。


「3日ぶりだな」

「そうだな! ところで後ろの2人は初めて見る顔だが……?」


 そう言っておじさんは、横から覗くようにしてコバルトの後ろにいるふたりを見る。


「ツキミって言います。あの時は本当にありがとうございました」


 おじさんに向かって、ツキミは深く頭を下げる。


「なぁに、いいってことよ! そんでそっちのチビは……」

「チビじゃない!」

「おっと、すまんすまん。この通りだ、許してくれ」


 おじさんは白い歯を見せながら片手で謝る。


「まぁ、あの時は助けられたし? 今回だけだからな! 次にチビって言ったら店の前で泣き叫んでやる!」

「それは怖ぇや! 絶てぇに次は言わねぇ。肝に銘じておこう」

「それでよし!」


 こびとんは胸を貼ると、満足気に頷く。

 偉そうにするこびとんの頭に、ケモ丸はゲンコツを喰らわせる。


「いっ……!」

「この方は儂らの恩人だぞ。変な態度を取るな」

「わかってるよ……。おじさん、ごめんね」


 こびとんは自分のつむじ優しく擦り、両手を揃えておじさんに謝る。


「なぁに、お互い様だ」


 そう言ってニカッと笑うおじさんに、こびとんも歯を見えるように笑った。

 ケモ丸は一歩前に出ると、頭を下げる。


「あの時は、本当に助かった」

「いいっていいって! そんなに何べんも頭を下げられると気が滅入っちまう。だから頭を上げてくれ!」


 ケモ丸は頭をあげると、はにかみながら感謝の意を伝える。


「感謝する」

「おう!」


 おじさんは短くそう言って、元気な笑顔を見せた。

 コバルトは黒い渦の中から金貨の入った袋を取り出すと、10枚の金貨を手に持って、それをおじさんに渡す。


「これはこの前の代金だ」

「いやいやいや! こんな受け取れねぇよ!」

「これは我らから貴殿への感謝のほんの気持ちだ。受け取ってくれ」


 そう言うコバルトの表情は真剣そのものだった。おじさんはしばらく悩むと、コバルトの真剣さに負ける。


「わーったよ! ありがたく受け取らせてもらおうじゃねぇか! 言っとくが、返せって言われても返さねぇからな!」

「そんな気、毛頭ないわ」


 コバルトは真顔でそう答える。


「ったく……これじゃあ、俺が貰いすぎだ! 今日は好きなだけ串肉もっていきやがれ!」


 おじさんは頭をかきながらそう言った。

 ケモ丸とツキミはこの先の展開を察して「あっ……」の声を漏らす。

 おじさんの言葉を聞いた瞬間、コバルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「な、なんだよ」


 その時、おじさんはとてつもなく嫌な予感を覚える。

 コバルトはニコニコしながらこびとんの方を見ると、おじさんの言葉を短く伝える。


「好きなだけいいそうだ」

「じゃあ100本!」


 こびとんは迷うことなく大きな声でそう言うと、コバルトは悪戯な笑みでおじさんを見る。


「くっ……男に二言はねぇよ!」

「よくぞ言った!」


 コバルトは高らかに声を上げると、グッジョブマークをおじさんに送る。


「こんにゃろう……今度買いに来たらボッタくってやる」

「その時は貴殿の提示した倍の額を払って、今度は1000本の串肉を頼んでやるとしよう」


 おじさんはそれを聞いて小さく笑うと、コバルトにグッジョブマークを返した。



 しばらく噴水の傍で座って待っていると、おじさんは4人のことを大声で呼んだ。

 4人は露店の前まで戻ると、おじさんは串肉が100本入った袋をコバルトに渡す。


「これからもご贔屓に」

「無論だ」


 口の隙間から白い歯を見せてそう言うおじさんに、今度は普通の笑みをコバルトは浮かべると、串肉の入った袋を受け取る。

 4人は1本ずつ串肉を取ると、食べ歩きながら屋敷へと帰るのだった。

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