なんか、迷っちゃったみたいです
何も考えられなかった。
そりゃそうだ、なぜなら琴塚達人は今さっきニートとなったのだから。
ニートというと腹が立つな。うん、「無職」ということにしておこう。
そう、俺は無職となって職という自分を縛り付けるものから
解放されたのだ………
--------------て、なわけないよな。------------
どんなに見栄を張っても、この閑散とした町は真実を知っているかのように
俺を一人だけの空間に取り残している。
これで何度目だ、俺が何をしたって言うんだ、悪いことはしていない。
ひたすら頑張ってきたはずだ。でも………
………みんな俺を見捨てて自分だけの世界を歩いていく。
そこにたどり着きたくとも、追い付くまでのビジョンが見えてこない。
俺には財力も権力も何もない。
そうだな、これが絶望という感情なのだろう。
手に入れたいものは何もない。まさに「無心」だ。
「って、ありゃ?」
唐突にひとつの疑問に襲われた。
俺は、まっすぐに進んでいたはずだ。道に迷ったりなんてしていない。
なのに………
--------------ここ、どこですか?------------
ガヤガヤガヤ。
いつの間にか辺りは明かりに満ちていて、さっきまでの静けさが
嘘みたいな状況になっている。
回りから聞こえてくるのは、賑やかな声たち。
屋台や提灯やらが飾られており、独特な世界観を演出している。
目の前にそびえ立つ大鳥居は、飲んべえ商店街を象徴するかのような
風格を放っている。
が、そのなかで笑いあっているのはどう見ても人間ではない生命体だ。
ここから導き出される結論は一つしかない。
………俺は魔族特区に迷い混んでしまったらしい。
ここ、東京都には魔族特区という中二病くさい区域が存在している。
簡単に説明すると、異世界の住人達が自由に立ち寄っていい場所、
ということだ。
全ての始まりは五十年前にさかのぼる。
当時、東京ではある現象が社会問題となっていた。
食事中にうちの夫がいきなり消えた、
中学校の校舎が消えて全校生徒がいなくなった、等の事例だ。
もう数々のラノベを読破してきた読者諸君はピンときただろう。
そう、異世界召喚だ。
最初は誰も相手にしなかった。
異世界召喚なんてあり得ない、という概念が頭のなかにあったのである。
だが五十人、百人、千人と被害者の数はどんどん増加していったため、
政府も対応策を講じることを余儀なくされた。
当時を知る人間はこう語る。
そこから先は信じられないことばかりだったと。
まず、召喚される者の共通点がわかってきた。
言わなくてもわかるとは思うが、共通点はズバリ、普通であることだ。
平凡さと比例して召喚される確率は高くなるのだという。
次に、転生された人間の近くには、「空間のねじれ」ができるということだ。
あり得ないことではあるとは思うが、その空間のねじれは
ものすごく小さいため、今まで見つけられなかったというのだ。
発見されたのも偶然で、召喚された人の近くに飛んでいった野球ボールが
突然姿を消したことで見つかったらしい。
これを聞いた俺が馬鹿馬鹿しいと思ったのは、また別の出来事である。
他にも似たような件があったようで、それらから政府が事を判断したそうだ。
ってあれ、どうしたんだ? 意識がないようになってないか?
………まぁ気持ちはわかるよ。
なんで急に召喚を信じるようになったのかってことだろ?
それは了承してくれないか。
俺も生まれる前の話なんでな……うん、よくわからんのさ。
そして、数々の名の知れた研究者達が東京に集結した。
彼らの目的はただひとつ、「異世界召喚の謎解明」だ。
さらに時は流れ三十年前、ついに研究者達は一つのものを開発した。
それが、「ゲート」と呼ばれるものだ。
「ゲート」は異世界とこっちの世界を結ぶ扉みたいなもんだ。
言ってしまえば、どこかのドラ○もんというやからが使っている
「どこでもドア」のようなものなんだがな。
驚くべきことは、結果的に「ゲート」がドラ○もんの世界での認知度を
一日で上回ってしまったということだ。
考えてみてくれ、朝の寝坊した顔にたちまち大ニュースが
飛び込んでくる様を。
それがまたいきなり
「異世界に行けるようになりましたよ~。」なんていうふざけたものなら、
君はどうするだろうか?
5チャンに書き込みでもしに行くか?
それとも、寝ぼけてそのまま二度寝でもしてみるか?
俺だったら「へぇ~」、で済ませるかもしれないな。
どうせ異世界なんて行けないし…まぁ、そんなことはどうでもいいよな。
それから、なんやかんやで異世界との外交ができるようになり、
今では色々な世界を行ったり来たりする摩訶不思議な世の中が完成したのだ。
え、もっと説明しろだと? お前らは俺に何を求めているんだ?
なんだ? 現代社会の先生にでもなってほしいってか?
言っとくが、俺はそんなことはしないからな。
いくら職に困っているからといってしてたまるか。
バチッッッッッ。俺はとりあえず自分の頬を叩いてみる。
今までの紹介じみた謎の行動からうかがえる心の混乱を抑え、
自分を夢から覚めさせるためだ。
さぁ目の前に広がる景色を見てみよう。
わぁ~美しい夜景だなぁ、提灯なんて飾っちゃって。
このレトロな感じがいいんだよなぁ。
あれ、メルヘンチックな動物達がいるぞ。
人間の姿をして歩いているな。すごいな。
あはは、幸せだなぁ。
て、、、、、、違うやろっっっっっっ。
危ない危ない。冷静さは俺の唯一のとりえなんだ。
ここでおかしくなってはいけないな、うんうん。
とにかくだっ、ここにいてもどうしようもない。
少し緊張するがこの中を通っていくしかないだろう。
ザワザワザワ……ザワザワ……………ザワワワ。
混んでいる町のなかをずかずかと進んでいく。
別に悪いことをしているわけではないが、妙に悪気を感じてしまうのは、
なぜなのだろう?
「異世界人だ……あいつ、人間だぞ。…………ヒヒヒッ、みすぼらしいな。」
「ここの住人は下品だな………くさいな、早く立ち去れ。」
あはは…すごい言われようだな。
なんだ、この世界の住人は嫌われているのか?
それとも、「俺」、だからか?
どうやら考える必要もないみたいだな。
実は回りにも地球人は少しいるのだが、そいつらは何も言われていない。
重い足取りに変わる。
俺は今自分を見た目で判断されているのだ。
「人を見た目で判断してはいけませんよ~。」と一回ぐらい小学校の先生に
言われたことがあるだろうが、現実はそうあまくない。
歩くしかない。進むしかない。
それでも俺は前を向いて生きることをやめようとはしなかった。