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クエストからの帰り道-2

 翌朝。

 女性たちが目を覚ましてから、馬車をアルダムに向けて動かした。アルダムに着いたのは昼頃だった。

 アルダムに戻ると、門兵の熊人のおじさんが門前で待っており。彼に助けた女性たちを任せると、4人は冒険者ギルドへと向かった。


 噴水広場は相変わらずの賑わいで、そこを通り過ぎて冒険者ギルドを目指す。


 昼間の冒険者ギルドは朝とは違ってかなり騒がしく、酒場にある長椅子には既に数多くの冒険者が座っており、昼間から飲んだくれている奴もいる。

 受付カウンターもかなり忙しく、受付嬢たちはせっせと働いていた。たった1人を除いて。


「はぁ……」


 アメリアは大きなため息を着く。


「なぁんで私の所だけ来ないのかしら……」


 その独り言に答えるのは、アメリアの隣に立ってギルド内を監視しているガッツだった。


「それはアメリアちゃんが怖いからじゃ……」

「……あ?」

「なんでもありません」


 ガッツはそう言いながら、背すじをピンと伸ばす。

 アメリアは酒場内に視線を戻すと、再びため息をついた。その顔は不機嫌そのものである。

 酒場内にいた冒険者たちは「その態度が原因なんだよ」と心の中で呟くのだった。


 そこへ、冒険者ギルドの扉がバタン。と大きな音を立てて勢いよく開かれた。

 その音を聞いて、アメリアは待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

 こんな勢いよく扉を開く奴らはアイツらしかいない……!


 それは最近出来たアメリア唯一の顧客であり、暇を潰すのに最高の問題児ども。果たして今回はどんな問題を持ってきたのか実に楽しみだ。

 アメリアはニヤリと笑みを浮かべる。


「アメリアちゃん……顔怖いよ」

「うるさい」

「ひっ……!」


 酒場内にいた冒険者たちはおろか、2階にいた者たちまで扉の方を見る。つい最近、この街にやってきた期待の新人冒険者たちの姿をひとめ見ようと、2階から覗く者たちの中には手すりから身体を前に乗り出している奴もいた。


 扉から太陽光が刺し込み、逆光の中を歩いてくるのは4つの人影。

 先頭を歩くのは、袖がヒラヒラとした異国の黒い服を着た黒目黒髪の獣人。

 その後ろには、薄く体にピタッと張り付いた衣装に着ている金髪の美少年エルフ。

 さらにその後ろを歩くは、獣人と似たような白い衣服を着こなす白銀の髪を持つ青年。

 そして最も後ろを歩くのは、長く青い髪に、貴族のような豪勢な衣服に身を包んだ青年。

 その異様な雰囲気を醸し出す4人は、迷わずアメリアの元へと向かう。


 こちらへと向かってくる4人を見て、アメリアは少し緊張を覚えて唾を飲み込む。

 見たところ、4人に目立った傷や汚れはほとんどなく。恐らく、ゴブリンの数を見て帰ってきたのだろう。


 先頭を歩くケモ丸はカウンターの前まで行くと、アメリアに口を開く。


「今回の依頼についてひとつ聞きたいことがある」

「はい、なんでしょう?」

「目的地である洞窟に複数人の女性が囚われていたんだが」

「……はい?」


 アメリアは自分の耳を疑う。

 そんな情報、何一つとして知らない。というかこの4人、洞窟に入ったってこと?


「その者たちは女性騎士学校という学校の生徒との事だ。何かこれについて情報は?」

「しょ、少々お待ちください!」


 アメリアは若干慌てた様子でそう言うと、隣にいるガッツの肩を掴んで小さな声で聞く。


「ちょっとどういうことですか。ギルマス」

「俺だって知らないって! ……いやまてよ、そう言えばつい3日前にそんなことを領主様から聞いたような……」

「は?」

「すみません」


 ガッツの謝罪の言葉を聞いてから、アメリアは再び4人に笑顔を見せる。


「すみません。こちらではその情報は掴んでおらず……もし宜しければ奥の方で詳しくお聞きしても?」

「いや、それには及ばん。ギルドがこの情報について知っていたかどうか、儂が知りたかっただけなんでな」

「そ、そうですか……」


 もし私が知ってたとか言っていたら、この人たちのギルドへの評判が落ちてたかも知れない。そうなればこの人達はここへ来なくなるかもしれない訳だ。危ない危ない。せっかくの私の最近の楽しみが減るところだった。

 作り笑顔の裏でそんなことを考えていたアメリアを他所に、ケモ丸は話を続ける。


「それで今回の依頼の件だが、ゴブリン・エンペラーとやらを討伐してきた」

「あー、はいはいゴブリン・エンペラー……は? すみません、今なんと……」

「だから、ゴブリン・エンペラーとやらを討伐したと……」


 アメリアはそれを聞いて頭を抱える。

 まさかこんな大問題を持ってくるなんて……。あの洞窟にゴブリン・エンペラー!? そんな情報、まるで掴んでないんですけど!?

 アメリアは後ろにいるガッツを見ると、ガッツはホケーっとした顔をしていた。どうやらこれは彼も知らなかったらしい。

 いや待て、証拠物品がないと本当に討伐したかどうかは分からない。この人達は新人の冒険者。となれば証拠物品は剥ぎ取ってきてないはず。

 アメリアは一度咳払いをすると、崩れ掛けの作り笑顔で聞く。


「えーっと……何か討伐した証となるものは……」

「というと?」

「例えば牙とか耳とか……」


 ケモ丸はそれを聞くと、後ろにいる連中に目を向ける。

 この反応を見るに、どうやら証拠となる物品はないらしい。つまり! この前みたいに徹夜する羽目にはならない!

 アメリアは誰にも見えないように、カウンターの下で小さくガッツポーズする。


 ケモ丸は後ろの者たちとの確認を終えると、アメリアの方を向く。


「コバルト曰く、ここでは狭いそうだ。この前の試験場を借りても良いだろうか?」


 それを聞いて、アメリアは嫌な予感を覚える。

 もしかして……いやでも、まだ分かんないし? まさかそんなはずーー。



 ーーあったわ。私の予感大的中ですわ。

 アメリアは目の前の光景を見て、今日も徹夜が確定したことに僅かな絶望を覚える。


 なんと今、冒険者ギルド『アルダム支部』の試験場にはーー小鬼の帝王ゴブリン・エンペラーの死体が置かれていた。その死体の胴体には風穴が空いており、首は身体から綺麗に離れている。

 しかも、それだけでは無い。小鬼の統率者ゴブリン・ロードが5体も、綺麗に横に並べられている。

 そして、今回のクエストの討伐目標であるゴブリンの死体の数はなんと脅威の500体以上。


 一人で行くのは心細かったので、強制的に着いて来させたガッツやその他の冒険者ギルド職員はもちろん。勝手に着いてきた冒険者たちまでもが、その圧巻の光景に目を点にしていた。


 どうせ、あの人達が問題を持ってくることはなんとなく分かってた。分かってたけど……。


「こんなん誰も予想してねぇよぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!」


 アメリアは空に向かって大声で叫んだ。その声は雲を突き抜け、大気圏までもを突破してーーと思ってしまうほど。


「なんという迫力……!」

「これはゴブリン・エンペラー超えちゃってるね……!」


 それにケモ丸とこびとんはわざとらしく、腕で風を防ぐようにしながら言う。


「うるさいわ!!!」


 アメリアは声の出しすぎで若干酸欠になり、ゼーゼーと息を吐く。


「まぁまぁ、落ち着いてアメリアちゃん」

「これの! どこを見て! あなたは落ち着けって言うんですか!」

「うん、まぁ。普通はそうなんだけど。周りの皆を見てみよ」


 アメリアはガッツに言われた通り、周りの冒険者やギルド職員を見る。全員はただ静かに、その光景を見ていた。もちろん、その目に感情の色は見えない。


「ね? みんな落ち着いてるんだから、アメリアちゃんも……」

「これ、全員驚きすぎて感情失ってるだけですよね?」

「んー……多分?」

「いやそうだよ! 多分じゃないわ!! てかギルマス、あなた驚きすぎて一周回って逆に落ち着いてる感じですか? さっきから口調もいつもと違って優しいですし」

「まぁ、そんな所かな」

「いや、そんな爽やか青年ボイス出してもゴリマッチョのオッサンに変わりないですからね」


 それを聞いた瞬間、ガッツはピキッと石にヒビが入ったような表情をすると、試験場の隅っこの方で地面弄りを始める。

 アメリアは額に手を当ててクソデカため息を着くと、目の前の現実を見る。


「……さてと、これどうしたもんかなぁ」


 頭をかきながら、アメリアは今日のスケジュールを大幅に変更する。

 まずはギルド職員を集めて職員会議。そこで4人のランクをどうするかを決めなくちゃ。それが終わったら本部に報告して、それからランク昇格した人達のプレートの準備とギルドカードの更新ーー。


「今日はやることいっぱいね……まったく、暇がなくなっちゃったじゃない」


 アメリアはボソッとそう呟くと、隅っこで蹲っているガッツの背中を強めに叩く。


「いっ……な、なんだってんだよ!」

「ほら、さっさとこれの処理しますよ。ギルマスはギルド職員集めて職員会議の準備をしといてください。私はあの人達に戦闘の詳細を聞いてきます。あと、あの人たちはほぼ確定でBランク冒険者パーティになるでしょうから。冒険者パーティ名を何にするかも聞いてきます」


 早口でそういうアメリアに、ガッツは目をパチクリさせる。


「はぁ……ほら、ギルマスなんですからしっかりしてくださいよ!」


 アメリアは再びため息をついてそう言うと、ガッツの背中をまた叩いて、今回の騒動の元凶である4人の元へと向かった。

 ガッツは叩かれた背中の痛みにハッとして立ち上がると、ジンジンとした痛みを感じる背中を擦りながらギルド職員たちを集めるのだった。

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