太刀魚と暴走列車
今回はキャラクターの自己紹介と札の説明が多めになります。すみません…
彗が警察学校を卒業した後の話になります。
「では次のニュースです。昨日未明、都内の宝石店に強盗が入りました。強盗は四人組で全員マスクで顔を隠していたとのことです。では次のニュースです……パチッ」
彗はワイシャツのボタンを閉めながらテレビを消す。今日は待ちに待った初出勤の日。楽しみにしていたのだが、同時に緊張もしていた。
「電気は消したし、ガス栓は閉めたし、うん、大丈夫」
真新しい靴を履き、家を飛び出す。あ、忘れてた、と家に鍵をかける。
家から駅までは五分ほどしかないがいつも駅までは自転車に乗って行く。自転車が趣味、ということでは無く、ただ少しでも早く勤務場所へ行きたかったのだ。
電車を降り、歩くと勤務場所が見えてきた。普通、警察学校を出たばかりの新米警察官は交番などで経験を積んで行くのだが今、彗の目の前にあるのは交番ではなかった。それはドラマなどで一度は見たことのある「警視庁」と書かれた大きな建物。
そう、東京の治安維持の中枢である警視庁だ。
それはちょうど1ヶ月前、警察学校を卒業間近という時。ほかの者達は勤務することになる交番が決まっていた頃だった。自分も例外では無く、勤務先となる交番が決まっていた。
しかしそこへ思わぬ知らせが届く。その内容は勤務先の変更というもので、変更された勤務先がこの警視庁だったのである。
彗は少し緊張しつつもその入り口をくぐる。くぐった先には大きな空間があり、スーツを着た警察官や、数名の部下を連れた重要な役職についているであろう青い制服を着た者もいた。
よし、行くぞ!と意気込み、一歩を踏み出すが肝心なこれから向かう場所を知らなかった。あの知らせには「水上 彗の勤務先を警視庁へ変更する」としか書いておらず、その中の部署がどこなのかは分からなかったのである。そこで彗は受付で聞くことにした。
「すみません。本日付で警視庁で勤務となりました。水上 彗です。あの、僕はどこの部署へ務めることになっているかわかりませんか?」
「少しお待ちください。えーっと、ありました。本日から獣札対策課に勤務となって降ります」
「ありがとうございます」
あれ?ケモノフダって、
エレベーターを降りて少し歩いた先にその部署は見えてきた。すりガラスになった扉を開けるとそこには思っていたのとは少し違う光景が広がっていた。警察の部署といえば皆真剣な顔で仕事をしているか、逆にあわただしく事件解決のために動いているのを想像するが、この空間にはそのような空気は無かった。テレビのニュースの音が大音量で流れ、ある者はニュースの流れているテレビとは違うテレビでゲームをし、隣接した小部屋からは煙が出ていた。
そんな乱雑とした空間で雑誌を平然と読んでいた男がこちらに気がつき、顔を上げる。
「おいそこのお前、こっちこっち。新しく配属になった新人だろ」
男は彗を呼び寄せる。
「おーいお前ら新人紹介すっから集合」
男が声をかけると数人がこっちを見るだけで集まろうとはしない。こっちを見もしない者はゲームをし続けたり、コーヒーミルを回していたりと様々だ。
「そうだよね。ぜってぇこっちに集まれって言っても集まんないからね。なぁ、どうしたらいいと思う
水上?」
「え、いやあの、わかんないですけど…」
急にこっちに振ってきたためうまく受け答えができなかったのだが、それ以上に
「なんで僕の名前を?」
今日、自分を含めて二人新人が入る予定になっていて、さらにここの課長はその二人の顔を見ていないと受付の人から聞いていたため、なぜこの人が自分の名前をわかるのか不思議だった。
「いやお前、一回俺と会っただろ。通り魔事件の時」
「あ!」
彗は思い出した。この気だるそうな顔を。
「あの時のスーツの人」
「正解。かなりヒントあげたんだけどな、お前全然気付かねぇから」
「ヒントなんか分かんないですよ」
「スーツとか」
「分かんないです」
「あっそう、ま、分かったんならいいや」
そのスーツの男はあっさりと話しを切り上げ、対策課の者達の方を向く。
「おいお前ら、こっち見るだけでいいからこっち見ろ」
まるで地を這うような声で言うと、全員こちらへ向く。
そして男は気だるそうな顔で紹介を始める。
「今日から皆さんのお友達になります、水上 彗君です。みんな、すい君って読んであげてね」
保育園の新しく入った子の紹介か!彗は心の中でそう突っ込んだが口には出さないようにした。ここでこういうやり方が普通なんだと言い聞かせて。
「保育園の新しく入ったやつの紹介かよ!」
案の定飛び出した。違った、やっぱりこんなやり方はここではしてないんだ。いや普通よく考えてみたらするわけがないのだが。
「はいそこ僕、新しく入った子に意地悪しない」
男は変わらず気だるそうな顔で注意をする。
「誰が僕だコラァ!!」
彗よりも背の低いまだ未成年かのような少年が吠えた。
「んだよ、自称未成年の25歳」
「自称してねーわ!テメェがかって言ってるだけだろーが!」
年上だった。少年でもなかった。見た目とのギャップがすごいなぁ と思いながらその光景を見ていると勢いよく扉が開き女性が入ってくる。
「すみません!遅れました!」
息を切らし両膝に手を当て呼吸をするので精一杯という感じだった。
その女性はショートヘアでボーイッシュな髪型のキリッとした顔立ちをしていた。女性用のスーツを着こなし切れてはいないがとてもよく似合っていた。
「二人目の新人、自己紹介」
え、そこで?前に来させなくてもいいの?そう思っていたが、当の本人はそんな風に思うことは無いようで、自己紹介を始める。
「本日付で警視庁 獣札対策課へ配属されました、大槻 湊っす!」
二人目の新人が挨拶をしたところでスーツの男が進行する。
「えーっと、じゃあ次はこっちの方の紹介だな。俺がこの対策課の課長、鳥籠 俊介だ。あとこっちは…対策課の皆さんだ!」
「あ!てめぇ!さてはめんどくさくなったな!俺らのことも紹介しろよ!」
「そんなに自己紹介したかったら勝手にすりゃいいだろ」
「ったく、わかったよ。えーと俺の名前は春間 御影。」
元気な小っちゃい先輩の名前は春間さん、と覚えたところで横から別の人が入ってくる。
「ねえねえ!彗ちゃん、私のこと覚えてる?鈴鳴だよ!」
「あ!あの時、説明してもらった!」
「おぼえてた〜!これからよろしくね!、あ、それでそれで、こっちのすましてんのが長谷部」
ほんとだ、エリートっぽい。
「こんちはっす!」
軽い口調で湊が挨拶をしたところで鳥籠が声をかける。
「そろそろいいか? こっから大事なこと説明するぞ。この対策課は第一、ニ、三班の3つの班とあっちの部屋に入り浸っている技術班で出来ている。それで水上、お前は第一斑。大槻は第ニ班だ。それでだな、お前ら仕事を始める前に獣札の説明してもらってこい。穂村ちょっと手休めて一回来い」
隣接している技術部屋にいるであろう「穂村」という人物を鳥籠が呼ぶ。煙が出ている部屋から出てきたのは白衣を着て、ゴーグルを額に掛けている女性だった。
「何すか?あ、あぁそういや今日新人がくる日でしたね。今回入ったのは女性二人ですか。全然男子が入ってこないですよね〜」
「ほんとだよ〜こう、筋肉モリモリのマッチョマン来ないかな〜」
「琴音は何で筋肉が好きなの?」
「え!分かんないかな〜、ニメートルくらいあるマッチョマンの上腕につかまってぶらぶらしたい!」
「分かんない」
「おい…お前ら、何か勘違いしてるけどな、今回の新人は男と女ひとりずつだ」
「え!うそだ〜 課長うそは良くないよ」
「お前らおそらく水上のこと、女だと思ってんだろ。こいつは男だからな、勘違いすんなよ」
「まじか!彗ちゃんじゃなくて彗君だったの?」
「はい…自分男です。」
「そうだったの、ごめんね。てっきり私、君のことめっちゃボーイッシュなボクっ娘かと思ってたからさ今回の新人君はボーイッシュ女子二人だー!って思ったんだ」
「いいですよ、何回かそういうことありましたから」
実際、彗の髪型は女性でいうショートレイヤーという髪型に近く、顔立ちも女性ですと言えばそれで通ってしまうぐらい女性ぽくイケメン女子という感じだった。何よりガタイもそこまでゴツくはなかったためそれらを引き立たしていた。
「私も女子かと思ってたっすよ」
ずーと何気無く話を聞いていた湊も少し驚いていた。
「もういいから。穂村、この新人二人に恒例の説明会して来い」
「待ってました!きましたよ、私の出番が!さぁほら、行こう新人君達!」
鳥籠が静まらせた空間に穂村の張り切った声が響く。そして穂村は彗と湊の二人の新人を連れ対策課の部屋を飛び出した。
「今回も長くなりそうですね 、課長」
「あぁ」
「あ、長谷部さん喋った」
「鈴鳴、お前が喋り過ぎなだけだ」
「長谷部ひどい、私達、もっと親密な関係だったのに!」
「お前とは何の関係もない」
長谷部は静かに否定した。
対策課とは少し離れたところにある会議室に連れて来られた二人は戸惑っていた。なぜなら穂村が十分前に出て行ったまま帰ってこないのだ。トイレかな?と思ったがそれにしては時間がかかりすぎている。もしかしたら何か起こったのではないか、と思っていたがそういうことでもなかった。ガチャっと扉が開き穂村が両手にたくさん資料を抱えて帰ってきたのだ。
「おまたせ〜 よしじゃあ始めよう」
穂村はそう言うと周りが金属のフレームの薄いガラスケースを取り出す。
「この中に入っているのが獣札なんだけどさ、あんま見ただけじゃわかんないよね。じゃあ、まずは対策課のことから説明しますよ!」
穂村はいきいきとしていた。
「えーっとね、獣札対策課っていうのは主に獣札を使用した犯罪の解決、抑制、そして獣札の回収をしている部署なんだけど、まず獣札って何?っていうところからやって行こう。彗君は獣札を見たことあるんだっけ?」
「はい、あります。あの通り魔事件の時に…これです」
彗はカバンから封筒に入った獣札を取り出し穂村に渡す。
「おぉ!これは、イルカだね」
「いいなぁ。私も欲しいんだけど」
「説明した後に渡すから。じゃあ、説明に入るよ。まず獣札って言っても四つのクラスに分けられてます。下からC、B、A、特Aの順に強力なんだけど、まずCクラスから。Cクラスの札は獣札が全体で約数百枚あるうちの半分ぐらいあると言われてるよ。定かじゃないけどね。獣札の中でも比較的威力が抑えられているものが多く、札の縁の枠の色が白いのも特徴。はいここテストにでるよ!」
「わかりましたー!」
「湊さん、ここはスルーするところだから」
「あ、彗君ひどい。先生泣いちゃうよ〜。もういい!Bクラスの説明に入るから!」
穂村は怒った様子だったが、すぐにもとの笑顔に戻り説明を続ける。
「次にBクラスの札はCクラスのものより強力で、我々対策課が主に使用しているのもBクラスだよ。あ、君のそのイルカの札もBクラスかな。枠が赤いし…… で、その上にAクラスがあって、このクラスの札は捕食者が多いんだ。よくわかんないけど」
「わかんないんですか?」
「わかんないね。で、Aクラスの札は枠が黒いのが特徴!それでこのクラスの札はめっちゃ強力!はいこれ見本」
穂村は彗達に先ほどのガラスケースに入った札を見せる。中の札には細長い魚が描かれていた。
「これは太刀魚の札だよ。ほら、太刀魚って銀色の刀みたいな魚…… わかった?」
彗達はうんうんと首を縦に振る。穂村はその光景に満足したのか「よろしい!」というとまた、説明を再開する。
「最後に特Aクラス!この特Aクラスは特殊でね、なんとこのクラスはさらに三つに分けられます!えーっと、絶滅型から。絶滅型は、その名の通り古代の絶滅していった動物達がモデルなんだよ〜。古代のロマンだよね!で、ここがめちゃくちゃ重要なんだけど、この型の特徴が、純粋な圧倒的攻撃力!攻撃力半端ない!デストロイだよ、カタストロフだよ、ぐふふ!」
「穂村さんって暴走しがちなんすね」
「違います!私は妄想癖がひどいだけです。次行くよ」
「暴走しがちと妄想癖、どっちも持ってるよねあの人」と、思ったが、その暴走列車は待ってはくれない。終点までまっしぐらだ。
「次は幻獣型!ミステリアス!これはおとぎ話や神話に出てくる動物がモデル!ま、実際にいない動物がモデルなんで、私の専門外なんすけど…」
「穂村さんの専門ってなんなんすか?」
「私の専門は生物学だよ。それでいて警察官!二つの顔を持つ女、それが穂村 千歳よ!あんだ〜すたん?」
「「YES!!」」
「オッケー!よしじゃあ次いってみよー!最後は複雑型!ここイマイチよくわかんないんだよね、サンプルが少なくてさ。ここはあんま説明できないから何かわかったらまた教えんね」
「「はい」」
「休憩にしよう。十五分後に再開するから、解散!!」
穂村の威勢のいい声で説明会前半戦は一度、幕を下ろした。
まだ、あまりキャラが固定してないのでよくわかりにくいかもしれませんが、あったかい目で見ていただけると嬉しいです。
次回から怪しいやつらが動き出します。
誤字、脱字がありましたらご報告していただけると幸いです。