第4話 決心したはいいものの。03
「ちょっと!」
声をかけるけどシーナが戻ってくる様子は無い。
どういうこと、好きな人はアレクじゃなくて別にいて……。でもアレクルートで進んでて。
アレクルートに間違えていったけど、本当は別の攻略対象が良かったとか?もうわからないな、最初の方で進んでてもルートは変えられるはずだし。うーん、でもこの世界でちゃんとルートが存在してるのかは怪しいところ。ほとんどゲーム通りとはいえ、ね?私がアレクと離れたことはゲームにはないことだから、全部ではない。
「何を考えているんですか?さっきの……シーナさんのこと?」
ノア。私の推しが優しげな表情で話しかけてくる。
「そんなところ」
顔を直視できない。顔が良すぎる。
ノアの顔から目線を逸らすけど、それを追うようにノアは体を動かしてくる。いや、なんで?
「何を、考えているんですか?顔を見てください。顔を見て言えないことなんですか?」
そうじゃない。顔が良すぎるんだよ。たくさんの2次元の推しキャラはできたし、どのキャラが1番?って聞かれても困るだけだけどこの場で、目の前に、実際に人として実体があって生きてて存在する推しがいれば私は、この人です。推しです。って言うに決まってるんだ。
だからそれだけ好きな推しの顔を直視するなんて私にはできない。
シーナは本当に誰が好きなんだろう?攻略対象はみんな揃っているし、出会ってもいる。だってもう中盤だよ?
もし本当に転生者なら、好きなキャラの前で冷静さを失ってないのはすごいと思う。私無理。
「別に何でもいいと思うけど。君には関係のないことだよ。もういいかな?私は君と話すために外に出てきたわけじゃないんだ」
嫌われたくはないけど、私がノアルートに入ってノアと結ばれることは無いし、推しと恋愛なんて考えられない。
「確かにその通りだ。失礼しました。ではどうぞ、お嬢さん」
なんだろう、ノアは今17のはずで、私とは2歳しか変わらないはずなのにものすごく大人っぽいというか。旅してるからかな。あれ?私前世の年齢入れたらおばさんのはずなのにこの子に負けてない……?
何も言わずに私はノアの横を通り過ぎて、村にある小さな教会の方へ進んで行った。
背中にノアの視線を感じながら。
●●
この世界、ゲームじゃ宗教なんて描かれなかったのにちゃんと宗教は存在してる。日本みたいにちゃんとやる人もいればいない人もいる、みたいな感じだけど。多神教とかではない。
教会には本がある。やっぱり紙は貴重みたいで、ここにしか本といえるものは置いてない。だから村の子供たちは勉強らしい勉強なんてほとんどしていない子が多数だし、文字を読めない大人だっている。
アレクの幼馴染みであり、将来は結婚することになっていた私は一応、と簡単な読み書きだとか初歩的な算数、歴史とかはこの教会で学んでいた。もちろん、魔法も。
私の目当てはその魔法について書かれている本。この世界の文字は地球とは違うけど、読めることには読める。そこまで難しい文字はないって願いたい所。
シスターに挨拶をして書庫に入りたい、と告げる。本は高く売れるため、いくら置いてある本が少ないからとはいえ、許可をもらわないと書庫には入れない。
書庫の鍵を開けてもらい、中に入る。本の匂いはどの世界でも同じだね。この独特の匂い、私は結構好き。
「半刻後、確認に来ます」
それだけ言うとシスターは書庫の鍵を閉め、行ってしまった。書庫は中からは開かない。中には小さな空気孔がいくつかあるだけで窓はない。明かりは魔法具が使われているから火災の心配はない。だから私は半刻後シスターがくるまで書庫から出られないということ。
それだけ本が貴重、ってことなんだけどね。何かあればドアの横の魔法具を押せば大きな音が鳴るようになってるから、ここに閉じ込められる心配はない。
「さてと。子供1人で入らせても大丈夫、ってことはそんなに大したものは無いってことかな。……それとも理解できないって思われてるのか……」
王都から遠い村で生活するのに難しい言葉を習う必要はない。ごく簡単な言語さえ理解できていればいいから。しかも女だからもっと必要ない。役人の相手は夫がするわけだし、その補佐さえできればいいってだけ。
でも私はこの村を出て、世界を見て回りたい。そのためには知識が必要。話せればなんとかなるかな、とは思ってるけどね?だから魔法の本を目当てに来たわけだし。
「ここらへんかな」
魔法について書かれている本はそこそこあった。その中から適当に引き出し、ページをめくる。
「私の魔法は……っと。闇だから……闇系統の魔法使う人って少ないんだ……」
【属性:闇
・光と正反対の性質を持つ属性であり、光と同じく希少性は高い。だが使用される魔法が人道的ではないものが多いため、忌避される。】
最悪じゃないか。
確かにローズが使っていた魔法も、人道的とは言えないものだった。でも、でも!使用される魔法が人道的ではないものが多いため、ってあるからないわけじゃないし、使い方を間違えなければいいだけのこと。
さて、どんなことができるのかな?
【・使い手が希少な上に、忌避されることが多いためほとんど解明されていない。過去の使い手たちは自己流の魔法を作り出していたと思われる。】
すごいな先輩たち。
これじゃ何ができるのか全くわかんないや。闇系統の魔法だけページ数少ないし。後書かれてるのは過去の使い手のことくらい。どんなに極悪人で、どれだけ大きな被害を出したのか、みたいなことと、よく使っていた魔法が書かれている。
私の知りたかったことはこの本には書かれてない。よし、気を取り直して次に行こう。
●●
結局この教会にある本には私の知りたいことは載ってなかった。収穫があるとすれば、光系統の魔法の使い手と闇系統の魔法の使い手が家族として生まれることも少ないってことかな。
いやこれは考えれば当たり前のことじゃない?だって正反対の魔法だよ?そう考えると、辺境の村になのになんだかすごくない?希少な光と闇が両方で、しかも家族。どうした、この村。
「でもまあ……勉強には、なったかな」
いくつかわからない単語があったりして、それを調べながら読んだから少しは知識もついたんじゃないかな。
後はこれから自己流で魔法を……自己流かあ……そもそも闇の魔法ってところからして色々イタさがあるんだよね。そしてしかも自己流という。詠唱しなくてもできるようにしないと。
魔法の発動には、トリガーとなる詠唱が必須。詠唱をすることで体内の魔力の働きを決め、世界に魔法として発動される。要はイメージの問題。頭の中のイメージを確立させるために、詠唱をする。だったら想像力さえあれば詠唱は無しでもできるはず。
私の場合は自己流なんだから、詠唱だって自分で考えたものになる。そんな小っ恥ずかしいことできない。
「頑張ろ……」
これもバッドエンド回避のためになると信じて。
「ろ、ローズちゃん、ちょっといいかな」
シーナだ。
「何かな」
さっき逃げたのに何だろう。好きな人の話の続きかな。
もうなんか深く聞く気はない。私がバッドエンドを回避できるのなら、なんでもいい。
「あの、ね。さっきは突然居なくなったりしてごめんね。ちょっと興奮しちゃって……。で、さっき言ったことなんだけど、私はね、ローズちゃんと仲良くしたいだけなの。だからアレクくんを取るつもりなんてなかったし、ただ友達として話してたつもりだったの。だけど周りからはそんな風に見えてたなんて、考えもしなかった。考え無しでごめんなさい、これからも仲良くしてくれると嬉しいな」
最初の方に気になる言葉があった。何に対して興奮してたんだ、この女は。
あれでただ友達として仲良くしてた、かぁ。そうとも……言えなくは、ない。ここが地球ならまぁ長い付き合いの男友達に対する態度、みたいな。でもここは地球じゃないし、地球の常識も通用しない。
それにしてもこれからも仲良くしてほしい、と。今まで仲良くしてたつもりだったのか、と突っ込みたくなる。
「そのつもりは無い。今までも、これからも」
だって絶対、シーナと仲良くなんてできるわけない。今までのこと、考えてみてください。
「かふっ……無い……今、までも……これから……ずっと?ずっとなの?待って、やだ、どうしよう……やだ、やだよ……せっかくこんな……こんな……こんなのって……こんなのってぇぇええええええ!!」
何かダメージを受けたような表情になるとシーナは、悲壮な声をあげながら走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっと!!」
さっきの再現になってるし。絶対おかしい。今のはどういうことなんだろう。
ああ……シーナとは距離を置くって決めたのにその日から2回も遭遇してる。
もしかして、これもまた私がシーナに何かしたってことになるのかな。嫌だな、勝手に発狂したのに……。
後編