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誘拐されました


王宮から戻って五日後。


私はなぜか王都の片隅に拉致されていた。


はい、誘拐監禁っていうやつですね!!


聖女を誘拐するなんて正気じゃない。

でも、聖女は19歳から10歳まで、計20人いるので代わりがいないわけではない。


1人くらい死んでも大丈夫……って大丈夫なわけあるかー!!

私は死にたくない!!


「なんでこんなことに」


教会でいつものように朝食を摂り、みんなと一緒に礼拝をして、小さい子たちと刺繍をしていた。

そして、敷地内を散歩していたのだ。


すると突然黒ずくめの男たちが侵入してきて、私はあっという間に肩に担ぎあげられて拉致されてしまった。

鮮やかな手口。敵ながらすごい連携だったな……なんて思っている場合ではない。


だいたいなぜ私は拉致されたんだろう。

聖女を害しても、世界基準で見て利益がない。


奴隷として売る?

リスクが高すぎるだろう。


それに聖女が誘拐されたんだから、今頃は王宮騎士隊まで出動する大騒ぎになっているはず。

クオン様の知るところにもなっているだろう。


「はぁ……」


山小屋のような場所に閉じ込められ、椅子に座らされた私は後ろ手に縛られている。


もう六時間以上は経過していると思う。

窓の外が夕暮れになっていて、お腹もすいてきた。


夜のうちにどこかへ移動するのかな。

痛いのとか苦しいのとか嫌だな、とかいろんなことが頭に浮かぶ。


「クオン様」


ふと、口から漏れた言葉は思いのほか頼りなくて自分でびっくりした。

なぜここでクオン様の名前が出てきたのか。


その答えには、気づきたくない。


結婚できない相手、結婚してはいけない相手だ。


でもここで死ぬことになるのなら、最後にもう一度会いたいと思う相手でもある。


あ~あ、こんなときになってそのことに気づくなんて。


ぼんやりしていると、ふいに小屋の扉が開いて人が入ってきた。


剣をはいた屈強な男。黒髪に無精ひげの40代に見える。

私を攫った人物だ。

おとなしくしていた私を見て満足げに口角を上げると、彼は手に持っていたスープを床に置き、私の背後にまわった。


プツッと音がして、手を縛っていたロープが切れる。


「メシだ。聖女様が口にするようなもんじゃないが、食えるだけましだと思え」


スープには、野菜のヘタやカタバミなどの野草が浮いている。


うわぁ!!野草スープじゃないの!?

最後の晩餐にこんなものが……!!


私は涙を浮かべて、ありがたくスープをいただいた。


ベッドに座った男が引いている。


「なぁ、聖女ってもしかして、ロクにメシを食わせてもらってねーのか?その食べっぷり見てたら不憫になってきちまった」


おい、泣くな。

おまえが攫ったんだろう、かわいそうがるな。


鼻をすする男を横目に、私の食い意地は止まらない。

すっかり完食して、またおとなしく椅子に座る。


「ねぇ、私をどうするおつもりでしょうか?明日も生きていられる?」


この質問は、明日の朝も野草スープがもらえますかという意味である。

伝わるかどうかは不明。


「さぁね。俺はここまで連れてくるのが仕事だから。もうすぐ依頼主がここに来るから、そいつに聞け」


「依頼主?直接来るなんて……」


「本人は来ねーだろうな。お貴族様が来ることはねーよ」


依頼主は貴族なんだ。

意外にぺろっと情報を吐いた男は、眠くなったのかごろんとベッドに横になる。


彼は私を襲うという発想はないようで、そこはホッとした。

さすがにこの状態で勝てる見込みはない。


薄暗くなってきたので、勝手に立ち上がり窓辺に近づく。

そこにあったランプにマッチで火を灯し、部屋の中を明るい光で満たす。


うろうろしても何も言わないなんて、よほど舐められているんだな。

その通りだけれど!

逃げる勇気もないし、逃げてもすぐに捕まるだろうし、私はおとなしくします!


眠りこけたら逃げられるかもしれないけれど、そこまでバカじゃないのか寝ころぶだけで眠ったりはしなかった。

残念。


ヘタレな私はまた椅子に座り、救出されるのを待つことにした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 誘拐されて好物出されたwww
[一言] スペアが居るから攫った程度ではたいしたお咎めなしになるのか示しを付けとくためアレな感じの罰が下るのか
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