火を喰らう鳥
今回は少し長めにかかせてもらいました。
朝、彗が出勤すると対策課は慌ただしかった。
「なんかあったんですか?」
「事件が起きたんだよ。強盗事件だ」
「え、でも強盗事件なら他の課が…」
「バカか、ここの部署に来るってことは被疑者が札を使用している可能性が高いってことなんだよ」
鳥籠はめんどくさそうに答え、白くて細長い物をくわえる。
「課長、ここ禁煙じゃないんですか?」
「俺はタバコは吸わねえよ」
鳥籠はそういいながらデスクの下の冷蔵庫から小さなボトルを取り出し、口にくわえた細長い物をさす。小さなボトルには「ヤクルタ」と書かれている。そう某有名乳酸菌飲料だ。鳥籠が口にくわえていたのは乳酸菌飲料用の細いストローだった。
「あいつは乳酸菌飲料中毒なのよ」
「そうなんですか。で、あのあなたは…?」
「あ、言ってなかったわね。私は第三班班長、冬島 美歌よ。よろしく」
「よろしくお願いします」
冬島はスタイルがいい美人なお姉さんという感じだ。鳥籠はめんどくさがりなため、基本、班の移動は個人に任せている。そのため第三班には若い男性警察官が多い。
そこへ鳥籠が集合の合図をかける。
「これから捜査会議を始める。長谷部頼む」
「わかりました。まず今回の宝石店連続強盗事件についてですが、犯人は五人組と考えられ、『タコ』『マグロ』『クラゲ』『サザエ』と呼ばれる実行犯、そして『風間』という人物がそいつらを操っていると思われます。また、警備員の話だが『クラゲ』は対象を痺れさせる能力を持っているとのことです。何か質問は?」
「すいません、いいっすか?」
「なんだ、大槻」
「その四人組はどんな札をもっているんすか?」
「現状わかってないないが、おそらく呼び名に関係した札を持っていると考えられるため十分気をつけてください。以上です」
「ありがとう長谷部。こっからは俺が説明するぞ。今、奴らが潜伏していると思われるのは三箇所だ。その三つの潜伏場所に俺らが三箇所同時に仕掛け、奴らが逃げる前に捕まえる。各班で一箇所ずつ担当し、もし見つけたら他の班にすぐ連絡しろ。俺は第一班についていく。この後、各班で作戦を考えておけ。これで捜査会議は以上だ」
早々に終了した捜査会議は彗が思っていた通りのものだった。
「俺らは新宿区の使われていない映画館へ行くぞ。あぁ、そうだ水上。大槻と一緒に預けていた『アレ』取ってこい」
「はい」
彗は湊と合流し、預けていたものを取りに技術班のところへ向かった。
「水上君と大槻君だね。貼り付けは終わっているよ。まだ安定してないかもだけど多分大丈夫だと思うから」
「ありがとうございます」
「いいっすね!めっちゃかっこいいっす!彗君は刀なんすか?」
「うん。僕あんまり拳銃撃つのうまくないから」
「自分もっすよ。でも、かっこいいじゃないっすか」
「そうだね。あ、みんな待ってるから早く行こう」
彗たちが戻るともうみんなは準備が終わっていた。拳銃を腰のホルダーに収め、防弾チョッキを身につけている。やはり、獣札を使用すると言っても相手が何をしてくるかわからないため、万全の準備を整える。その一方で鳥籠は出発直前だというのにまだ雑誌を読んでいる。それどころか準備を整えるようなこともしない。
「課長は何もしなくてもいいんですか?」
「課長はもう準備終わっているよ」
「でもさっきからずっと雑誌読んでますけど…」
「課長はさ、いっつも特注の拳銃を身につけているから何も準備しないんだ。それに動きにくいって言って防弾チョッキ着ないし」
「そうなんですか」
防弾チョッキを着ないというのを聞いて少し驚いたが、なんとなく納得できた。みんなが準備し終えると、今まで雑誌を読んでいた鳥籠が声をかける。
「そろそろいいか?これから突入作戦を実行する。各班に分かれて突入場所に着き次第、準備を整えておけ。以上」
その声を合図にそれぞれ警察車両に乗り込んでいった。
「おい!外がサツに囲まれてんぞ!」
「ここはバレてないはずじゃ…」
「どっかからバレたんだろ!こんなこと言ってる場合じゃねぇよ!早くしねぇと全員捕まっちまう」
今まで安全だと思っていた場所がたった今、危険な場所に変わったのだ。
「裏口まで押さえられてた!」
「どうすんのよ!これじゃあどこにも逃げられないじゃない!」
『サザエ』と『クラゲ』が騒いでいると『タコ』と紺色のローブを着た人物がやってきた。実行犯の四人は夜間、目立たないよう黒いローブを身につけている。しかしその紺色のローブを着た男は実行犯ではないため、黒いローブを着る必要がないのだ。だが共通点もある。それは頭に魚の被り物を被っていることだ。
その紺色のローブの男が話し始める。
「お前たち、何も焦ることはない。俺らはなんのために手を汚してきたのか。それは飢えに苦しむ者達のためだ。何も間違ったことなどしてはいない。だが、まだ飢えに苦しむ者達は沢山いる。彼らをから救うまで俺らは捕まってはいけない。そうだろう?」
「あぁ、そうだ、そうだよ!こんなところで捕まってたまるか!」
「で、でも、相手は警察よ!しかも対策課かも知んないじゃない!」
「そうかもしれないな。だが、もしそうだったら逆にいいじゃないか。相手が札を使ってくるならこっちも札を使ってやればいい」
紺色のローブの男はそういうとコードの繋がった四角いものを取り出す。その四角いものには『C4』と書かれていた。
「こいつでここを吹き飛ばす。もちろん俺らが安全な場所に避難してからだ。こいつが爆発して警察が騒いでいる間に逃げる」
「それでどれくらいの時間が稼げるの?」
「ざっと五分だな。警察だってバカじゃない。すぐにこの爆発がフェイクだって気づくだろう。だが五分もあれば十分だよな」
「あぁ」
『マグロ』は冷静だった。何かを待っているかのように。
その頃、彗たちは突入準備をしていた。
「令状は準備してある。突入まで後二分だ。準備はいいな」
「「はい!」」
そして突入まで後一分という時だった。
バーン!!
「爆発音!?なんで!?」
「バレてたか!?おい!他の班に連絡しろ!」
「はい!」
「はやく突入しろ!」
鳥籠の合図とともに彗たちは突入する。
「警察だ!令状がある。突入!!」
第一班が突入するとそこはすでにもぬけのからだった。
「やっぱりな。バレてやがった。奴らはまだ遠くへは行っていないはずだ。追うぞ」
「「はい!」」
「うまく行ったわね。で、これからどうするの?私、結構あの映画館気に入ってたのに」
「しょうがないだろ」
タコとクラゲが言い争っている。それを見ながら風間は考えていた。こうして警察から逃げられたのはいいが、そもそもなぜ潜伏場所がバレたのか。この四人は逃げる時、証拠は残していないはず。じゃあ、なぜ?
もしかしたらこの四人の中に裏切り者でもいるのか。しかし、この四人に限って裏切ったりはしないはず。
裏切りものが誰なのか考えていた風間だったがすぐに疑うのはやめた。やはりこの四人の中にはいるわけがない。自分の考えに賛同し、ついてきてくれた者達だ。そんな彼らを疑うのは彼らに対して失礼だと思ったのだ。
彼らは戦海団。富めるものから金品を強奪し飢えるものへ与える。彼らのような者達を世間は義賊と言う。
彼らは誓いを忘れないためにそれぞれ魚を象った被り物をかぶっている。そして『札』の力を使う。
今、彼らは爆発の混乱に乗じて逃げてきて、少し離れたガレージに隠れていた。
「に、しても早く新しい隠れ場所を探さないとまずいぞ。ここだっていつまで安全かわからない」
「そうだな。じゃあ作戦会議だ」
これからのことを考えるためスマホを取り出した風間達のもとへ見張りの『サザエ』が駆け込んでくる。
「や、やばいぞ!外は警察だらけだ!」
「なんだって!早く逃げる準備をしろ!」
そこへスーツの男が入ってくる。口には細いストローをくわえ、片手をポケットに突っ込んでいる。そう、対策課 課長 鳥籠俊介だ。
「逃げる準備中わりぃな。今すぐ投降してもらおうか」
「てめぇ、何ほざいてんだ!するわけねぇだろ!」
「そうよ。しかもあんた一人じゃない!舐められたもんね!」
『クラゲ』は鳥籠に向かって触手を伸ばすが避けられた。
「あいつ結構やるわよ。どうすんの!」
「ここは俺が引き受ける。みんなは逃げてくれ!」
「…頼んだぞ。先に行ってるからな」
「すぐに追いつくさ」
『サザエ』は他の者達を逃すと拳銃を取り出す。
「ポリ公が!俺たちはな、こんなところで立ち止まってるわけにはいかねえんだよ!」
「悪いがそれはこっちのセリフだ。俺らの目的お前みたいな下っ端一人ではなく主犯格の風間だ」
「だからいかせるわけにはいかねえんだよ!」
サザエはそういうと拳銃を構えてトリガーを引く。
カチャ!カチャカチャ
「おいなんで、出ねえんだよ!」
「悪い。お前の拳銃は打てねえよ。発火しないからな」
「お前の札の能力か!」
「ざっと、そんなところだ」
「そういえば、課長の札ってなんなんですか?」
「あんまりよくは分からないけど、確か二個ぐらい見たことあったような…」
「え、札って二個も持てるんですか?」
「持てるよ。確か最高四個まで!まぁ多く持てば持つほど上への申請が通りにくくなるけどね」
「で、課長の札って?」
「鳥系?一つは軍艦鳥でもう一つは、おっかないやつ!」
「…知らないんですか?」
「知らない。課長は普段、拳銃だけで終わらせちゃうからね。ていうか、課長遅くない?長谷部どうする?」
「課長は進展がなかったら二手に分かれて片方だけ入ってこいとおっしゃっていた。そろそろいい頃だと思う。様子を見に行ってもいい頃だと思うが…」
「行こうよ長谷部。課長ピンチだったら大変じゃん!」
「あの人に限ってそんなことはないと思うが。まぁいい、入ろう」
長谷部達、第一班が突入すると中はとんでもないことになっていた。ガレージの中心から銃弾が嵐のように飛び交っているのだ。第一班は物陰に隠れていた鳥籠と合流する。
「お前らが入ってきたってことは外に何も進展がないってことだな」
「はい。第ニ、三班も到着し、逃げた犯人と交戦中とのことです。それで課長、これはどういうことですか?」
「真ん中を見ろ。あのサザエやろう召喚で貝殻の中の引きこもって中から銃弾が撃ちまくってやがる」
「しかし、課長なら銃弾を発射できないようにできるはずでは?」
「あれは能力使って撃ってるからこっちのが効かねえんだ」
「なるほど」
あれをどう対処しようか迷っている鳥籠と長谷部の横で彗が鈴鳴に質問する。
「召喚ってなんですか?」
「札の印があるでしょ。あれを時計回りになぞると、その札の能力を引き出せるんだけど。印を反時計回りになぞると能力が切れる代わりに札に描かれた生き物を召喚できるの」
彗が納得し、うんうんと頷いている横で鳥籠達は作戦をきめていた。
「おそらくあいつはこっちを見れていない。そしてあのでけぇ巻貝のトゲを取れば銃弾は止まるだろう」
「じゃあ、俺たちであのトゲを拳銃で全部撃ち抜きます」
「頼む。やつの動きが止まり次第俺がとどめを刺す」
鳥籠はそういうと胸ポケットから警察手帳を取り出し表面をなぞった。
獣札とは厳密にいうと生き物の力を使用者に与えるのではなく、生き物の力をベースにした能力をその札が貼られているものに与える。そうすることによって使用者はその能力が使えるのだ。
しかし、何回も札を使用していると札と使用者の身体とのシンクロ率が高まる。その結果、札の力が貼られている物だけでなく、他の身につけている物や使用者にも影響を与えるようになるのだ。
まさに鳥籠はその具体例だった。さっきまで普通の革靴だったものからは鋭く頑丈な爪が三本伸び、ネクタイは燃えていた。また、目の下には鮮やかな青い模様が入っている。
火食鳥。それは時速50キロで地を駆け、『世界一危険な鳥』として世界記録を乗せたあの有名な本にも載っている鳥。それが鳥籠の札の能力だった。
「そうそうこれだよ、おっかないやつ」
サザエの棘が半分ほどなくなった時、鳥籠は走り出した。人間では考えられないような速さで走る鳥籠は、飛んでくる銃弾をかいくぐっていく。
「やめろ!来るなァァ!!」
鳥籠は走るスピードをそのままに大きな巻貝に向かって飛び蹴りをした。
見事飛び蹴りが命中した巻貝は簡単に砕け、中にこもっていた『サザエ』もろとも吹っ飛んだのである。
「こちとら大型動物をけり殺す鳥だ。巻貝の殻破るなんて簡単なんだよ」
その後、床に倒れ伸びていたサザエを捉え、第一班は逃げる風間のもとへと向かった。
札の能力とはあくまでその動物をイメージしたものを最大解釈したものです。決してテラ◯ーマーズ的なものではありません。