姉が真実の愛を見つけたようですが、相手は王子様ではないようです
まだまだつたない文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです
「シャーリー、本日限りで婚約を破棄する。俺はジャネットに真実の愛を感じたんだ」
あの王子のことだからこうなる事は予感していた。
甘やかされて育った愚かな第二王子。婚約して何年になるかしら。
十歳からだから、七年間?長かった。
最初は優しくしてくれたけれど、段々ジャネットに気持を傾けていったのよね。
せっかく国王陛下がまったく王子としての才能が無い王子が困らず生きていけるようにお母様の領地を継ぐ予定の私をお父様に差し出させたのに。
そもそも女性でも領地や爵位を相続できる国だからって土地と爵位を残して死んだお母様が悪い。
その上お父様も引き継ぐ娘のためにと真面目に領地発展させるから、王家に狙われたんだわ。
見た目だけの男とは結婚したくないと、婚約の打診が来たときに泣いたのに。
あの時断っておけば、婚約破棄されて疵物にもならずにすんだのに。
いったいどうやって説得されたのかしら。
どうせお父様のことだから、ジャネットを家の跡継ぎとして認めるとかそんなところでしょうけど。
ジャネットは腹違いの姉で、一歳しか年齢は変わらない。
『二人の女性を同時に愛してしまった』なんていわれたけれど、まだ五歳にも満たない自分に腹違いの姉がいましたと紹介された時にはお父様を心底軽蔑したものです。
その上私のお母様が亡くなって半年くらいで愛人を次の母として紹介するとか本当に無理です。
せめて一年くらい待ってほしい。
不幸中の幸いなのは義母となった女性がまともで一度は結婚を断ってくれていたこと。
お父様に押し切られたと使用人が噂していたので、悪いのはお父様一人です。
お母様をなくしたばかりの私にもある程度時間を置いてから顔合わせをしようとしてくれた。
何度も会えというお父様を突っぱねてくれたそう。
顔を合わせてからは他人以上親子未満の距離感で接してくれて、ジャネットと差別するなんてこともなかった。
本当になぜお父様の愛人なんてしていたのでしょう。
まあ両親のことは置いておいて、ジャネットですね。
彼女は出会った当初から良い子だったんです。姉妹ではなく友人として仲良くなりたいといってくれて。まだ姉妹と呼ぶのを抵抗していた私への歩み寄りでした。
最初は図々しいとも思いましたが、会話をすれば彼女の教養が、一緒にドレスを選べば彼女の趣味の良さが分かったのですぐに仲良くなりました。
本当に仲良くしたいのだと誠実に、行動、言動全てで伝えてくれる人を無下には出来ませんから。
そして友人だったのも出会って最初の頃だけで、本当の家族になれたと思っていたのに。
優しくて可愛らしい、頭の良いジャネット。
社交界でも人気者で、王子が選ぶのも分かる理想の令嬢。
誰だって、人見知りをする、あまり華やかさもない私よりジャネットを選ぶわ。
私もそんなジャネットに絆された一人だから分かる。
この場面になってもジャネットを恨む気持はないんだもの。
「ここに宣言する。シャーリー嬢との婚約を破棄し、ジャネット嬢と婚」
頭を下げて王子の宣言をただ聞いている。
個室でやればいいものを、国王陛下の誕生日の祝賀でやるなんて。
個室でやってくれたら、誰にも見られないように帰宅できたのに。
それもこれも婚約を受け入れたお父様のせい。
魅力的な姉を持った、私の・・・なぜ言葉の続きが聞こえないかしら。
あの王子、一応発声の練習はしていたはず。喉がかすれた?
「貴方と婚約なんてしませんこの能無し!
わたくしのかわいい妹をよくも泣かせたわね!」
頭を上げたらなぜか王子が先ほどまで居た玉座から転げ落ちています。
頬が赤いですが、もしかして殴られたのでしょうか。
高いところが好きだったから、宣言も階段であがらないといけない玉座の前でしていたはずなのに。
あそこから転げ落ちるとはそうとうですね。
というか誰が殴ったの?
ジャネットがヒールの音を高く鳴らしながら降りてくるけれど、何故彼女はそんなに怒った顔をしているの?
王子は貴女と真実の愛を感じたと言ったのに。
「なにをするんだジャネット!君は僕を愛しているんだろう!?」
「わたくしの話のどこにそんな意図があったというのでしょうか?」
「だって」
「だってじゃありません!わたくしは妹の領地の将来についての展望を、妹もいるのに貴方が誘ってきたお茶会で話しただけですが、まさかそれのこと?」
確かに、なぜか毎回婚約者とのお茶会にジャネットを呼んでいるなと、その度ジャネットは将来の私の領地についての考えを話してくれるなとは思っていました。
王子との会話は苦痛だし、ジャネットの話は現実的でためになるから来てくれてすごくありがたかったけれど。
「だからシャーリーと婚約破棄して君と結婚すれば、領地は君のものになると」
「どれほど馬鹿なんですか。ああもしかして、お父上である国王陛下にシャーリーの領地は将来お前のものとでも言われた?あの領地はシャーリーの亡きお母様のもので貴方のものではありません!この愚か者!領地の話をしたのは将来馬鹿な貴方がシャーリーの役に少しでも立つようにするためよ」
「そこまで言わなくても良いじゃないか!」
なぜこの王子は被害者面なんでしょう。腹立ってきました。
「いえ言います!貴方は二人の令嬢を疵物にしました。この会場に到着したわたくしはなぜかシャーリーと引き離され、通されたのは貴方の控え室!未婚の男女が密室に二人きり!これがどれほど悪いことかお分かりでしょう。わたくしには婚約者がいるのにどうしてくれるんです。衛兵に見られていますから、きっと彼にも話は届くでしょう。二人分の慰謝料、払う覚悟はありますわよね!」
そういえばジャネットには婚約者がいました。影が薄くて忘れていましたが。
辺境でお国のために戦っている軍人さんでしたから、お顔は私も見たことありません。
「そんな!聞いてない!」
「王子ごときに言う必要ないでしょう!国王陛下に許可を頂いているんですから。それと、わたくしのシャーリーはまだ泣いているんですが!?」
ジャネットは先ほどから何を言っているのでしょう。私、王子に婚約破棄されたからって泣かないのに。
「可哀想なシャーリー。この馬鹿王子のせいで恥をかかされて。泣かないで、貴女は何も悪くないのだから。貴女には笑顔が似合うのよ?」
いえだから泣いてな・・・ジャネットの指はなぜぬれているの?
私の目元をぬぐってくれた指ですね。じゃあ私は泣いているのね?
実感がないわ。
「ああもう我慢できない。王子殿下、先ほどの宣言は言い切ってないので無効です。
なので私から宣言します。提案ではなく宣言ですよ、殿下?」
なんだかジャネットが頼もしく見える。いいえ、出会ったときから彼女は頼もしかった。
愛人の子だと後ろ指を差されても、毅然とした態度で社交界の華にまで上り詰めて。
財産目当ての人々の悪意から私を守ってくれていた。
「第二王子とシャーリー・コルネーの婚約は、ジャネット・コルネーの名において破棄させていただきます!勿論、王子の過失を原因として!」
「君にその権限はないはずだ!」
「この国において娘とは成人するまでは家の財産!そしてわたくしは十八歳の成人の折、父であるコルネー侯爵からすでに爵位を譲渡されているのでわたくしはコルネー女侯爵であり妹であるシャーリー・コルネーはわたくしの財産として数えます。可愛い妹をモノ扱いするのは嫌ですが、そういうことですので!」
妹の私も知らなかったのですがそれは良いんでしょうか。まあお母様の領地があるから良い・・・
いや良くは無い?
けれど、ジャネットは私を裏切っていたわけではないのですね。
妹に無断で婚約者を奪ったりする女性ではなかったのですね。ああ、良かった。
「今宵は傷心の妹を慰めなくてはなりませんので、失礼いたします。
ごきげんよう殿下!さあシャーリー、帰りましょう。」
「はい、ジャネット」
王子が何か叫んでいましたが、ジャネットの言葉しか聞こえません。
なんだか足元がふわふわしますが、姉に手を引かれてほっとします。
ずっと守ってくれた大好きなジャネットのあたたかい手です。
あの馬鹿がまさかわたくしに惚れているとは思わなかったわ。
おかげで馬鹿にシャーリーをあげなくて済んだけれど。
愚かなお父様が国王陛下のためにとか言ってシャーリーを差し出した時は怒りで気を失ったけれど、気を取り直して婚約の条件を、お父様の爵位と財産をわたくしの成人の誕生日に即日譲ることってしておいて助かったわ。
これのおかげで愛人の子可愛さに愚かな親が犯した間違いの被害者としてシャーリーは社交界でも優しくされていたし。
というか、間違いって言われる王子も王子。
お兄様である第一王子は私の婚約者からの情報によると、立派に戦地で武功を立てているというのに。
やっぱり第二王子は側室の子などではなく妾腹という噂は本当なのかもしれないわ。
愛する人との間の子は溺愛したくなるみたいだし。
その点、二人の女を愛して二人の娘を溺愛するお父様はまだマシ。
最低なのは変わらないけど。
「シャーリー、落ち着いた?」
「ありがとうジャネット。もう大丈夫」
可愛いわたくしの妹、帰りの馬車でも泣いていた。あの馬鹿王子、やっぱり刺すべきだったかしら。
「私についていないで、ジャネット。はやく婚約者の方に弁明の手紙を書かないと。王子との間にはなにもなかったって」
優しいシャーリー。人の悪意に敏感なのに、将来的に莫大な財産が手に入るからといろいろな人に目を付けられて可哀想に。あの馬鹿とその父親が一番厄介だったけど。
仮にも婚約者を奪いかけたわたくしの婚約にまで気をつかってくれるなんて。
本当、あの馬鹿と結婚しなくて正解ね。
「大丈夫よシャーリー。彼にはちゃんとあの馬鹿が騒動を起こすかもしれないって事前に連絡してあるから。どんな噂が届いても信じないでって。」
「そうだったの。なら良かった。」
小さい頃から笑顔が素敵な女の子だったわね。王子と会うようになってから笑顔を見る回数が減っていたから、また見られて嬉しい。
愛人の子というのは事実だし、お母様が亡くなったからやってきたから印象も悪いわたくしを、最初は避けていたのに家族として受け入れてくれたシャーリーは何よりも誰よりも大事に思っている。
ずっと姉妹として仲良くしていたのに、邪魔をしてきた王子を排除できてすがすがしい気分だわ。
でも、気になることがあるのよね。
「ねえシャーリー、貴女、泣くほど彼を愛していたの?」
シャーリーの涙。人前で泣くなんて思わなかった。
それほどあの馬鹿を愛していたのなら、わたくしの行いは悪意のある邪魔でしかない。
「いいえ。愛してなんかないわ。泣いていたのは・・・たぶん、ジャネットに裏切られたと思ったから?」
「わたくしに?」
「そう、ずっと大好きだったジャネットになら、あの王子にジャネットは豚に真珠だけれど、譲ってもいいと思ったのよ。たぶんなんだけど、どうして相談してくれなかったの?って思って、泣いてしまったの、私。すぐにジャネットは私のために王子を殴ってくれたから、今度はうれし涙っていうのかしら。止まらなくなってしまって」
「シャーリー・・・あの馬鹿、私に真実の愛を感じたとか言っていたわね。
私も真実の愛を感じていたみたい」
「え!?あれのどこが魅力的だったの?」
「違うわシャーリー、貴女によ!」
可愛いシャーリー、優しいシャーリー、わたくしの大事な妹。
「おばあさんになってもずっと姉妹よ。大事なシャーリー。貴女の幸せのためならなんでもするわ。
貴女を泣かせるなら、王子様だって国王だって、国から追い出してみせる」
「おばあさんになってもって・・・当たり前じゃないの、ジャネット。でも嬉しい」
「ところでシャーリー。落ち着いたらわたくしの婚約者の上官に会ってみない?」
「私はその人と会ったら、幸せになれそうなの?」
「そうね・・・顔も頭も良くて、誠実で、貴女に一途に惚れているみたいよ。婚約の打診は全て断っているみたい。それに」
「それに?」
「彼と結婚したら、隣の領地にはわたくしがいるわ」
「それは・・・すごく幸せにしてくれそうな方ね」
お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません
一応、ジャネットのお母さんは平民じゃなくて貧乏貴族の三女くらいの身分と考えていました。