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どんどん進むよ縁談は


私とクオン様の顔合わせをしてから、なぜか頻繁に王宮から手紙が届くようになっていた。


それは熱烈な恋文で、送り主はクオン・ハノス・リトヴェルト様となっている。


これ、書いてるの絶対に本人じゃないよねと断言できる。


机の上に置いてある、きれいに洗濯された彼のハンカチを眺めてそう思った。

返そうと思いつつ、なんとなく直接会って渡したいような気がして、ハンカチはまだここにある。


「手紙ねぇ……」


きっと、私とクオン様をこのまま結婚させたい人が動いているのだろう。

頭の中には侍従の男性の顔が浮かぶ。


彼はクオン様を王位に、と思っているんだろう。私という聖女を娶れば、教会がクオン様につく。


「結婚相手、決めないとなぁ」


私が20歳になるまであと3か月しかない。

あと3か月で婚約者を決めて、来年には結婚。誰だ、こんな忙しいルールを決めたのは。


そもそも、ただでさえ自由がないのに、結婚時期まで他人に決められるなんて。

平等なのは太陽の光と月明りくらいで、私には何一つ自分の意志で決められることがない。


そして、どうしようもないことばかりが頭に浮かんでは消えて、陰鬱な気分が広がった頃。

私は思った。


どうでもいいから野草が食べたい、と。





◆◆◆






クオン様との顔合わせから一か月。

私は王宮にやってきていた。


国王陛下と王妃様がお茶に誘ってくださり、私は快く招待を受けたのだ。


けれど、王宮の庭園に案内されるとそこに二人の姿はない。


嫌な予感がする。


不思議に思っていてもそれを尋ねることはできず、メイドは私を席に着かせるとさっさとお茶の準備に行ってしまった。


用意された冷たいミントティーを口にして、美しい花を愛でる。


五分ほど経ったとき、死んだ目をした王子様が現れた。


「サラ」


クオン様だった。

顔に疲労が浮かんでいる。きっと陛下と王妃様と言い争いをしたんだろう。


そして敗北した、と。


「お疲れ様でございます」


「あぁ、本当にな」


つい笑ってしまったのはごめんなさい。


二人で席に着くと、このひと月の陛下とクオン様の攻防を聞かされた。

構図は、聖女と結婚させたい派とクオン様であり、敵の方が圧倒的に勢力が多いのだとか。


「サラに紹介しようとした騎士は、ことごとく婚約者を据えられた」


「それはまた……」


どうやらクオン様は、本当に私のために騎士を探してくれていたらしい。けれど阻止されてしまって、今のところはもう紹介できる人がいないという。


「ご迷惑をおかけしましたね」


「こっちの都合だ。サラが気に病むことではない」


「あ、大丈夫です。気に病んでません」


「……」


このままでは、私とクオン様の婚約が勝手に発表されてしまいそうな勢いだそうで、それで今日も二人で親睦を深めろという意図らしい。


「もうサラと結婚することは決定事項のように話が進んでいる。サラを名乗る相手から、熱烈な恋文が届いているしな」


「あら、クオン様もですか?」


「も?」


私がクオン様を名乗る人から恋文が届くことを伝えると、彼は眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をした。

どうやら外堀がどんどん埋められているらしい。


「さっき母上に会ったら、婚約式は三か月後だと言われたよ」


「ええっ!」


勝手に進んでる!!

衝撃で目を見開いて絶句してしまう。


二人きりの庭園。美しい花を見ても、心はまったく休まらない。


「あの……私がクオン様と結婚なんておかしくないですか?聖女といえど平民出身なのに」


これは最初から思っていたことだ。


もちろん、階級では王族と同等だとされている。

けれど、生粋の貴族の人がそれに納得するかどうか。クオン様に自分の娘を、と思っている高位貴族は多いはず。


聖女とはいえ、出自にケチをつけられないはずがないと私は思った。


「父上は、サラを養子縁組させるつもりだ。ワンズリー公爵家に」


財務大臣の名前が出てきて、私はびっくりした。

そんな人の養女になったら、野草食べられないじゃないの!?


「なぜワンズリー公爵家なんですか?」


「そこが私にもわからない」


かつては王女様が降嫁したともいわれるワンズリー公爵家。私が娘に!?

考え込んでいると、クオン様は険しい顔で言った。


「しかもワンズリー公爵は、兄上の派閥だ。そこから私に妃を出すのはどう考えてもおかしい」


「第一王子様の派閥なのですか?それなら……兄弟の溝を埋めるというか、派閥争いを失くすような意味があるのでは」


どうなんだろう。

私に政局はわからないけれど、兄君の派閥の家からクオン様に妃をとなれば、表面上は和睦というか融合というかそういう感じにならないのかな?


クオン様は静かに首を横に振る。


「逆だ。いつでも裏切れる立場にある者が、兄上の臣下筆頭になってしまう。そうなると、付き従っている他の家も揺らぐ。疑心暗鬼になり、派閥の結束は弱まるだろうな」


めんどくさいー!!

貴族って本当にめんどくさいー!!


結婚するとこんな世界に入るのかと思うとぞっとする。

自分で自分を抱き締めて震えていると、クオン様が申し訳なさそうに言った。


「サラから父上に言ってくれないか。どうしても私との婚約は嫌だ、と」


私はその提案を二つ返事で了承する。

こんなに苦しそうなクオン様を見ていると、私も胸が痛んだ。


「これから陛下に会えるでしょうか?応接間でお待ちしていようかと」


「あぁ、聖女の訪問は無視できないから大丈夫だと思う」


クオン様に連れられて、私は王宮の中へと入っていった。



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