⑫ぜったい負けない
ぜったい負けない
お稲荷まつりの夜がやってきました。
「われながら、いいできばえだわ」
ウンウンとうなずきながら、できあがったいなりずしをひとつひとつ、ていねいにお重箱に詰めました。
夫が、わたしの手元をのぞきこんで言いました。
「これはうまそうだな。大神さまも、さぞやお喜びになるだろうね」
小さな針が、チクンと胸にささった気がしました。
そうなのです……。
わたしは、大神さまにいなりずしをお供えに行きたいわけではないのです。
ただ、ひけらかしたい。キツネより上手に、いなりずしを作れるということを。
それだけの理由でした。でも理由なんて、どうだってかまわないでしょう。今はとにかく、お稲荷まつりに行かなければ。
「いってきます」
小さな声でひと言だけ言うと、わたしはそそくさと風呂敷づつみを抱え、飛び出すように家を出ました。
あの日……。
やわらかな秋の光の中を、ドキドキしながら二人で歩いた日のことが、ずっとむかしのことのように、なつかしく思い出されました。
薄暗がりの道に、ほの白いすすきの穂がぼうっと浮かびあがります。
夜空に浮かぶ三日月は、するどく光って見えました。
時おり夜風が、すすきの穂をザワザワと波打たせ、その冷たさが、進むほどに肌をさします。
今朝、食事のあとで―。
「いっしょに行こうか」
声をかけてくれた夫に、ひとりで行くからと、そっけなく断ってしまったのです。
こんな時、キツネなら、相手の心のうちを見透かすことができるのでしょうか?
なんの悪気もない温厚な性格の夫に、わたしの本当の気持ちなんて、知ってほしくありません。
だけど心のどこかで、そんなことはやめなさいとひき止めてほしかったのです。無理やりにでも……。




