①プロローグ
プロローグ
とろけるような日差しの中を、夫とわたしは手をつないでゆっくりと歩いていました。
たくさんのセイタカアワダチソウが、ときおり吹く秋風に黄色く波打ちます。
「もうすぐだな」
「そうね。なんだか、ドキドキするわ」
さっきから、何度顔を見合わせ、同じことばをかわしたことでしょうか。
そのたびごとにわたしは、つないだ手にギュッと力をこめるのです。
今日、わたしたちが向かっているのは、山すそにある稲荷神社。
お参り客が多いことでは、このへんでも有名なお宮です。
だんだんと近づくにつれ、わたしの胸は不安と期待とでいっぱいになってくるのでした。
夫が、チラリとわたしを見やっていいました。
「それにしても……おまえ、すごくきれいだぞ」
急にはずかしくなってうつむいたまま、うわ目づかいに夫を見て言いました。
「そういうあなたこそ、とってもすてきよ」
茶色のブレザーを着た夫は、おなかこそポンとつきだしていますが、口ひげといい、ふさふさしたグレーの髪といい、とても紳士的にみえました。
「これなら、だれにもわからないだろうな」
わたしは大きくうなずきました。
ワンピースのすそが、風にふわりとなびきます。
ブーツの音が軽やかな音をたてて、アスファルトの山道にこだましています。
人間のおしゃれをするって、うれしいなあ……。
いつの間にか不安も消え、夫に向かって、にっこりしました。
そう、わたしたち、実はタヌキの夫婦なんです。