第7話 天使と女神と青い奴…くっ!
シーナ視点です
短いです
ローズが、私の最推しが。
悪役の手に渡ろうとしている……っ!!
建物の影からローズを見守る私の目には、ローズとその隣に立つ男が見えていた。
「では、また明日」
「もう会いたくない」
何を話してるんだろう。とっても気になるな、私!
ああ、ローズ。ローズちゃん、ローズ様。お願いだからその男に落ちないで、ローズルートの悪役なのぉ〜!
……ごほん。
ローズルートに行けば悪役は居なくなる。なんてことはなく。ローズルートに行く前にアレクへの好感度を1番に上げているから、他の攻略対象はほとんど干渉してこない。
でも、私とローズの幸せへの道を阻む者がいる。それが、旅人のノア。人畜無害そうな顔して、このっ!くっそぉ!ローズルートへ入れば難易度が桁違いに上がる。同性だからか、隠しルートだからか。それはわからないけど、少し間違えればローズは他の男に取られてしまう。
悪役、っていうのは私からしたらローズを取る者は全部悪役と同じだからで。正規ルートのローズのようなことはしてこない。ただ私がそう思ってるだけ。
このまま私がローズルートでハッピーエンドを迎えられなければ、ローズはあの男と一緒に村から出ていってしまう!絶対阻止しなきゃ。
最近良く会ってるみたいだし……教会で何してるんだろう。
確か、教会には書庫があったはず。外から来た私は入ることが出来ないのに、なぜあの男は入れている……!私だってローズと書庫で2人っきりになって本を読みたい!!
「ねぇるーくん。ちょっと頼み事していい?」
「なぁに、しーちゃん」
柔らかな金髪の可愛らしい男の子。ルフト。人攫いたちから一緒に逃げてきた子で、私より2つ年下。だから13歳か。天使。可愛い。
ゲームではなかったことだけど、私たちはるーくん、しーちゃんと何故だか呼び合っている。天使と仲良くなれるのはいいんだけど、私がお近づきになりたいのは銀の君なんだよね……。
「あのね、あそこに銀髪の子がいるでしょ?あの人を、あの青い奴から引き離してきてほしいの。できたら何話してたのかも知りたいなぁ。……あ、私が言ったから、って言っちゃダメだよ。青い奴から離して、少しお話ししてきてくれないかな」
るーくんならこの可愛さで魅了してくれるはず。……あれ?これでローズが魅了されたら意味なくない?
「あの人、しーちゃん虐めてた人だよね?なんでそんなことするの?」
「虐めてた人じゃないよ。私が、あの子の大切なものを取ろうとしたから注意されただけなの。私がいけないことをしたんだよ。ね、お願い。あの子は、とぉ〜ってもいい人だから。……あ、るーくんでもローズちゃん取るのは許さないから取ったら覚悟しておいて」
「ひぃっ……!わ、わかった。あの人と、少しお話ししてくるね」
るーくんは怯えた表情をすると、ローズの元へと歩いていった。まだ人攫いに攫われた時のことがトラウマなのかな……。
確かに怖かった。何をされるのかわからないし、地球、日本では奴隷なんて考えられないことだったし。それとこの世界を比べると、やっぱり現代の日本はとても平和だったんだなぁ、って思う。娯楽に溢れ、技術も発展してて。休日は家でゴロゴロできるし。
この世界では子供でも働かないと生きていけない。特にこんな村では王都に近い街より大変。文字を知らない大人もいるくらいだし、勉強してる暇があるなら畑仕事をしろ、ってことなんだろうね。
私はこの風の魔法を前世の知識と組み合わせて結構使えるようになったから、それを使って村の人のお手伝いをしている。そうすることで、食べ物を分けてもらえるの。
家は、村長の息子であるアレクが口を聞いてくれて、村の端にある小屋を使わせてもらってる。よそ者だからか、私たちは村の人に好かれてないみたいだし、変なことをするとお手伝いさせてもらえなくなる。
ローズと幸せになれたら、ローズを説得してこんな村出てってやる!
……いや、ローズにとっては故郷なんだから、悪く言ったらダメ。よそ者を嫌うのは異物が入ることで今の生活を崩されたら堪らないからだし。
っと。るーくんまだかな。
視線を向ければ、おお。楽しそうに話してる。青いのは消えた。よしよし。天使と女神って感じ。眺めてるだけで顔が緩む。ほわほわした天使るーくんと、キリっとした女神ローズ。女神。いいな、ローズ神。これから女神って呼ぼう。
あ〜もう最高だよぉ。これでるーくんに女神を取られたら終わりだけど、るーくん経由で仲良くなれたらもういいかも。いつもこの最高の光景を見ていられるってことだよね?供給過多で幸せが溢れ出ちゃうぅ……。
そうやって不審者みたいに2人を舐めるように眺めていた時。
「何しているんですか?」
「ひぇっ!にゃっ、なっ、のっ、の、ノア、くん!何かな!」
突然肩を叩かれ、後ろを振り向けば憎っくき青い男が。
くそ、噛みまくったよ、敵の前で醜態を晒した……。
「体をくねくねさせながらあの2人を見ているのを見たので。具合でも悪いのかと」
嘘っ、体くねくね!?っ、じゃなくて。
「な、なんで私がここにいるって……」
「いつも居ますよね?」
なんだと。いつも見ているのがバレたのか。
だいたい同じくらいの時に教会から出てくるから、張ってれば女神の姿をいつでも見られる。教会と女神。最高に素敵。
「だっ、だとしたら何!私がどこにいてもあんたには関係ない!」
羨ましくて見てたなんて教えないもん。
「確かにその通りだ。……ですが、つい最近まで貴女はローズからキツく言われることがあったと。泣くほどに。そう聞いていますが、そんな彼女を遠くから隠れて貴女がおかしなことをして見ていれば、怪しく思うのは当然でしょう?」
うっ。確かにその通りだ。……って!この男と同じこと思ってるんじゃないよ!
「何、私がローズちゃんに何かするとでも?私が、ローズちゃんに?あり得ない。あんたこそそれを知っててなんでわっ……つぅ……ローズちゃんに近づくの!?」
危ない。私のローズちゃん、なんて言う所だった。女神は独占するものではありません。共有するものです。但し、連れ去ろうとするこの男を除く。
「別に貴女には関係の無いことですし、僕はローズから何の被害も受けていません。ですから、距離を置く理由がない」
「っ、そう、だけど……!」
ああもう!なんなら私がこの男として転生したかった!ヒロインは隠しルートなんて行かないだろうし、アレクに捨てられた女神を慰めて連れ去りたい!男なら、結婚もできる!子供だって!うわぁあああああん!男として生まれたかったよぉぉおおおおお!
子供、か。魔法があるんだし、同性でも子供産めないかな……。私と女神の愛の結晶……。響きが素敵。
「……何をニヤニヤしているんですか?」
「へっ?あっ、し、してないから!」
顔が危険になってたらしい。物凄く引いた表情で私を見てる。
「どうでもいいですが。もし、……『もし。貴女が彼女へ何か企んでいるのなら、諦めた方がいい。彼女は男を取られても、心まで貴女へ取られることはないのだから』。わかりましたね?」
隠しルートを進めて少しのとこ。ローズと少し関係が良くなったヒロインへ、ノアが言うセリフ。この時ノアはヒロインは散々嫌味を言ってきたローズを恨んでいて、仲良くなってから裏切って全てを奪おうとしている、って勘違いしてるの。
同じだ。全く同じ。この表情、この言葉。
ああ。あああ。ああああああ!!
「やった!転生しても隠しルートはちゃんとあるんだ!待ってろ私の嫁!!」