私とあなたと野草の距離
本日はお見合いの日。
私はゆるやかなウェーブのかかった黒髪をきれいに梳いてもらい、宝石のついたカチューシャをつけ、クリーム色のワンピースドレスに着替えた。
普段は白地に水色のラインが入った聖女用のワンピースを着ているので、ドレスは着慣れていなくて動きにくい。
「とってもおきれいです!サラ様の緑色の目と同じ宝石が煌めいていて、黒髪によく映えますわ」
世話役の娘たちがはしゃいでいる。
今日は騎士団の施設に行くので、彼女たちも運がよければ青年騎士と知り合えるかもと喜んでいるのだ。
私がお見合い相手と二人で話をしているときは、きっとお茶をしながら世間話くらいできるだろう。
自分のことはともかく、聖女でもないのに教会に住み込みで働いていて異性と知り合う機会のない彼女たちには良縁を掴んで欲しいと思った。
王宮で陛下に挨拶をして、その後すぐに騎士団へ向かう。
私はやけに厳重な警備が敷かれた道を、少し緊張気味に歩いた。
「今日はどなたかご来賓でも?」
先導してくれる騎士に尋ねた。
彼はいつも見かける、国王陛下の側近である。
「いいえ、そのような予定はございません」
不思議に思うも、いつも通りと言うならそうなんだろう。
しかし騎士団に着いて、塔の最上階へと連れていかれた私は愕然とした。
警備が厳しい理由。
それは、私の見合い相手のせいだった。
「サラ……!?」
私を見下ろす、黒い詰襟の騎士服の男。
美しい薄青の髪に、キリッとした黒い目。
「ご、ごきげんようクオン様……」
第二王子のクオン様がそこにいた。しばらく呆気にとられた様子で、その後は不機嫌に変わる。
そして私は悟った。
あぁ、やられた……と。
互いの顔を見て、一瞬にして事情を察したのは彼も同じだ。
「父上か」
「はい」
きっと、クオン様も私が来るなんて聞かされていなかったのだろう。
私たちは、国王陛下にうまいこと言いくるめられて見合いすることになったのだ。
「貴族じゃない人がいいって言ったのに……!」
スカートの裾をぎゅうっと握ってそう呟くと、クオン様がすべてを察し、遠い目で言った。
「私は貴族ではないからな」
王族ですからね。
やられた。
貴族と王族以外でって言えばよかった。
「でも陛下は、騎士はどうかなって……」
「私は騎士だ」
そうだった。
だとしても!!
あんまりだ!
第二王子なんて庶民からすっごい離れてるんですけれど!?
地上と月くらい遠いですけれど!?
野草なんて食べませんけれど!?
「まぁ、座れ」
「はい……」
目の前のテーブルには、王城の料理人がはりきって作ってくれたスイーツがずらり。
いらん。
こんな気遣いいらん!!
私と野草の距離が遠ざかった気がした。