表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

⑤夫婦の正体

   夫婦の正体


わたしたちは、ご夫婦に案内されて、ひと気のない、社の裏へと向かいました。

 樫や杉の大木が、うっそうと茂った木立の中は、真っ昼間だというのに、薄暗くひんやりとしています。

樫の太い幹には、ご神木を示すまっ白な紙垂しでが、ヒラヒラと風にゆれていました。


「まず、お稲荷さまの稲荷という意味なんですがね」

 歩きながら、ご主人が説明を始めました。

「これは、稲が成るということでして……もともとお稲荷さまは、農業の神として信仰されていたわけなんですよ」

「ほほう」

 夫が、大きくあいづちを打ちます。

「この国では古くから、春が来ると{田の神}が、山から降りて田んぼを守り、秋の収穫後は、山にもどって{山の神}になるという考えがありました。ま、そういうことで、春先になって、人里にあらわれるキツネは、神と同格にみられるようになったのですよ」


 ご主人の説明が、さも断言するように聞こえたので、わたしは思わず口をはさんでしまいました。

「と、いうことなら、タヌキも同じではありませんか? 春になったら人里にあらわれますけど」

「まあ。最後まで聞いて下さい」

 ムッとしたようにわたしをにらみ、ご主人は続けました。

「お稲荷さまには、ウカノミタマ大神、ウケモチ神、ミケツ神という三柱の神が祭られています。中でもミケツ神は、三びきの狐の神と漢字で書くのです。このことからも、キツネは稲荷大神の使いと、思ってまちがいないんです」

「だけど……」

 わたしは、どうにも納得がいきません。それで、またまた口をはさんでしまったのです。

「それは、ひょっとしたら、こじつけかもしれないでしょう。お話をうかがっていますと、神様は、まるでキツネばかりをひいきしてるみたい」

「こじつけですと?」

「ひいきですって?」

ご夫婦は同時に声をあげて、わたしをにらみつけました。


 その目つきの鋭さ、異様な妖しさに、わたしたちは思わず、あとずさりしたのです。

「そこまでおっしゃるのなら、なによりの証拠をお見せいたしましょうか?」

 口もとにかすかな笑いをうかべながら、二人はジリジリとにじりよってきます。

 わたしは、夫の手をぎゅっとにぎりしめました。

 

 ザーッと、つむじ風が舞い上がりました。

 木々がうねる音とともに、まだ青い樫の実がパラパラと地面に落ちてきました。白い紙垂が、ひきちぎれんばかりに上下左右にゆれています。


やがて、わたしたちの目の前に、二匹の野ギツネがあらわれました。

 大きなキツネと小さなキツネ。

 二人は、夫婦の野ギツネだったのです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ