⑦夫の気持ち・妻の気持ち
夫の気持ち・妻の気持ち
「びっくりだったね」
「ええ」
しばらくの間、夫もわたしも人間にもどることを忘れ、ぼうっと立ちつくしていました。
「そういうことだったのか……」
夫は何度も、うなずいています。
けれども、わたしはまだ、納得したわけではありませんでした。
いくら稲穂そっくりのシッポを持っているとはいえ、相手は野ギツネなのですからね。
その時です。
グルグルグー。 見事なくらい大きな音が、夫のおなかから聞こえてきました。
「なんだか、はらへったなあ」
夫がわれに返ったように、おなかをさすりながら言いました。
「なあ、さっき教えてもらった、いなりずしの店に行ってみようじゃないか」
信じられない!
わたしは、まじまじと夫の顔を見つめました。
この人ったら、くやしくないのかしら?
あんなことを言われたのに、キツネの言うとおりにするなんて……。
だいたい、こんな時におなかがすくなんて、ヘンじゃないの?
スラリとした容姿、スマートな変身ぶり、相手の正体をすばやく見破る眼力、そして何よりも、同族が稲荷大神の使いという事実。
そうしたもののひとつひとつを目の前で見せつけられ、くやしさが、胸にうずまいていたのです。
そんな、わたしの気持ちなどおかまいなく、
「名物いなりずしって、どんなのだろうねえ?」
無邪気に話す夫が、むしょうに腹立たしくなるのでした。




