パパは世界で釣りをしてる
言葉を覚えて数年。
社会に飛び込んだことは0。家族の輪、友達の輪で過ごしている子供にとってはそこだけが世界。
「僕のパパは、世界で釣りをしているパパだそうです」
誰でもやった事のあるはず授業。自分の家族についての作文、その発表会。
お恥ずかしながら、そんな話しに限って授業参観、学校見学などが行なわれているものだ。
クラスのご両親が見ている前である。
「でも僕は、パパとは3,4回しか会った事ないです」
「!?」
いきなり過ぎる展開に、教師も後ろの親御さん達も言葉が出ずとも、ビックリである。
「ママにパパの事を聞くと、パパは世界の漁師になって家を出てるそうです。半年に一回、写真とお土産が送られてきています」
なんやそのパパさん……。
そう思って聞いている親御さんと教師に対し、子供は外国に行っている事を証明するようにその写真も持ってきてくれた。外人さんと一緒にマグロを釣ったり、外人さんに囲まれたり……
「パパは本マグロを釣ったり、海で泳ぐ鯨を撮ったり、エジプトのピラミッドを撮ったりしています。半年以上も船の中で生活してるそうです」
「す、すげーー!」
「世界を旅してるパパってカッコイイーー」
世界旅行気分で聞いていると凄く思えるのだが、
親が見てみたそのパパさんの表情はどことなく、ゲッソリしてらっしゃる。そもそも体の付き方がガッチリとはしているが、漁師のそれには及ばず、見た目からしても漁師の格好やそれをしてきた姿じゃない。
かなりヤンチャな方だとは分かるし、どーしてそんな事をしているのかも想像ができてしまう。いや、確定ではないけど……。子供とは罪を知らないものだ。知らないふりをしてあげるべきだ。
「いつか僕もこんな。パパのような人になりたいし、パパと一緒に暮らして、漁師の事を教えてもらいたいです」
ええ子なんですけど、この子。
「でも、一生懸命働いているママの手助けもして欲しいのに、ママは別にパパは帰ってこないでいいって、家計簿をつけながら言っていました。冷たいママです。パパとも冷たいままです」
駄洒落いれんな!しかも、めっちゃ笑えない。
「パパとママも、僕の友達みたく仲良くなって欲しいって、僕は思ってます。1年1組、梶間サトシ」
パチパチパチパチ
内容はあれであるが、とても綺麗に纏められた家族の紹介。いや、家族なんて色々いるため、一般から外れることも仕方ない事ではあるが……。
◇ ◇
「梶間さん、搬入に来ましたー」
そんなこんな事を言っていた梶間くんの現在。
「いつもありがとねー、山口くん」
「まー、こんくらいはな」
寿司職人になっていた。なんやかんやで後に家族事情を知った彼であったが、女手1つで育ててくれた母親の背を見てきた結果、真っ当な職人さんの道に進んだ。
その筋一本で生きていくのにはこの道も難しいが、楽しい人生である事には変わりない。
「しかし、大変だろう。職人ってのは……。俺達のような運ぶ仕事はいくらでも仕事があるけどさ」
「そうかな?料理人だって足りていないよ」
「でも、腕だろう?なんでその道を選んだんだ?」
知らない人からすれば、誰かがやっている当たり前の仕事に敬意を抱く事もある。
「俺の父が漁師だったのがあるかな。たまに日本に帰ってきた時、うんめぇー寿司を振舞ってやりたくてね。日本の飯って言ったら、寿司じゃん?」
「梶間さんの父親って外国で働いてるのか。さっすが、勤勉な寿司職人さんは生まれも違うな。俺と大違いだ」
「ははははは。そう言うと、そう思うよね?」
元ネタの話なんですが。
4年前ぐらいまで、チャラついた旦那さんが配達地域におりまして。たぶん、ヤクザ関連の方だと思います。そんな曰くつきの方なんで、オラつき具合はハンパないんですよね。クレーム多発でした。
でも、奥さんは普通どころか良妻で、2人の子供を育児してるんです。こっちなら、荷物渡す時はまったく困らないんですよね。
ところが先日、
旦那さんの荷物を届けに行ったら、
『旦那はインドネシアの沖に行ってるはずだから、要らないです』
と言って、荷物の受け取り拒否をされました。
この荷物を出してる方も、旦那さんなんですけど……。
まだ、離婚はしてないみたいですけど。そういや、2年ぐらい旦那の顔を見てないので、なんか遭ったのは事実だな、と。
ヤクザの人も大変だな~って、思いましたね。
まぁ、自分の想像が多いですけどね。