人類防国
異世界転生モノで読みやすく、ホラー感のあるものを書きたいです。
一章〔夢〕
一節〔悪夢〕
目を開くと満天の星。
澄まさずとも聞こえる虫の声。
背から伝わる冷たいコンクリートの感触。
青年は気付けば仰向けになっていた。
綺麗だな、と思うのも束の間。
ここはどこなのかという疑問が浮き上がる。が、何も思いつかない。
立ち上がり、あたりを見回すが夜であり、他人の気配が無く、周囲に張り巡らされた転落防止のフェンスから、何かの屋上という事しか分からなかった。
煌々と降り注ぐ月光は足元さえ鮮明に照らし出すが、眼前に広がる闇夜は深く、奈落の底が延々と広がっているように思えた。
そして
「・・・」
誰かを呼ぼうとする声が、喉を摩る音も、衣擦れの音すらも、自身が発する筈の音は何も聞こえなかった。
突然、それに気付いた事に呼応するように虫の声が、風が、あらゆる音が青年の前から隠れた。
「———————」
突然だった。
いつから居たのだろうか。
劈く様な赤ん坊の泣き声を携えた大きな女が立っていた。
青年を覆い隠せる程の長身。
地面まで伸びた長い髪は濡れており、猫背と相まって顔を隠している。
両手はだらりと下がり、握るでも開くでも無く、脱力している。
髪の隙間からは前掛けらしきものを着用しているのが分かる。
靴の類は履いておらず、剥き出しの足を見て痛々しさを覚えた。
そして何より、赤ん坊の泣き声『だけ』を携えている事、女の全身が血か錆に汚れている事が青年を芯から恐怖させた。
突然の事で青年の思考は止まった。
延々と一定のリズムで響く赤ん坊の泣き声。
人では無いと思わせる異様な女。
ただ純粋な恐怖と、それを可能な限り理解しないようにする防衛反応の狭間で、青年は石のように固まった。
「———」
不意にゆらり、と女が動く。
ペタリ、ペタリと冷たいコンクリートを歩き、下へ降りるための階段があるのだろう扉を開く。
やがて赤ん坊の泣き声は離れ、夜の静寂が戻っていた。
悪夢。
言い表すならそれが正しい。
人間とは思えない者。現実離れした場所、記憶の無い状況。
青年がその認識を得た瞬間、背筋に氷柱を突き刺されたような感覚を覚えた。
べたりと張り付くような気色の悪い汗。
どこにも力を込められず、止まらない手足の震え。
でも夢だ。高所から落ちれば目が覚めるだろう。
そう思い、青年は転落防止のフェンスに手を掛ける。
反対側に見える建物から、学校のような場所なのだろう。
だとすればこのフェンスの先は中庭のような作りになっているのだろうか?いや、駐車場・・・小学校なら遊具などがあっても不思議では無い。
何も見えない。
夢だからか?
もし、こんな暗闇の中を落ちてしまっても、この悪夢は覚めてくれるのか?
青年は躊躇する。
「見つけた」
背後から聞こえた声に、弾かれるように暗闇へ身を投げた。
ねとりと絡みつく様な気色の悪い声に、全身が粟立つ。
そして————。
「起きたか新入り。」
見れば無精髭を生やした男が、此方を見ていた。
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