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空色の瞳に魅せられて…  作者: 利川沙夜子
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雨宿り

よろしくお願いします。

「困りました。雨が止みそうにありません…」

両親が営んでいるお店のお手伝いで、マーチ領騎士団駐屯所へ配達の帰りに、私は近道しようと公園の中を歩いていたら、突然、雨が降りだしました。

ちょうど東屋があったので、雨宿りをし始めたのはいいけれど、だいぶ時間が経ちました。


「弱まる気配もないですし、濡れて帰りましょうか?」

「そんなことをすれば、風邪を引きますよ。」

誰もいないから、と声に出した独り言に返事があったので、とてもびっくりした私は、声のした方へ勢いよく振り向きました。

そこにいたのは、艶のある黒髪にとても綺麗な空色の瞳をし、ものすごいイケメンだけど、鋭い眼光と冷たい言動のため『氷の騎士様』と呼ばれているライン様でした。


彼は1年前にこのマーチ領へ、赴任してきた王国騎士団の騎士の方です。マーチ領は友好国であるデルト国との国境があり、マーチ領の兵士団と一緒に警備しています。

主な仕事は、密入国や闇取引などがないかを調べたり警備したりと王国に関する事のようです。


ライン様は、私の両親が営んでいるガンラ商会へ、たまに備品の注文書を届けに来ます。いつもは、同じ騎士団に所属している私の次兄ディアンが帰宅ついでに持って帰ってくるのです。

二人は騎士訓練学校の同期生で、私より4つ上の19歳です。なんでも、高位貴族のライン様と準貴族のディアンは、寮で同室だったそうです。ディアン曰く、『何かとライン様の世話をしていたら、くっついてくるようになった』らしいです。


「こ、こんなところで、ライン様は何をしていらっしゃるのですか?」

戸惑いつつも、ライン様へ話しかけなければ…と思い、聞いてみました。

「その質問は、リディアさんへお返ししますよ。荷受けした隊員が、注文書をリディアさんに渡し忘れたと報告を受けたんです。ちょうど非番のディアンへ用事がありましたので、ついでに請け負ってきたのです。ところが、マーチ商会へ行く途中、グラスがリディアさんの匂いがすると教えてくれたんです。きっと、リディアさんのことだから、立ち往生しているのではと思いましてね。」

「あはは…なんだか、すみません。」

やはり、ライン様はいつも通り冷たい感じの言い方で、答えられました。


グラスさんとは、ライン様の従魔の名前で、オスのアイスパンサーです。

アイスパンサーは、氷山のような淡い水色をしたとても艶のある綺麗な毛並みの魔物です。

従魔は、契約者以外にはなつかないのですが、たまにブラッシングしてほしいとすり寄ってこられると、悶えてしまうほどの可愛いさで、もちろん、しっかりとブラッシングさせてもらってます。


「あれ…?道はここから距離ありますよね?しかも、馬車の中まで、匂いがしたんですか…?それって…」

私の匂いって、そんなに臭いのでしょうか?静かに、ものすごくショックを受けている私に、気付かないライン様は左手を差し伸べてきました。

「さぁ、リディアさん、一緒に馬車で商会へ行きましょう。ディアンとも約束をしているので、急いでください。」

ライン様の左手を見つめたあと、私は右手の傘へ視線を移しました。しげしげと見たあと、あれ?と私は思って、つい疑問を口にしてしまいました。

「傘が1本、ですね…?」

「あぁ、馬車には1本しか置き傘がなかったのですが、結構大きいですから、二人で入っても濡れません。」

と、いうことは……相合い傘になりますね…?と思い、傘を見つめたまま動かなくなった私を気にすることなく、ライン様は私の右手を掬い上げて、さっさと傘をさして、馬車へエスコートしてくました。


私は家族以外の男の人にエスコート慣れていないので、ライン様と右半身が密着してるのに気付くと、緊張してきました。

いや、意識してはダメです…!ライン様は4つ上のお兄さんです。きっと15歳の私は、妹のように思っていらっしゃるでしょう…。


密着したままでいるのは、私の心臓に悪いので、私は少しずつライン様から離れようとしてみましたが、ライン様の一睨みされてしまいました。

ちょっとびくびくしている私の右手をにぎる、ライン様の力が少し強くなり、私はますます緊張してきました。

意識すればするほど、どんどん手汗が出てきているような気がして、私は(手がベタベタする子だなんて思われたくないです!手を離したいけど、ライン様から苛ついているような雰囲気が出てるしどうしたらっ!)と思考の渦に落ちていました。


気がつくと、いつの間にか、私たちは停まっている馬車に到着していました。私たちが来るのを待っていた御者さんが、扉を開けたので、ライン様は先に入れるよう、私を誘導しました。

先に入った私は、ライン様もすぐに入れるよう、奥に進み、空いている座席に座りました。


向かい側には、私の匂いを嗅ぎ付けてくれたグラスさんが、きちんとお座りしていました。その様子に、主従は似るのだと感心しつつ、私はグラスさんに挨拶をしました。

「こんにちは、グラスさん。お久しぶりです。」

『あぁ…。リディアは相変わらず、間抜けヅラだな。』

「ま、間抜けですか…?それより、グラスさんが気付いてくださって、助かりました。でも、私って、そんなに匂いますか?」

『匂い?…ワレは、リディアの魔力を感知し、それを主に伝えたけだ。』

「えぇ…?」

ということは、臭かったんじゃなかったんですね?ライン様、変な言い方しなくても…と思っていると、ライン様はグラスさんの隣に座り、御者さんに出すよう指示を出しました。


「そういえば、リディアさんは来年から通われる学校を決められたのですか?」

ライン様からの質問に答えるため、私は顔を向けました。

やっぱり、ライン様の瞳はとても綺麗だなぁ、と思ったあと、学校の事を考えます。


この国では、平民は7歳から10歳の3年間に基礎学校に入ります。そして、11歳から15歳までは見習い仕事や訓練などをし始めます。貴族は、家庭教師を雇い、15歳までに勉強や作法など勉強します。

その後、平民も貴族も同じで、16歳から18歳の2年間で、しっかりと身に付いているかの確認や、さらに勉強する為の騎士訓練学校、仕官訓練学校、魔術師訓練学校、各種専門学校、女学校などの中から学校を選び勉強をします。


女学校は、貴族や平民のほとんどの女の子が入り、階級に合わせた花嫁修業をし、卒業出来れば、結婚して家庭に入ります。

花嫁修業は後々必要ではあるので、女学校へ入っても良い気がしますが、今の私には婚約者がいないので、卒業後は家の仕事をすることになると思います。


男性が主に進む騎士訓練学校は入るつもりはありません。女性騎士もいらっしゃいますが、小さな頃から訓練していないとついていけないとのことです。

また、魔術師も小さな頃から勉強をしなければならなりません。もちろん、私は魔術の勉強をしていないから、魔術師訓練学校へ入れません。

あとは、王宮で働くための仕官訓練学校と、商人や医者、侍女、料理人など様々な職業の専門学校へ入る場合ですが、私は特に何かしたい事を見つけていないので、迷っている状態です。


私の両親が営んでいるマーチ商会の跡継ぎは、長兄ジュリアンとなっていますが、商人の知識はそれなりにありますから、商人の学校で勉強し、どこかの商会へ嫁ぐ時には役に立ちますからね。


ちなみに、父親はマーチ領領主でもあるマーチ伯爵家の次男坊。

母親は、王宮で財務相の任についているアンドラ侯爵家の次女。

マーチ領伯爵家では、領民から徴収した税金は領の運営に使い、マーチ伯爵家の出費は、主に事業などで得た収入を使うことと決まっています。

そのため、マーチ伯爵家の収入源の一つとして、マーチ商会を両親が営んではいますが、私たち家族は王家主催の舞踏会など出席が許される準貴族として登録されているのです。


いろいろと考えていたので、いつの間にか俯いてしまった私は顔を上げ、ライン様の顔を見ました。

「まだ、決めていないんです。何になりたいとか、好きな事は何かとかいろいろと考えてはいます…。それに、アンドラ家のお祖父様が、王都へ来ていろいろな専門学校を見学してみたらどうだ、とおっしゃってくださったんです。ちょうど、母が仕事で来週から王都へ行く事になっていますので、私も一緒に行く事になっています。」

「…そうですか。あぁ、着きましたか。では、降りましょうか?」


ライン様がそう言った後すぐに、扉が開きました。外には、御者さんから聞いたのでしょう、店員のジャックさんが心配顔をして立っていました。

「ライン様、グラス様、いらっしゃいませ。また、リディアお嬢様をつれてきていただき、ありがとうございました。ディアン坊っちゃまが、中でお待ちですので、どうぞお入りください。」

そう言ったジャックさんは、先にライン様達を店内へ案内しました。

そして、最後に降りた私に向き直って、眉間に皺を寄せながら言いました。

「リディアお嬢様、心配しましたよ?配達は終わっているはずなのに、帰って来ないのですから…」

「ごめんなさい、ジャックさん。雨が降ってきたから、公園の東屋で雨宿りをしていたところ、グラスさんが気付いて、ライン様に連れてきてもらったのです。」

「とりあえず、ご無事で良かったです。リディアお嬢様、このあと、奥様のお部屋へ行ってください。来週の事でお話があるそうです。」

「心配かけてごめんなさい。荷物を置いたら、向かいますね。」


私は、ジャックさんと別れてから、自室に荷物を置き、急いで母の部屋へ向かい、ドアをノックしました。

「お母様、リディアです。」

「お入りなさい。」

母の部屋に入った私は、ソファーに座りました。

書斎で仕事をしていた母も、私の真向かいのソファーへ移動し座りました。

「ずいぶんと遅かったのね、リディア?まぁ、何事もなくて良かったわ。」

「ご心配をおかけして、申し訳ございません、お母様…。」

「こんなことがないよう、追々、対策は考えるとして…。リディア、来週に王都へ行く件だけれど、アンドラ家のお祖父様たちから、必要な物は揃っているから身一つで大丈夫、って手紙が届いたわ。休息日に転移門で移動するから、リディアが必要と思った物を持っていくよう、準備をしてね?何かわからなければ、夕食の時に話しましょう?」 

「わかりました、お母様。」

私は、母の仕事の邪魔をしないよう、部屋を出ました。

読んでいただき、ありがとうございました。

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