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主人公は世界に希望を求める

初投稿です。

難しい言葉を使うのは苦手なのですが、頑張ってみたいと思います。

ガガガガガガ…

その音は夜も更け、人通りが少なくなった町に、ひそかに鳴り響いていた。



黄色いヘルメットの上に、包み込むように降り注ぐ柔らかい雪達。

そして、その中で何も思うこともなくただ黙々と作業をする俺。



白い吐息を朝から休む暇もなく吐き続けている俺にとって、

これは苦痛と呼べるほどのことではなかった。



この工事現場で働き始めて、もう一週間になる。

「もう」、という単語を口から漏らすのには一週間とは

短すぎるのではないか----



世間一般常識ではそう考えるのだろう。

だが、お前らは考えたことがあるだろうか?



---今を生きるのに精一杯なヤツの思いを---

     

     ---苦しさに負けずにもがき続けている者達の思いを---



世の中にはたくさんの人がいる。それは認めよう。しかし---------



俺は、事情も知らずに人の価値を勝手に決めつける者共が……ゆるせない。



これはわがままなのかもしれない。

ちっぽけな妄想のひとかけらの思いなのかもしれない。

だが、願わくば……



-------琴塚達人の夢を叶えてくれないか-------



「おーし。今日はここらでしまいなー。」


「うぃーす。」



はっと現実に引き戻される。

工事現場関係者の笑い声が聞こえてくる。



-------「いやーきつかったー。」------

-------「くたびれたわー。」  ------



一音一音が連なっているわけではないが、

俺の耳にはこの声は町中のmobキャラと同じように

日常の音と認識されるらしい。



理由は明白だ。この音には、「心」がこもっていない。



人間には表の顔と裏の顔があるとよく言う。

これも、一種の「顔」なのかもしれない。



表のように取り繕っているわけでもなく、

かといって裏のように素を見せているわけでもない。



感情を込めず、録音された機械的言語を再生しているだけなのだ。

こんな音にかまっている余裕はない。

さっさとここから逃げるとしよう。



「おい! 新入り、ちょっと待て。」



ゆっくりと後ろを振り替える。

どうやら呼び止めたのはこの現場の責任者みたいだ。



「話がある、ついてこい。」



中年のおじさんの代表みたいな責任者が、俺になんの用だろうか。

そう言いつつも、実は気づいている。



だるそうな顔をしても、ムカついた顔をしても、自分の心には嘘はつけない。

俺は、現実逃避をするかのように雪に支えられながら

ポケットに自分の手と共に不安を突っ込んだ。



ガチャリ。いかにもドアを開けたといわんばかりの効果音が頭に響く。

案内されたのは工事現場のコンテナだ。

ここは、お偉いさんしか入れないはずなのだが…



まぁそんなことを考えさせてはくれないらしい。

おじさんの鋭い眼差しが俺を見つめている。

これがベテランの圧というものか、おぉ怖い怖い。



「おい、新入り。お前の名前は?」


「琴塚達人です。」



まごうことなき即答だった。一週間で名前を覚えてくれることを

期待していたわけではないが、いざ現実を知るとムカムカしてくるものだな。



「お前さぁ、結構頑張ってはいるんだよ。ま、上の方もお前の仕事ぶり

 だけは評価しているな。」


「は、はぁ…。」



ついつい返答に困ってしまう。

なぜなら俺はこの展開を知っているからだ。



数々の修羅場をくぐり抜け、このときを何度も迎えてきた俺は、

既にこの展開に慣れさえ感じてきている。



「でもな、これが上の方針なんだよな。だから…     

 何も言わずに受けとれ、若造。」



渡されたのは白い紙。

書かれているのは立派な「退」、「職」、「届」、「け?」、の文字。

頭に浮かんだのは思った通りだったという自分を慰める勝利の詭弁。



そんなのは心の一部に過ぎない。

俺の心の中を侵食するように、「クビ」 という二文字が体を循環していく。

まるで自分が空気に取り込まれたように、真っ白になった。



最後の望みをかけて責任者を見つめる。

分かりやすい態度だ。その風格だけで無駄だということを悟らせてくる。



「求人募集かけといてなんだが、うちは今経済的に厳しくなってな。

 それで…あれだ。もうわかるだろ。」



先にことわっておく、これは不当解雇だ。

表向きには自分から退職っていうんだろうが、納得ができない。



だが、こいつらはわかって言っている。

俺が歯向かう勇気も力もないことを。



悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…………

呪ってやりたい。人間を、社会を、この世界を。



………当然ながら、考えるだけ損であった。

所詮一般市民Aと同じ価値である達人くんが何もできるはずがなかった。



---------従うしかなかったんだ………現実に--------


  














おもしろいと感じてくれたら幸いです。

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