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【一話完結・読み切り版】元・七魔皇の契約者 ~加入したパーティーがハーレムパーティーになり、「お前はいらない」と追放したんだ、真の力を目にして今更戻ってこいと言うのは違うだろ~

作者: tani

思い付いた案を一気に書いた読み切り短編です。

 とある辺境に存在する岩で造られた一本の塔。そこには七体の魔族が住み着いていると噂され誰一人近寄ることはない。

 

 そんなある日。塔の最上階に設けられた大広間にて五人の異なる種族が円形の机を囲んで談笑をしている。

 そして、しばらくすると遅れて二人が部屋へ入ってきた。──そのうちの一人は片手に大きめの籠を持ちながら。

 

「よお、遅かったな、ノワ。……って何持ってるんだ」


 踏ん反り返りながら椅子に座る青髮の大柄な男が黒いドレスに身を包む女性ノワに問う。この場にいる全員の視線が籠に集中するなか、ノワは淡々と、しかし彼らが予想だにしていない言葉を言い放った。


「これか。ここに来る途中で拾った人間の赤子じゃ」


 彼女の言葉に目を見開いて驚きを隠せない一同。ノワの隣にいる白いドレスを身に包む女性だけは半ば諦めた表情であった。


 その状況下で代表して青髮の男が口を開いた。


「はぁ!? 赤子って……しかも人間の? どういう風の吹き回しだ、お前。たった一人で10万の人間の軍勢を滅ぼした〝黒の吸血鬼 クロノワール=ブラッド=アルカード〟が人間の赤子を拾うなんて。変わっちまったな」

「デューク、御主は何百年前の話をしている。今や多種族が共存している世の中なのじゃぞ。妾とて人間に対しての考え方は変わる。

 それにこの地は凶悪な魔物が多い。妾たちには怯えて襲いはしないが、この赤子には容赦なく襲いかかる。それを黙って見過ごすわけにはいかんじゃろ」


 ますます驚く者たち。それに構うことなくクロノワールは赤子を抱いて言葉を続ける。


「見よ、この妾に似た美しい黒髪。柔らかい肌、純粋無垢なこの表情。妾は今この腕で天使を抱いているのだぞ」

「あぅぅ」

「おお、どうしたどうした。御主は一人じゃないからの。妾が大切に育ててやるからな。どれ、まずは妾の名前を教えよう。クロノワールはちと難しいから……ノワと言ってみるのじゃ」

「ぅ?」


 首を傾げる可愛らしく声を漏らす赤子に自然と口角が上がるクロノワールだが、それとは別で少し落ち込んでいた。苦笑いをして彼女は呟く。


「赤子には無理難題じゃったか。仕方ない、もう少し大きくなったら教えることにしよう」

「うぅう? まんま」

「………!!」


 悲しそうに見えたのか赤子はクロノワールの頬を触りながら言葉を発した。それを聞いた彼女は一瞬呆気に取られるもすぐさま満面の笑みで喜んだ。


「まま……! 聞いたかブラン! この赤子、妾のことを母親だと言っているのじゃぞ。そうじゃ、妾が御主の母親じゃ」


 周りなど気にせず優しく揺らしあやすクロノワールだったが、その光景を見ている魔族には異様な光景であった。


「ねえ、ブランディッシュ。貴女の姉、隠居続きで頭がおかしくなったの? 今でもあのクロノワールが人間の赤ん坊ごときに魅了されてるなんて信じられないわ」


 露出の多い紫色の服装に身を包み、クロノワールの様子を眺めてそう言う女性。この中では一番人間に近い雰囲気だが明らかに人間とは違った雰囲気を出している。


「お姉さまはいつも通りでしたよ。ただ、あの赤ん坊を見つけた瞬間、急に興味を持ち出したのか「こんなところに一人なのだから捨てられたのだろう」と言って育てる気満々でこちらへ連れてきたのです」


 淡々と告げる女性──〝ブランディッシュ=ブラッド=アルカード〟だが、彼女も自分の姉がここまで威厳を感じ取れない姿になってしまったことに表情に出さずとも心底驚いていた。


「そっか。じゃあ、目を覚まさせるために殺す? 貴女も自分の姉がああなって調子が狂うでしょ。ああ、私の実験のためのモルモットにしても良いかも」

「ソフィア様、その発言は非常によろしくないかと。すぐに訂正をしていただかないと命の危険が──」


 ブランディッシュが言い切る前に大広間一帯の空気が変わった。そして、すぐにこの場にいる全員の背筋に悪寒が走る。言わずもがなそれはクロノワールのものだった。


「おい、ソフィア=ヴィオレット。御主、妾の前で今この赤子を殺す、そう言ったな。もしそれが本当であるなら妾が相手になってやろう。但し、楽に死ねると思うな。とことん痛め付けて死んだ方がマシと思えるぐらい苦しませてやるからの」

「じょ、冗談よ、悪かったわ。貴女とまともに勝負して勝てるなんて思ってないし、その赤ん坊を殺すつもりもないわ」


 額に汗を流し、焦りながら謝罪をするソフィア。その謝罪を受けて殺気を収めるクロノワールだが、


「ううぅう、おぎゃああぁああ!」

「なっ、御主の余計な一言のせいで泣いてしまったではないか! ほれ、怖かったな。だがもう大丈夫じゃぞ。何をしている、御主も責任をもって妾と共にこの赤子をあやすのじゃ」

 

 突然赤子が泣きわめき慌てるクロノワールはソフィアは呼ぶ。面倒事は避けたいと思いながら逆らったらどうなるか目に見えているソフィアは渋々応じる。


 だが、そこで異変が起こる。


 なかなか泣き止まない赤子が偶然ソフィアの頬に触れた時、人間の姿であったソフィアが紫色の光を放ち一冊の本へと変わり果てた。


「「「……………!!!」」」

「………いったい何が起きたと言うのじゃ………」 


 クロノワールはいまだに泣き続ける赤子を抱えながら不思議な出来事に思考を巡らせる。だが、そんな暇もなかった。


 地面に落ちた一冊の本がパラパラと捲られ、そこから無数の紫色の球体が四方八方へ飛んでいく。


 そのうちの一つが青髮の男デュークに向かう。

 直感で危険だと感じ取ったデュークは体を反って避ける。そのまま着弾した場所に視線を移すと壁は白い煙をあげて溶け出していた。


「おいおい、これって『毒滅(ヴェノム)』じゃねえか。何でソフィアが持ってる能力が発動してるんだ?」

「多分だけどあの本はソフィア本人なんだよ。だから能力も問題なく使える。でもソフィアを本にしたのはあの赤ん坊だから所有権はあの子にある。感情任せに使ってるから暴走してるみたいだね」


 毒の球体をアクロバティックに躱す黄色を基調とする道化師のような服を着た少年がそう考察する。


「暴走………じゃあ、止めるにはあの小僧を殺すしか…」

「駄目じゃっ! それだけは妾が許さん」

「……そう言うがこのままだとここも崩壊する。何よりノワ、お前が一番被害を受けてるじゃないか。早く離れろ。じゃなきゃお前が死ぬぞ!」


 クロノワールの体は毒の球体に打たれて所々紫色に変色している。それでも彼女は赤子を離さない。


「はぁ……はぁ……小娘の毒程度、妾の『呪殺(カース)』でいくらでも相殺できる。それよりも、この赤子は絶対に手離さん。ここで手離さば大切な何かを失う気がするのじゃ……」


 肩で息をしながらも笑顔を絶やさずにあやすクロノワールは既に一人の母親だった。


 そして、三十分もしないうちに赤子は泣き疲れて眠った。

 被害は甚大で大広間も随分とボロボロな姿になった。しかし一番の被害者はクロノワールであり、意識を保つだけで精一杯の状況にまで達している。


「お姉さま!」

「ちと無理したが妾も赤子も大丈夫じゃ。ソフィアの方はどうじゃ?」

「ソフィア様は魔力切れの症状が出ていますが体は戻っております。しばらく安静にしていれば魔力も回復していつも通り活動できるでしょう」

「そうか。にしてもあれはいったいなんじゃったのか……」

「クルル様は能力の暴走と仰っていましたが」

「まあ、詳しいことはこれから調べればよいか。それより、妾は少し疲れたから休む。用事があれば客室まで呼びに来い。

 ああ、言うの忘れておったが妾がこの赤子の母親であることは決まっておる。が、御主らにも育児は手伝ってもらうからの」

「ちょ、ちょっと待てよ」


 そう言い残し去ろうとするクロノワールを悲惨な大広間を一瞥したデュークが呼び止める。


「何で俺たちまで巻き沿いを食らわなきゃいけないんだ。育てるならお前一人でやれよ」

「別によいじゃろ。ここにいる七人は魔皇の座を次の世代に譲って暇を持て余している者たちじゃ。どうせやることもなく退屈な日々を過ごすなら育児を手伝え。その方が有意義な生活を送れると思うぞ」


 そう言い切り異論を言わせる暇を与えることなくクロノワールは赤子を抱えて大広間から姿を消した。


 ──そして15年の月日が流れる。


 

 ◆ ◆ ◆



「ねえ、クロード。今は私たち弱いからみんなとパーティーを組んでるけどさ、強くなったら二人だけで沢山冒険して、お金に余裕ができたらその……静かな場所で一緒に暮らしたいなって……」


 その日の夜、俺は宿の一室で彼女にプロポーズをされた。


 彼女は今いるパーティーの仲間であり、同い年の魔法使いアルマ=エウリュ。

 俺がこの街を訪れて右往左往している時に優しく声をかけてくれて、冒険者になるつもりだって言ったらパーティーにまで誘ってくれた女性だ。


 そして、日を追うごとに惹かれあって遂には恋人という関係にまで至った。

 いつかは俺からプロポーズをしようと思っていたが先を越されてしまったな。


「ああ、俺もそう思ってたよ。そのためには頑張って強くなって冒険者ランクをあげなきゃな」

「うん。もう少し居たいけど明日も早いから自分の部屋に戻るね。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


 挨拶を済ますとアルマは部屋を出た。そのまま一息挟んでベッドに横になる。

 月の光だけが部屋を照らす中、何も考えず天井を見つめていると誰かが横に座りベッドが軋む音が鳴った。

 

「まだあのような女と交際しておるのか? 御主にはもっとふさわしい女がいるのじゃぞ」


 頭を撫でながら告げるのは俺の母親であるクロノワール=ブラッド=アルカード。

 この人と血の繋がりがないことは知っている。顔も似てないし、雰囲気を少し違う。何より人間じゃない。唯一似ているのは黒髪ぐらいか。


 それでも俺をここまで育ててくれた大切な母親であることに変わりない。


「母さん、そう言うけどアルマも必死に頑張ってるんだよ。俺はそれを応援したい」

「まあ、好きにやらせると決めたのは妾じゃしあまり口を挟みはしないが……。そうじゃ、御主がソフィアに頼んでたものじゃ」

 

 母さんは俺に長方形の箱を渡してくれた。これは前にソフィア姉さんという魔女の格好をした女性に頼んでおいた魔道具だ。あの人に頼めば大抵の魔道具は作ってくれる。


 で、今回は音声を記録する魔道具を作ってもらった。ボタン一つで簡単に過去の話を聞ける魔道具は意外に有能だ。俺はすぐに音声を再生する……。


「……………はぁ……」


 約3分にも渡る音声だが俺は最後まで聞かずに溜め息をついてそのまま眠った。



 ◆ ◆ ◆


 

 翌日。アルマと他の仲間たちにも声をかけようと思ったのだが、先に冒険者ギルドに向かったと宿屋の店主に言われてしまったので俺は一人で訪れた。


 周囲を見渡して仲間の姿を探すがわりとすぐに見つけた。


 ソファーの中心に男が一人。その両脇を女の冒険者が挟む形で座っている。アルマは一番端に座っている。


 それにしても朝からこいつ──ゼペス=セルフィムは周りの目を気にせず女とイチャイチャして……。まあ、顔は整っているし実力も最近は急成長しているから男女問わず注目されているのは間違いない。


「ゼペス、何故俺に一言も言わずに宿を出た。俺たちはパーティーだ。集合時間も俺だけ違ったみたいだし、そういう連絡は早めにしてくれ」

「ああ、クロードか。別に良いだろ、どうせ今日で終わりなんだから」

「終わり? どういうことだ」


 俺の問いに半笑いでゼペスは答えた。


「男のお前はいらないんだよ。これからはこの四人で冒険者活動をする。最近の俺様の活躍は知ってるだろ。それに比べてお前はゴミだよ、ゴ・ミ。特に秀でているところもなくてただパーティーにくっついてるゴミ虫さ」


 ゼペスの言うことは否定できない。こいつの言う通り俺はどれも平均的に出来るだけで特に得意なものはない。

 まあ、それとは別でこいつはかなりの女好きだから男の俺が邪魔だった。だから近いうちに解雇されるのは予感していた。


「わかった。じゃあこれから頑張れよ、期待してる」


 簡単な別れの挨拶をして依頼が張り出されている掲示板に向かおうとしたが、誰かの手が俺の腕を掴んだ。その手はアルマのものだった。


「本当に行っちゃうの? 昨日約束したじゃない。強くなって二人で冒険するって。私からもお願いするからゼペスに頼もうよ。あんなんだけど私たちの実力で付いていけるのは彼ぐらいなんだよ。クロード一人じゃすぐに死んじゃうって」

「俺一人のせいでパーティーの雰囲気が悪くなるのは良くないだろ。それに()()()()()()()()()だと思ったし。俺さ、実は──」

 

 彼女に真実と大事なことを打ち明かそうとした時、冒険者ギルドの扉が勢い良く開かれて数人の冒険者が大声を上げた。


「た、大変だ! 狂乱行動(スタンピード)だ! 街の南側から魔物の大群が迫ってきてる!」 

「数はどれぐらいなんですか!」


 駆け寄った受付員が冒険者へ問う。


「わからねぇ。だが、この場にいる全員でも食い止められるかどうか……」

「そんなに……」


 受付員、冒険者共々表情は青ざめていた。無理もない、ここで討伐依頼を出されても死んでこいと言ってるものだ。残された選択肢は街を捨てて逃げるか、魔物の大群に立ち向かって街と心中するかの二つ。


「へっ、魔物の大群がなんだ。この辺の魔物なんか雑魚ばかりだろ。ビビることねぇ、まあ腰抜けばかりしかいないなら俺たちがサクッと退治してきてやる」


 意外だった。俺としては真っ先に逃げ出すと思っていたのにゼペスが名乗り出るなんて。

 感心する……いや、あれは魔物から住人を救って英雄にでもなろうとしている表情だ。感心した俺が馬鹿だった。


「若いのが言うじゃねえか。おいお前ら、こんな若造に言われっぱなしでいいのか!? 俺は行くぜ。この街には色々と世話になってるからなあ!」


 今の男の言葉で火がついたのか他の冒険者も皆やる気に満ちている。


「アルマ、そんな男放っておいてお前も行くぞ。心配しなくても俺が守ってやる」

「う、うん」


 力強く手を引かれ連れていかれるアルマと目があったがすぐに反らされてしまった。


 それにしても魔物の大群か。俺はどうしよう。

 ここで逃げ出しても誰も咎めない。そりゃ、ギルドの役員からは冷たい目で見られるかもしれないが、命あっての人生なのだから無謀な戦いに挑む必要も感じない。


 けどあの男の言葉、街に世話になったのは俺も同じだ。それを見捨てて自分だけ助かろうなんて腐った考えは生憎持っていない。


「仕方ない、最後の一仕事といきますか」



 ◆ ◆ ◆



 街の外に出ると広がっていたのは岩の壁だった。おそらく魔物を打ち漏らした時のために侵入を防ぐ砦なのだろう。

 しかし、完全には囲っておらず回り込まれたら侵入を許してしまう穴だらけの砦だ。


 壁の向こうに行くにも既に壁が出来ている状態だから遠回りしなくてはいけない。高さもそこそこあって登りきる前には戦闘が始まっているだろう。


「まったく、面倒だな……」

「なら俺が力を貸してやろう。ここをぶち抜けば良いんだな」


 ふと後ろから声が聞こえた。毎度毎度何処からともなく出てきて驚くが頼りがいのある俺の自慢のおじさんだ。


「お願い、デュークおじさん」

「少し離れてろ。ふんっ!」


 たった一突きの拳で頑丈そうな岩壁に大きな穴が空いた。

 相変わらずの馬鹿力。昔、デュークおじさんに素手で岩を壊してみろと言われたが母さんが怒って止めさせたんだよな。懐かしい話だ。

 

 そんなことよりも岩壁の先にいる冒険者や衛兵たちの視線が俺たちに集まった。まあ、あれだけデカイ音を出して壁を壊したのだから当然と言えば当然か。

 

 俺は彼らを無視して最前線まで歩いた。到着するとそこにはゼペスのパーティーが居た。だがそれすらも無視して前に進む。


「おい、なんでお前がここにいるんだよ。おい! 無視するんじゃねぇ!」


 肩を捕まれ無理矢理振り向かされた。俺にこんなことしたら母さんは激怒してゼペスはこの世にいないだろう。デュークおじさんは……興味がないようだ。この人、弱い人にはとことん興味がないからなぁ。


「なんでって、魔物の大群から街を守るためだろ。それ以外に何がある?」

「調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前なんかが街を守れる力を持っているわけがねえだろ」

「そりゃ一度も見せてないからな。まあ、俺の力ってわけでもないんだが。それより、この手離してくれないか。邪魔だから」

「ッ!──このッ!」


 頭に血がのぼったゼペスは拳を握り俺の顔面に向けて振ってきた。が、それは届くことなく一人の大男の手に阻まれた。


「くっ、なんだよ、抜こうにもびくともしねえ……」

「悪いな。クロードの顔に傷がついたらこいつの親がぶちギレて手に負えなくなるから勘弁してくれ」

「よくわかってるではないか、デューク。良かったな小僧。クロードに浴びせた数々の暴言を我慢していた妾もこのまま息子を殴ってたら我慢できず御主の頭部を破裂させるところじゃったぞ」


 突然ゼペスの後ろに現れた母さんが冷静に、だがそれは冗談ではない言葉を告げる。しかも母さん、目が笑っていない。母さんの重圧に耐えきれなくなったゼペスは腰を抜かしてしまった。


「はぁ、情けないのう。数分前は腰抜けだの言っておったのにこの様とは。妾たちがあれを片付けるから御主らはそこで見ておれ。ブラン、他の奴らも見ておるのじゃろ。さっさと出てくるのじゃ。派手にやるぞ」


 母さんが宣言すると何もない場所から一つの扉が出現した。重い扉を開けるようにゆっくりと開かれると俺の家族が全員出てきた。


「もう、ノワはん。わっちまだ軽くしか化粧をしてないでありんす」

「別に戦いに化粧など必要ないだろ」

「デュークはわかってないな。女性は何処に行く時も化粧をして自分を綺麗に見せたいんだよ。ねえアマネ、せっかくだから僕がメイクしてあげようか」

「クルルに任せたら絶対にピエロメイクになるよぉ。だからオレっちはオススメしないなぁ」

「騒々しいわね。まあ私はいつクロちゃんと会っても良いようにちゃんと化粧してるけど」

「じゃから甘ったるい匂いがするのか。おいソフィア。御主、最初はクロードを嫌っていたのに今や気を引こうとそこまで……。随分と変わってしまったのう」

「お姉さま、ソフィア様を煽るのは止めてください。面倒事が増えてしまいます」


 この七人が俺の大切な家族。


 赤の妖狐  アマネ=ゼウルージュ

 青の巨人  デューク=ブルース 

 黄の道化師 クルル=ジョヌリア

 緑の堕天使 ヴェルド=フィア=エルストック

 紫の魔女  ソフィア=ヴィオレット 

 黒の吸血鬼 クロノワール=ブラッド=アルカード   

 白の吸血鬼 ブランディッシュ=ブラッド=アルカード 


 以上が俺の家族の名前。捨て子だったらしい俺を母さん──クロノワール=ブラッド=アルカードが拾ってこの七人に育てられたのがクロードと名付けられた俺だ。


「それでクロ坊は誰を使うでありんすか?」

「母さんとブラン姉さんにするよ。でも他のみんなも力を貸してほしい」

「言われなくてもそのために来たからねぇ。じゃあオレっちは先に行ってくるぅ」


 ゆったりとした口調のヴェルド兄さんが羽を羽ばたかせて魔物の大群へ向かっていった。それに続くようにみんなも向かう。


「俺たちも行こうか。母さん、ブラン姉さん」


 俺の呼び掛けに二人が応じるとその体が光りだし二丁の片手用拳銃に変わった。


 これが俺の持つ能力『武装変化(トランス)』。魔力が高い生命体と契約をして自分の武器に姿を変えさせる能力である。


 正直なところ、俺も何故この能力を使えるかわからない。知っているのは赤ん坊の頃から使えることだけ。初めて使った時はソフィア姉さんを本にしたらしい。最初は自分が良かったと母さんが駄々を捏ねていたっけ。


 ……今はそんなこと良いか。それよりもやるべきことがある。


 赤の妖狐(アマネ)は天まで昇る勢いの火柱を作り、青の巨人(デューク)は大地を割って魔物の動きを封じる。

 黄の道化師(クルル)が十人以上に増えて魔物を仕留めていき、緑の堕天使(ヴェルド)が魔物を見えない力で上から押し潰し、紫の魔女(ソフィア)が毒で魔物の体を残さず溶かしていく。


 それでも打ち漏らした──というよりも俺にわざとまわしたのだろう──魔物はいた。


 俺は落ち着いて迫る魔物の脳天に目掛けて構えた二丁の拳銃の引き金を引く。銃口から放たれた黒と白の弾丸は次々と魔物を撃ち抜いていく。


『やはりこの辺の魔物は手応えがないのう』

「強すぎる魔物は生息してないからね。まあ、居たとしてもここにいる冒険者で対処できるかわからないけど」

『お二人とも、お話はそこまでです。上をご覧ください』


 武器化したブラン姉さんの言う通り上を向くと一匹の大型竜が街に向かって羽ばたいていた。これは流石に普通の冒険者が倒せる相手じゃないよな。


『どうするクロード。あの竜は街を襲う気満々のようじゃが妾たちの攻撃ではあの竜には届かん。他の奴らに任せるか? ヴェルド辺りに任せれば落として貰えるじゃろうな』

「いや、()()を使う。それだったらあの竜にも届くでしょ?」

『アレ、か。アレは我が子の肌を傷つけるから妾は気が進まんのじゃが……』

「お願いだよ母さん。それに派手にやるって言ったのは母さんじゃないか」

『うっ、……仕方ないのう』


 何とか母さんを説得すると二丁の拳銃の一部が俺の腕に刺さった。


 今からやろうとしているのは簡単に言えば〝同調〟だ。

 生命体には必ず魔力と呼ばれるものが体内に存在する。それが魔法を使う元になったり、循環させて怪我をした時の自然治癒の効果を高めたりできる。


 そして、魔力の質はそれぞれ異なる。特に母さんたちは〝魔皇〟という何か凄い偉い人だったらしい。引退したとはいえ今でもその力は顕在。だから普通の人間である俺が二人の魔力に合わせるのは困難なのだ。

 

 それをどうにか出来ないかと考えた結果、暴走しない程度に膨大な魔力を少しずつ体に流してもらい、その後は自分の魔力と結合させてどちらにも同調しやすい新しい魔力へ作り替えれば良いという答えに至った。


 最初は自分でも馬鹿な考えだなと思ったが、ソフィア姉さんが可能だと言って実際に出来てしまったのだから何も言えない。


 そうしている間にも二丁の拳銃が装甲のように肘まで伸びていき、完成したのは腕の面影などなく地面に着くほど長い銃口が目立つ異様なものへと変わった。


 俺はこれを『真装解放』と呼んでいる。


 そのまま二つの銃口を竜に向けて限界まで溜めた魔力を放出する。

 二色の砲撃に竜が反応するも遅い。ブレスで対抗するが通用せずその胴体を撃ち抜いた。

 竜はもう死んでいるだろう。何故ならあの砲撃には母さんが持つ能力『呪殺(カース)』で外側から、ブラン姉さんが持つ能力『破壊(デストロイ)』で内部から肉体にダメージを与えているのだから。


「やあん、クロちゃん凄いわ。あんなデッカイ竜を倒しちゃうなんて」


 どうやら魔物を全部倒したのかソフィア姉さんが後ろから抱きついてきた。別に抱きつくのは構わないのだが頭に胸を乗せるのは止めてほしい。首が疲れる。


「おい、ソフィア! 御主の駄肉をクロードの頭に乗せるでない! クロードが迷惑してるじゃろ!」


「あらあら、つるぺったんなお母様が僻んでるのか何か言ってるわ。ほんと、妹とは比べ物にならないくらいぺったんこよね。あっ、ちょっとだけあったかしら」


 元の姿に戻った母さんとソフィア姉さんが喧嘩を始めたが日常茶飯事だから気にすることでもない。 


 一件落着したところで後ろに控えていた冒険者たちを見ると案の定呆気にとられていた。たったこれだけの人数で魔物を全滅、しかも竜まで撃ち取ったのだからこの反応は予想していた。


「その………」


 アルマが何か言いたげな様子でこちらを見ていた。だが彼女よりも先に動いたのはあの男だった。


「やあ、凄いなクロード。お前をゴミ虫なんて呼んで悪かった。でも酷いじゃないか、何故これほどまでの力を隠していた? いや、積もる話は飲みながらでもしよう。もちろんお前の連れも一緒に」


 突然何を言い出すのか。さっきはいらないとか言ってたくせに急に態度を変えて。しかも、こいつの目は完全にアマネ姉さんのはだけた衣服に釘付けだ。

 どうせこの女好きはアマネ姉さんを酒に酔わせて弱ったところを襲うつもりなのだろう。しかし残念なことにアマネ姉さんは酒に物凄く強い。この人を酔わせるなど人間には到底無理な話だ。


「………卑しい目でありんす」


 どうやらアマネ姉さんもゼペスなんかに付き合うのはごめんのようだ。当然のことながら俺も今更こいつに付き合うつもりはない


「都合の良いことを言ってる自覚はないのか? お前の考えてることは大体わかってるんだよ」

「な、何も企んだりしてねえよ。ただ都合の良いことを言ってるのはわかってる。だが俺たちは今までやってきた仲だろ。お前を追い出したのは謝る。だからもう一度やり直さないか?」


 ここまで来ると呆れて物も言えない。実際にゼペスは今までの行いを水に流してもらえると思っているようだ。


 うん、阿呆なのだろう。というかハーレムはどうした。ハーレムが出来たから俺をパーティーから外したんだよな。だったらそれを貫いて欲しかった。


「俺をパーティーに戻したいのは上手く利用し手柄を奪って有名になりたいだけだろ。そのためなら男の俺が居ても些細な問題ってわけだ。言っておくが俺が今まで本気でやってこなかったのはお前がそういう考えを持つ人間と感じていたからだ」

「そ、そんなつもりは……」

「あるだろ。お前が好きなのは金と女と名誉だけ。知ってるんだぞ、前から他のみんなより俺の報酬が他より少ないこと。その金でパーティーメンバーだけじゃなく他の女とも遊んでいたことも。最近波に乗ってる冒険者様はやることが違うな。ははっ、尊敬するよ」


 皮肉を交えながら喋るがゼペスは反論してこない。代わりに散々馬鹿にされて怒っているのか表情が赤くなっている。図星を突かれて怒るなんてまだまだ未熟だな。


「ゼペス、さっき俺に「お前はいらない」、そう言ったよな。この際だからはっきり言ってやる。俺にお前は必要ない。楽しく女の子と遊んで冒険者を続けてろ。それがお似合いだよ」


 そう言い残しゼペスたちから去ろうとした時、


「クロードォォォォ!!」


 とうとう怒りが爆発したゼペスが剣を片手に斬りかかってきた。怒りに身を任せるなんて戦いにおいて最も選んではいけない行動だ。

 

 俺は哀れなゼペスに溜め息を吐いて振り下ろされる剣を最低限の動きで躱す。そのまま腹に蹴りを与えるとゼペスは膝を突いた。


「ぐほぁあ!」

「別れついでに教えてやるけど、お前の言う通り俺は特に秀でたところはない。でもそれは武術や魔術、それ以外も母さんたちから徹底的に教え込まれ全部平均的に出来て得意なものがないんだ。でも逆に苦手なものもない。ちなみに俺はあの街の冒険者の中で誰にも負けない自信がある。

 そういうわけで種明かしはこれでおしまい。生まれて初めてパーティーを組んだけどお前らじゃなかったら楽しかったかもな。それじゃあ元気でな」

 

 今度こそ別れを告げて今も喧嘩を続けている二人を止めようと思ったら次はアルマに腕を掴まれた。そういえば彼女にも言うことがあったんだよな。


「ねえ、クロード。この街から離れるなら私も連れてって。いつか一緒に暮らすって約束したよね。ここで離れ離れになるのは嫌だよ」

「ああ、ごめん、それは無理だよ」

「………えっ?」


 何を言われたのかわからない、そんな表情をアルマはしていた。まったく、白々しいにも程があるな。

 俺はソフィア姉さんが作ってくれた魔道具をポーチから取り出しアルマに見せた。


「これ、なんだかわかる?」

「えっと、魔道……具?」

「そう魔道具。で、これは音声を録音できる魔道具なんだ。実はさ、この魔道具を何日かゼペスの部屋に置いてたんだよね」

「…………」

「せっかくだしここで再生しようか。再生する場所は一昨日の夜辺りで良いか」

「……!! ま、待って!」


 何か聞かれたくないことでもあるのか。アルマは声を上げて止めようとするが、俺はお構い無しに魔道具のボタンを押した。


『ゼペス、会いたかったわ』

『俺もだ、アルマ。頼んでおいてあれだがアイツの恋人役も大変だろ』

『ううん、良いのよ。ゼペスのお願いだもん。それに私も真実を知ったクロードがどんな顔するのか楽しみだから』

『ハッハッハ、悪い女だな。昔からお前に騙され貢がせた男は本当のことを知って泣きわめいていたからな。あれは滑稽すぎて笑えてくる』

『ふふふ、それよりもゼペス。私、あなたのが欲しいの。だからお願い』


 そこから先は二人が体を求め合っている音声が流れるため一応アルマのことを考えて再生を止めた。


「というわけだが、何か言うことはあるか?」

「ぜ、ゼペスに無理矢理脅されてただけよ!」


 だから自分は悪くないと。よくそんな嘘を平気で吐けるな。潔く認めてくれればまだ良かったのに。そっちがその気なら俺もとことん言わせてもらうか。


「へぇ、それにしてもお前はあんな声が出るんだな。しかも似たような場面が10個以上あるらしいじゃん。流石に俺は全部聞こうと思わないがソフィア姉さんがつまらなそうに聞いてたみたいだぞ」

「だ、だから、それは違──」

「それにお前は俺の金を奪ってたよな。それをゼペスに渡してた。もちろん音声もある。ただでさえ少ない金なのに気付かないとでも思ったのか。まあ、あの程度の金ならあってもなくても変わらないが」

「…………」


 アルマも黙ってしまったか。本当に似た者同士だな。まあ、クズ同士お似合いの二人だし俺は良いと思うけど


「そして今回でゼペスより俺の方が有能だとわかって乗り換えようとした、そうだろ」

「そんなんじゃ……」


 涙目になっているアルマだが、それで許してもらえると思っているのだろうか。だったら考えが甘すぎる。


「泣いても無駄だぞ。それに俺は最初からお前のこと好きでもなかった。最初から気付いてたんだよ、パーティーに誘ってくれたあの日から」

「じゃあ、嘘ついてたの? 酷い……」

「酷い? どの口が言ってるんだ。お前だって嘘をついて騙してたじゃないか。うちのクルル兄さんが面白そうだからってあの日ゼペスの部屋を観察してたけどその時だって体を求め合ってたみたいじゃないか。

 ゼペスと恋人関係だった。なのに俺に告白してきた。この時に確信したよ。「俺はこいつらがただ楽しむためだけに誘われたんだ」って。だったらこっちも乗ってあげようって決めたのさ。でもアルマとの恋人ごっこはそれなりに楽しかったぞ。それで、お前は楽しかったか? ああ、俺の絶望した顔が見れなくて楽しめなかったか、悪いな」


 他にも色々言いたいことはあるけどこんな女に時間を費やすほど俺も暇じゃない。だがアルマは引き下がらなかった。


「……もうしないから。これからはクロードだけしか愛さないから。だから──」

「信じられると思うか? 自分たちが楽しむために騙して、金まで盗み、役に立たないと思えばすぐに男を乗り換える。俺は都合の良い人間じゃないんだ」

「…………」

「お前の生き方に口出しするつもりはないが良いところで止めておかないとそのうち恨みを買って刺されるぞ。まあ、刺されたら刺されたで良い教訓になると思うけど。偽りとは言え恋人役だった俺からの忠告だ。じゃあアルマも元気でな。この魔道具に入ってる音声はすぐに消しておくから安心しろ」


 結局母さんの言う通りになったよな。

 実はアルマと初めて会った時に母さんが「この女はクズじゃな」と言って俺から引き離そうとしていた。実際クズだったから母さんの目は正しいんだけど。


 まあ、俺は人間やそれ以外の種族が住む国に初めて来たわけだし、世の中にはあんな人間が居ることも知れた。これも良い経験になったから今日までの生活も悪くなかったと思う。


 さてと、あの街に居座る必要もなくなったことだし母さんとソフィア姉さんの喧嘩を止めて次の街にでも向かうとするか。


如何だったでしょうか。

自分では綺麗にまとめたつもりですが最近の短編事情を見る限り賛否両論があると思います。


ちなみに連載させる気はなく、これで終了です。

気が向けば続編のようなものも書くかもしれませんが、自分ではこれですっきり収まってると思うので。

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― 新着の感想 ―
[一言] たのしく読ませていただきました。どうぞこれからもよろしくお願いいたします(^^) …あえて難があるとすればクロードくん、ご家族のスペックが高すぎて、将来恋愛できるかどうか…女性不信にもなって…
[良い点] 短編詐欺ではなかった
[一言] 結局金銭的に損をしただけで無意味な時間(パーティーとの時間)を過ごしただけだよね?何の為に一緒に居たんだろうか?
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