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聞きたくない裏事情


野草のおみやげをゲットした私は、ほくほく顔でご機嫌だった。

クオン様がやや呆れていたのは気にしない。

だって、互いに好かれたいと思っているわけじゃないから。


帰りはゆっくりと馬に揺られて、ぽくぽくと丘を下る。


「またここに来たければ連れてきてやろう」


クオン様がそんなことを言うから、私はついクスクスと笑ってしまった。


「何がおかしい?」


「だって、また一緒に来るようなことがあれば、陛下に結婚を決められそうだと思って。まさかそんな風に言ってもらえると思わなかったから、何だかおかしかったんです」


「それは……そうだな」


もしかして、顔合わせってことを忘れていたんだろうか。


「なぜ私が聖女とは結婚できないか、知りたいか?」


「いいえ」


「そこは知りたいと言っておけ」


暴君か。

聞かれたから素直に答えただけなのに。


あれ、でも私と結婚できないのではなく「聖女」と結婚できないってどういうことなんだろう。


中途半端に聞いてしまったから、聞かざるを得なくなってしまった。


「なぜ聖女とは結婚できないのですか?」


ちょっとは想像がつくけれどね。

権力が絡んでくることだろうとはわかる。


クオン様は、正妃の子だけれど第二王子。


この国では、先に生まれた王子が王位継承権も先になるから、側妃様の生んだ第一王子様が今のところ王太子である。


お二人の誕生日が四ヶ月しか違わなくても、先に生まれた方が第一王子なのだ。


「王族と同等に扱われる聖女を私が娶れば、王位争いの火種になる。私は王位に興味などない。兄上が立派な方だから」


「そうですね」


私も何度かお会いしたことはあるけれど、王太子殿下のアルディオス様はとても優しくて明るい方だ。兄弟仲ももちろん悪くない。


でも正妃様の兄であるリーベン公爵からすると、この状況はおもしろくない。


優秀で人望もあって顔もいいうちの甥を、なぜ王太子にしないのだ!って不満に思うのはわかるような。


クオン様がもっとろくでもない王子様なら違ったかもしれないけれど……。


「王位に興味がないことを示すために騎士団に入ったのに、彼らまでが私を推挙してしまう状態だ。ここへきてサラと私が結婚すれば、君まで聖なる力を持つ象徴として担ぎ上げられることになる」


野草を食べる王妃って。

もう笑うしかない。


世間のイメージと実体のギャップが凄まじい。


あれ、でも私とクオン様を結婚させようとしたのって国王陛下だよね。

疑問が浮かぶと、クオン様はすぐにそれを肯定した。


「母上が泣きついたんだろう。正妃である自分の子が、次期国王にふさわしいはずだとあの人は思い込んでいるから」


正妃様にとって、私という聖女は息子を王太子にするための駒ということか。


「陛下も、クオン様を次期王にと?」


「それがいまいち読めん。父上は国を乱したくないはずだから、兄上を王にすることで納得しているはずなんだが……。それに派閥の問題もあって、うちの」


「うわー!聞きたくないです!込み入った話を聞いちゃうと、巻き込まれるような気がするから聞きたくないです!」


私は慌てて耳を塞いだ。

するとクオン様はなぜかニヤッと笑って、私の左腕をひっぱる。


「聞きたくないって言ってるじゃないですか!しかも片腕で手綱を握って、危ないです!」


「片手で手綱を握るくらい普通だ。剣を持って戦えないだろう」


耳元でしゃべるから、耳や頬に吐息がかかる!

卑猥!なんかエロイですよ、クオン様!!


接触に慣れていない私は、いいように弄ばれているような気がした。


「サラ。君が私との結婚を望んでいなくて助かった。もし気に入った騎士がいれば、私が後ろ盾になり紹介しよう」


「まぁ、それはありがたいです」


クオン様は素敵な人だけれど、さすがに第二王子に嫁げるほどの気概が私にはない。

二人で過ごすのが楽しいから結婚もいいかもなって思い始めているのは、心の奥底に封印しよう。


「騎士でも文官でもいいだろうが、サラの条件は?」


「野草」


「は?」


「野草が食べられる人。一緒に採取に山へ入れる人がいいです」


私は学んでいた。


国王陛下には、言葉を濁して「貴族じゃない人」なんて言ったからこんなことになったのだ。

もう野草を食べることはバレてしまったのだから、開き直って本当の条件を口にしてみた。


するとクオン様は、真剣に私のお相手を考え始めてくれた。


「野草となると、王都ではなく辺境出身の騎士や地方領主の跡取りか……。狩猟大会で実績のある者であれば、山に入ることもできるだろうな。年齢は若くとも、有望な男であればサラを任せられるか」


なんていい人なんだろう。

自分でもこんな条件はバカみたいだってわかってるのに、真剣に考えてくれるなんて。


ほぅっと大きく息を吐きだした私は、感極まって呟いた。


「好き。ほんっとうに好きです、クオン様。ありがとうございます」


結婚しても王都に住むなら、身体にいい野草を差し入れますね。

あなたになら生涯お仕えしてもいいですよ。そんな気分だった。


しかし頭上から降ってきた言葉は辛辣だった。


「サラは阿呆なのか?」


「はぃ!?」


失礼な。なぜそんなことを言われなければいけないのだ。

見上げると、またもや不機嫌そうな顔をしているではないか。


のしかかってきた身体が重くて、あったかい。

私が横座りなせいで、抱き締められているみたいになっている。


緊張感がとてつもない。


「身の上とはままならないものだな……」


ぽつりとそんなことをクオン様が呟く。


「権力争いって大変ですね」


そう返せば、彼は脱力してふっと笑った。


「そういうことにしておこう」


馬に乗った私たちの影が伸びる頃、騎士団の厩舎場についた。

クオン様とはそこで別れ、きっともう会うこともないと思うと少しだけ淋しさがこみ上げる。


世話役の子らに足を洗ってもらい教会へと戻った私は、久しぶりにぐっすりと眠れるのだった。




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