③ふしぎな夫婦
ふしぎな夫婦
見よう見まねで、手水舎で手と口を清め、ついにご本殿の前までたどりつきました。
朱塗りの鳥居をくぐると、さすがに、お稲荷さまのご本殿は、目をみはるほどに大きくてりっぱなものです。
石像のキツネが二体、左右に鎮座しています。その凛とした姿には、ライバルながら、思わずほれぼれと見とれてしまいそうでした。
ふと、聞き覚えのある声がしました。
「ホントにすばらしいねえ」
「お参りに来たかいがありましたわね」
石段のとちゅうで出会った、あのご夫婦です。
彼らは、うっとりとキツネの像に見入っています。
夫は、わたしに耳打ちしました。
「実際にだな、ホンモノのキツネが、これだけウヨウヨいたら、きっと足がすくむだろうなあ」
まさにそのとおり。ご本殿の中には無数の白キツネの像があるのです。
境内をうめつくす、無数の白キツネを想像しただけで、ゾッとしました。
とりあえず、おさいせんをあげ、鈴を鳴らし、かしわ手を打ってお参りしました。
少し前の方では、あの夫婦も同じようにお参りしています。
「うーん、しかしだなあ……どう考えてもわからん。お稲荷さまの使いは、なぜキツネでなきゃならんのだ」
夫があらためて、そうつぶやいたとき。
それまで前を向いていた夫婦が、いきなりこちらをふり返ったのです。
ご主人が、にらむような目つきで話しかけてきました。
「そのことについて、あなた方は、なにかご不満でもおありですか?」
わたしたちを見つめる目が、妙にギラギラしています。思わず、背すじに冷たいものが走りました。
けれども夫は、長年の疑問を解決できる絶好のチャンスと思ったようです。
ご主人に向かって、さっそく話しはじめました。
「実は、以前から思っていたことなんですが、なぜキツネは、稲荷大神様の使いなのでしょうか。今日は、ひとつそのことで、こちらの宮司の話をお聞きしたいと思いまして、こうしてお参りにやってきたんですよ」
「ほほう……。そんなことをお考えに?」
ご主人はニヤリとしましたが、すぐに真顔になってこたえました。
「残念ながら、宮司には会えませんよ。今日は、近くの神社で、秋のお祭りが行われていますからね。まあ、そのかわりにといってはなんですが」
「そのかわり……?」
夫はまじまじと、ご主人の顔をながめました。
ご主人が、かたわらの奥さんをチラリと見やり、奥さんが、さっと目くばせでこたえるのがわかりました。
「ワタシと家内とで、教えてさしあげましょう。それでいかがですかな?」
いかにも、自信たっぷりな物言いです。
いきなりこんなことを申し出られるなんて、かなり意外なことでした。
「どうしようか?」
夫が、小声でわたしにたずねます。
「いいわ。それでわかるのなら」
わたしもうなずきました。
ずっと考え続けてきた問題に、やっと終止符が打たれるのです。




