第8話 天使から名前呼びされました最高。
短いです
後半は兄であるシン視点です
「お姉さん、お話しいいですか?」
教会から出たあと。
ノアが一方的に話してくるのに私が答える、という行為の途中口を挟んできた子がいた。
ふわふわとした金髪に、青い瞳。ああ、ルフトだ。この世界ではあまり接点がなかったけど、ゲームではたくさん見てたから間違うはずがない。
天使。
見ているだけで癒される、ってこういうことなのか……。可愛い。撫で回したい。
「何かな」
「あの……ね。お姉さんと、お話しがしたいです」
なるほど。ノアは居て欲しくないと。それは私も大歓迎だ。
「わかった。じゃ、さよなら。私はこの子と話すから」
「そうですね。では、また」
笑顔で手を振り、去っていくノア。表情には出さないけど心の中は大荒れです。全ての行動が様になる男。はぁ〜これがイケメン。
アレクも兄さんも攻略対象でイケメンで慣れてるはずなのに、なぜこうも違うのか。
「お姉さん、僕のこと知ってる?」
去っていくノアを見ていた私の服の端を引き、ルフトがそんなことを言ってくる。
それはどういう意味での知ってる、なの?この世界で知ってる、という意味?それとも……。
「僕はルフト、少し前からシーナお姉さんと一緒にこの村でお世話になってます。お姉さんとは話す機会がなくて……シーナお姉さんと、仲が良くないみたいだったから」
ああ、そういう意味か。よかった、びっくりした。
「……そうだね。確かにシーナとは仲がいいとは言えないかな。でももう私は彼女に関わるつもりはないから、安心して」
一緒に逃げ出したシーナのことを慕っているのは当たり前のことか。いいな、こんな天使に慕ってもらえるなんて。私も好かれたい。
いや、ルフトに近づいて、もしシーナが転生者だとして。何て言われるかわからないし、何をされるかもわからない。下手なことはやめておこう。
「そうなんだ!でもね、あのね、最近、しーちゃんおかしいの。急に声を上げたり、跳ねまわったり、忍び足の訓練!とか言って変な動きしてたり……あ、これは家の中でのことだけど。外では、お姉さんを見かけるたびに隠れてるの。だから……お姉さんが、何かしてるんじゃないかな、って。…………僕、あの、聞こえちゃったんです、お姉さんの使う魔法が、闇だ、って……」
しーちゃん。しーちゃんとは。シーナのことか。だからしーちゃんか。ずるい。
変な行動は家の中でも、なのか。忍び足なんてどこで使うつもりなんだろう。家に忍び込んで……私に何かするつもり?今までの仕返しとか……や、やだなぁ、まだ私そこまで酷いことしてない……。でも私を見かけるたびに隠れるって。そういうことなんじゃ。
で、そんな変な行動をシーナがするから私が魔法に掛けたんじゃないのか、って心配なんだね。天使に心配されるなんて。ヒロイン特権か……。
「私は、自分の魔法を他人に向けて使ったことはない。というより、人の行動を変えるような魔法を私は使えない。だからシーナの変な行動は私のせいじゃない」
「そ、そうなんですね……ごめんなさい、疑って。でも、そうでした。よくよく考えればしーちゃん前から変な所あったの。逃げて森で迷ってた時も絶対大丈夫、人に助けてもらえるって確信した顔で言ってたし、ここに来た日疲れてるはずなのにずっとニヤニヤして、結局寝てないみたいだったし。……ねぇ、しーちゃん、頭の病気ですか?」
「ぶっ……」
真顔でそんなこと言わないでくれ。吹いちゃったよ。
でもこれでシーナが転生者だっていうのはほとんど当たりと言っていいよね。しかもこの世界のことを知ってるってことは、地球の、日本から来てる。なら転生者同士仲良くなりたかったけど……今までのことを考えたら難しいか。
やっぱり、敵だって思われないように接触は避けないと。
「元々そういう変なことをする人もいるから。優しく見守ってあげることが大事。しばらくしたら普通になるはずだよ」
たぶん。1年くらいで。その頃には結ばれてるんだから。私がどうなるかが問題ではあるけど。
「そうなんだ……。良かった!あの、お姉さんのこと、名前で呼んでいい?」
名前!知ってくれてるの!?名前呼びしてくれるの!敬語もだんだん取れてきてるし、嬉しい!
「もちろん」
「ありがとう!ローズさん」
がっは……。期待していただけにさん付けは衝撃が大きい。もっと、気軽にローズちゃんとか、ローズお姉さん、とか呼んでいいんだよ?ていうか呼んでくれ……。お姉さんより遠くなった気がする。
「さ、さんは付けなくてもいい」
「えっ。でも、ローズさんとそんなにお話ししてないから……図々しいよ?」
待て。それはどういう意味だ。私が図々しいのか、自分に対して言ってるのか。
「ローズお姉さん、はどう?お姉ちゃんでも可」
「お姉ちゃん……。うん、ローズお姉ちゃん。お姉ちゃんがいいって言うならそうするね。これからお姉ちゃんのこと見かけたら、僕は話しかけてもいいかな?」
「大歓迎。よろしくね」
●●
天使との邂逅を果たした私は、ご機嫌で部屋に罠を仕掛けていた。
いつくるかわからない敵のため。
闇の結界……ふふふ。その結界内に入る者は足取りは重くなり、息は苦しくなり、手足が動かなくなり、体は衰弱していき、やがて死に至る……。というのではないけど。
外から無理に入り込もうとする者に対して反応するようなもの。窓とか。自分には作用しないようにして、と。
「よしっ」
これで大丈夫。窓から忍び込んできた人は、張られた結界に絡みつかれて身動きが取れなくなる。魔法を阻害する効果もあり。部屋のドアからは流石にないと思うから付けてない。
闇の魔法って便利。
さて、と。今日はもうすることないんだよね。アレクの婚約者であり、次期村長の妻になることが決まっていた私は、村での日々の仕事をほとんどせずに勉強のみをすることを許されていた。魔力量が多くて、魔法の才があるってのも理由かな。村の状態がそこまで厳しくないのもあるか。
でもそれも終わりか。アレクは私と夫婦になるなんて嫌だろうし、私も嫌。
兄さんが王都に戻る時に連れてってもらおうかなぁ。ローズの顔は美人の部類だし、そこで新たな出会いを……ね。
あと数日したら兄さんはまた王都へ戻ってしまう。騎士なんだしずっと休んでられないよね。でもまたすぐ帰ってくるはず。ゲーム通りなら。王都で流行っている病に罹ってしまうから。自分でも治せず、光魔法の使い手以上の医者なんていないから療養、って名目でまた帰ってくるんだ。
でもそれは嘘で、兄さんはシーナが心配で嘘を吐いてまでして戻ってくる。これがヒロイン。
兄さん、剣も魔法も自由自在で凄いから。強いの。そんな騎士様に心配されるヒロイン……いいねぇ。シーナだって顔は可愛いし、美男と美少女でお似合い。いや、シーナはアレクが好きなんだよね。だったら兄さんとくっ付くのはないか。……あれ?アレクは好きじゃないとか言ってたような?
そうだ、結局誰が好きなんだろう。なんであそこまでアレクとくっ付いてたんだろう。
謎だ。
「ローズ、ご飯だって」
「兄さん。今行く」
もうとっくに日が暮れてる。早い。
明日からは自分が何をできるか考えないとなぁ。
●●
最近妹がおかしい。
この俺が生まれた村に久しぶりに戻ってきた時は、普通だった。普通の、年頃の女の子らしいような感じ。幼馴染みであり、子供の遊びではなく、きちんと結婚の約束をしたアレクへ恋する乙女。
俺が連れてきた女の子、シーナと仲が良くないのはわかっていた。シーナはアレクへ近づき始め、アレクはローズではなく、シーナを好きになってしまった。
シーナは可愛らしい子だ。よそ者を嫌うこの村でそれを実感しているのに笑顔を絶やさず、頑張って生活している。
変わったのはつい最近。
アレクとの将来を捨てると言い出した。
あんなに大好きだと言って、近寄るシーナへ牽制をしていたのに。今じゃ何も言わない。
何があったんだろうか。
滅多に自分からなんて行かなかった教会の書庫にも行くようになったし。
魔法を部屋で使っているのは何となくわかった。俺の光属性の魔法は、反対の属性である闇の魔法に反応する。お互い反発するように。
何の魔法かはわからない。闇属性の魔法の使い手は俺の光属性と同じくらいに希少で、出会えることはないから、闇の魔法がどんなものなのか俺もまだよくわかっていない。
変なことを企んでいなければいいけどな……。