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⑱エピローグ
エピローグ
帰り道。
わたしたちは、寄りそうように歩いていました。
傾きかけた三日月が、山道をほの白く照らし出しています。
「あまったいなりずし、どうしようかな……」
思わず、ひとりごとをつぶやいてしまいました。
家には、お重箱に入りきれなかったいなりずしが、まだたくさん残っていたのです。
すかさず、夫がこたえました。
「そりゃあ、オレが食べるさ。明日の朝も、昼も、夜もな」
「それでもあまるかもしれないわ」
「あさっても食べるよ。朝も、昼も、夜もな」
「本気なの?」
「ああ。もちろん」
夫は立ち止まると、ほほえみながら言いました。
「おまえのいなりずしは、キツネのものとはくらべられないんだよ。何たってオレは、おまえの作るいなりずしが、世界中でいちばん好きなんだからさ」
「……ありがとう」
あたたかいものが、胸にじんわりとこみあげてきます。
わたしはそっと夫の手をとると、ぎゅっとにぎりしめ、また歩き始めたのでした。