第3話 決心したはいいものの。02
短いです
後半にシーナ視点入ってます
「私の好きな人は、別にいるの!!」
「え?なんて?」
「私の、好きな人は、別にいるの」
アレクじゃなくて?別に?どういうこと?他の攻略対象が好きってこと?
じゃあなんであんなにアレクに構ってたの?アレクに気があるみたいな素振りを見せてたから、ローズは強く当たってたわけで……。
「……誰?」
アレク以外信じられないけど、聞く。これじゃアレクが可哀想だけど……結婚するって決まってる女がいたのに、他の女に靡いたんだから仕方ないか。
「い、言えないよ!」
言えるわけないか。
あーあー顔赤くして。そんなになるほど好きな人がいるのに、アレクとべったりだったのはなんでなのかな?アレクは完全に落ちたよ?
おかげで悪役の立場にはまってしまっているのは私なんだけど……。
「信じられない。今まであんなにアレクに構ってたのに、他に好きな人がいる?アレクの気持ちは完全に君に向いてるよ。君が紛らわしい素振りをしたから。周囲の人から見ても君とアレクは好き合ってるって思うのに、今更他に好きな人がいるなんてあり得ないことだよね」
●●
私はシーナ。
変な題名〜!って思ってやり始めた乙女ゲームにはまって、ずっとそのことばかり考えて過ごしていたら階段を踏み外して頭を強く打ち、死んでしまったらしい。
らしい、っていうのは階段を落ちていってる途中からの記憶がないから。気絶でもしたのかな。落ちてる途中でも私が考えていたのは、ゲームの推しのことだったし。カバンに入れていた限定ポスターが折れないように、って思って変な体勢で落ちたのも死ぬことになった原因じゃないかな……。
そしてこの世界に来た。転生してるってわかったのはもっと小さい頃だったから、両親が亡くなってしまった時もとても悲しみはしたけど乗り越えられた。この世界があの乙女ゲームの世界だって気がついたのはその時で、教会に連れて行かれた辺りからそれがハッキリした。だからこそ乗り越えられたのかもしれない。
それよりもそれからの興奮がやばかった。
頑張って最推しのルートに行って、ハッピーエンドを迎えるんだ!って。
村で出会った攻略対象たちはみんなゲームで見た通りの見た目で、性格で。興奮して夜も寝られないほどだった。地球とは全く別のイケメンが生息してる。村に。最初にいた街にもいい感じの人たちは見かけたけどやっぱり攻略対象には敵わない。
そして何より。
肩の辺りまでの銀髪の髪。鋭い黄色の瞳。中性的な容貌。透き通る白い肌。あ〜!今日も素敵!可愛い!今日は薄青のワンピースなんだね!とっても似合ってる!ズボンはまだ見てないけど、履いたらものすっごくカッコいいって知ってる!
私の最推しは、そのゲームの悪役の女の子であるローズ。別に私が同性愛者とかってわけじゃない。同性愛者を差別するってわけでもなく。女でも推しが女の子、っておかしいことじゃない。あの時持ってたのもローズのポスターだった。どこに飾ろうかなぁ、って考えてたらずるって滑って。どうせならちゃんと見てから死にたかった。
序盤に言ってたことは正しいし、しっかりしてる性格。後半のヒロインに対する嫌がらせを超えたものはやり過ぎ感あるけど、そもそもヒロインが結婚決まってる男に言い寄るのがいけないし。何より、顔がいい。
女の子なのに話し方がどっちとも取れる話し方だし、成長途中だから声もそこまで高くなくて、男の子の格好したら男の子になれると思う。他人称が“君”って何?かっこよすぎか。
悪役でも私は大好きだった。嫌がらせで出てくる時、裏で企んでる時、最後に村の隅に閉じ込められてしまう時。出てくるたびに眺めまくって、セリフをゆっくり読んで、ニヤニヤしまくった。
だから私はそんな大好きなローズがバッドエンドを迎えない方法はないのか、って模索しまくった。SNSでローズルートがなんとか、って言ってる人を1度だけ見かけた時があって、絶対にこれはある、って思ってたから。あった。ローズルートという隠しルートが。最高。
あんまり知られてないみたいだったけど。まあ悪役ルートなんてわざわざやらないよね。
途中までアレクルートで進んだ後、特定の会話の時に2の選択肢を選ぶ。途中までとはいえ、大好きな推しの前で他の人が好きなフリをするのは辛かった。推しは2番!って言ってるみたいで……。
でも私は間違えてしまった。
ローズが違う行動をしたから。
私の頰を叩いたあと、呆然とした表情でふらふらとしながらローズは帰ってしまった。あの場では、立ち去らずにローズと話し続けることが重要だったのに。今までゲーム通りに進んできたのになんでこうなったんだろう?
今だってそう。なんで、ローズはアレクを私に譲るって言い出したの?今までちょっとでも私がアレクと話せば『何を言ったのか知らないけれど。君は立場ってものをきちんとわきまえてくれないかな?』って綺麗な顔で言ってきて。実物が、本物が!生きたローズ様が怒ってらっしゃる!って私は興奮してました。
でも私が好きなのはアレクじゃなくてローズであって……。言えるわけない。
「そう……だけど……。私は……」
散々アレクに引っ付き回ってアピールしてきたのが裏目に出ました。でも、でもね?ゲーム通りならこのままでいいはずだったの。どうすればいいのかわからなくて、取り敢えずローズがアレクと元の関係に戻ればきちんとルートに行けるかな、なんて変なこと考えてたから……。そもそもこの世界でローズルート、っていう隠しルートはちゃんと存在してるのかな?
「すみません、忘れてもらってるようですけど、僕もいますからね」
「忘れてない。視界には入っていた」
「それでも完璧に無視して話していたんですね……」
青い髪の綺麗な人。私より後にこの村にやってきた旅人の1人。そして攻略対象の1人でもある。
そもそもこの人とぶつからなければ、ローズに何か言われることは無かったはずなのに……!いえ、これもゲーム通りですね、避けられないことだった……。
なんで好きな人が別にいるなんて言ったんだろう、私。目の前に推しがいて興奮しながら弁解してたからかな……。
「と、とりあえず!今のは違うの!」
これ以上推しの前にいたらもっと余計なこと言いそうだから、離れないと。
「ちょっと!」
ローズの声。いい声。じゃなくて。
最推しが目の前に存在してて正常な思考なんて無理です、どうすればいいですか?
中編