Dolphin jump!!
動物の力を使ったバトルアクションって良いですよね。(個人の意見ですが…)
そんなわけでこの物語を書かせていただきました。
ケモノの力が封じられた札がこの物語のキーアイテムとなります。
皆さんはどの生き物が好きですか?自分は深海魚が好きです。ええ、とても。
最後に、この物語を楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに主人公の名前の読みは「みずかみ すい」です。
江戸時代
「この札はこの世にあってはいけない物だ」
屋敷の中にある蔵の中で家主であろう人物が緊迫した顔で言う。
「ですが旦那様、このようなことがお上に知れたら…」
「構わぬ!ことは一刻を争う!」
「この札は我らには扱えぬ。だから後世にたくのだ。それまでは決してこの箱を開けてはならぬ」
男は今くらい蔵の中にいる。先月亡くなった父親の残した物を整理するため、『蔵の中の物、ご自由にお持ちください』などという看板まで出していた。
「ゴホッ!ゴホッ! すごいホコリだな。ったく、親父もなんで死ぬまでこんな蔵残しとくんだよ」
男はそういいながら奥に進む。父親は骨董収集が趣味だったため、蔵の中はツボや掛け軸などでごった返していた。そして一番奥に置いてある箱を見つけた。
「お、結構年期が入った箱だな。なんか値打ちのある物でもはいってるといいんだけど…」
男はおもむろに開けようとしたが、釘で打ち付けられているのか全く開く気配すらない。その箱は同じような箱が三つ積み重なり丈夫な紐で縛られ、その四方に動物の絵が描かれた紙が貼られているという見たこともない代物だった。男はハサミを持ってきて紐を切り一番上の箱の蓋に打ち付けられた釘を抜く。そして蓋をあけた。
だが、中に入っているものを見て男は気を落とす。
「なんだよこれ、絵の描かれたボロい紙切れかよ。まぁでも一応とっておくか」
箱の中を見て気を落としているところへコートを着た男が入ってくる。
「すみません。蔵のものを頂けると聞いたのですが」
「あ、いいよ。好きなの持ってって。タンス?ツボ?なんでもいいよ」
「私はその箱をいただきたいのですが」
「これ?これ変な絵が描かれた紙切れしかはいいてないけどそんなんでいいなら…」
「では、いただいていきます」
「他には欲しい物は… って、あれいない。なんだったんだろあの人」
この箱に入っていた紙切れがこの後、次々と事件を引き起こすとはまだ蔵主は知る由もなかった。
渋谷の街は流行の発信地だ。 女子高生達がこの前できたばかりのパンケーキ店に入っていき、旅行できたであろう外国人が写真を撮りながら歩いていく。そんな目がチカチカするような街をある青年が歩いていく。この街には場違いな背中に背負ったリュックサックの横に竹刀を止めるという格好。その青年、水上 彗はスーパーへ行く途中だった。彗は今、警察学校に通っている。警察学校は寮制なのだが、彗は長い休みの時は実家へかえるようにしている。そのために、夕飯のおかずを買いにいく途中だった。今日は母は午後六時過ぎごろに家へ帰ってくるため、彗がおかずを買ってくる約束なのである。
その時、ドンッ!と、前から歩いて来た男性と鈍い音を立ててぶつかってしまった。
「すみません!よく前を見てなくて、大丈夫ですか!」
彗は謝りながらぶつかってしまった男性の落とした書類を拾う。
「すみませんこちらこそ」
男性は彗から書類を受け取ると速足で歩いていった。男性が見えなくなってから歩き出す。
スーパーでは揚げたてのコロッケが買えた。ラッキーだ、そう思いながらスーパーで買ったものが入ったレジ袋ではない方の着替えが入った紙袋をのぞいたとき彗は紙切れのような物を見つけた。
「何だろう。イルカかな?」
手に取った紙にはイルカの絵が描かれていた。彗はハッとする。さっきぶつかった人のだ。そうと気づいたのならばかえさなくては。そう思い、歩いて来た道を戻りぶつかった場所へ戻る。もちろんあの人はいるはずもない。だが待っていたら気づいて戻ってくるかも知れないと考え、しばらくの間そこで待っていた。
しかし来なかった。交番に届けてから帰ろうと思った時…
女性の物と思われる 悲鳴が聞こえた。彗は悲鳴の聞こえた方向へ急ぐ。
「なんなんだよこれ…」
そこには目を疑うような光景が広がっていた。いたるところで人が血を流しながら倒れている。あるものは血を流しながら助けを求め、またあるものは体が上下で真っ二つに分かれピクリとも動かない。そしてその横にはその者を助けるよう求めながら泣きじゃくる女性。彗はあまりにも悲惨な光景に目をおおいたくなった。何でだ?何故このようなことがおきているのか全く分からなかった。そこへ血を流しながら女性がこちらへ歩いてくる。彗は近寄り手当てをしながら話しかけた。
「大丈夫ですか!?すぐに止血します!」
持っていたハンカチで女性の腕の傷口を縛る。
「ありがとう、私は大丈夫よ。はやく他の人を手当てしてあげて!」
「わかりました。ここに座っててください」
そう言うと怪我をしている人の多い方へ向かう。数人を手当てしたところで救急車が到着した。
怪我人の手当ては救急隊員に任せ、この通り魔を引き起こした犯人を探す。自分だって警察の卵だ。悲惨な事件を起こしたみつけてやりたいと思っていた。
その時だ。近くの電柱がスパンと切断される。彗は急いで物陰へ隠れ、切断された電柱の方を見た。そこには全身に返り血を浴び元の色がわからなくなったシャツを着た男が立っていた。その両手にはそこら辺で売っているような物ではない異形の鎌が握られている。彗がそう考えている間も男は辺りにある物にまるで狂ったかのように鎌を振り下ろす。その姿はこの通り魔を起こした犯人そのものだった。
その犯人は獲物を見つけたケモノのようにフラフラとよろめきながら逃げる通行人に斬りかかろうとかけだした。
彗はただ黙って見ていられなかった。警察官の血が騒ぐ、いやまだ警察官ではないのだがそんな気がしたのだ。男は右手に持った鎌を通行人に振り下ろした。
だが鎌は空を切る。彗が鎌が振り下ろされる寸前に飛び込み、通行人を助けたのである。
「はやく逃げてください!早く!」
通行人はまたフラフラとした足取りで逃げていった。
「兄ちゃん何してくれとるんじゃ… お前、何をしてんのか分かっとるんじゃろうな!!」
「あなたこそ何をしているのか分かってるんですか!!」
「黙れェェ! 俺はただ、俺はただこれの切り心地を試しただけなんじゃ。それなのにおまえは!」
男は少し鈍った口調で叫びながら怒っている。そして怒りながら鎌の切っ先をこちらに向けた。
「ぶっ殺しちゃる!お前は絶対殺しちゃるからな!」
そういいながら男は切りかかって来た。が、彗は寸前でかわす。普段剣道をしているせいか、正気を失いかけている男の太刀筋はなんとか見切れている。しかし問題はそこではない。太刀筋は見切れているのだが、男が手にしている鎌の長さが異常だった。しかも1メートルはあろう鎌を男は両手に持ち軽々と振り回している。
「痛っ!これじゃダメだ!全然近づけない」
先程から斬撃はかわせているがそれでもかすり傷ほどの傷を全身に負ってしまっていた。
「何じゃぁ兄ちゃん、さっきの威勢はどこいったんじゃぁ?」
たしかにその通りだ。このままでは取り押さえるどころかこちらがあの鎌の餌食になってしまう。
ついに鎌を避けきれなくなった。男はそれを待っていたかのように疲れ果て動けなくなった彗へ鎌を振り下ろす。
その時だ。目の前を閃光が横切りそれと同時に男は吹っ飛び、地面に倒れ込んでいた。
状況が読めていない彗へスーツを着た男が話しかける。
「だいじょーぶか?そこの君。あとは任せな、ここからは俺ら警察の仕事だ」
スーツを着た気だるそうな男が逃げるように言う。
「やっと警察が着た」そう思ったのもつかの間、通り魔犯は起き上がっていた。
「待てやァァァ!てめぇは俺がぜってぇぶっ殺すつったろうがァ!」
通り魔犯は弱った気配もなく未だにこちらをターゲットにしているようだった。
「あらら、これじゃ安全に逃げられそうにもないね。おい、鈴鳴。あいつは『ケモノフダ』の使用者か?」
「おそらくそうだと思います。ですがこの威力は規格外ですね」
スーツを着た男の横に立っていた可愛らしい女性が答える。
「お前ら、あの通り魔を取り押さえろ」
スーツの男が部下と思われる男性に指示を出していた。
ん?ケモノフダって何だろう?そう思い聞いてみる。
「あの、すみません。『ケモノフダ』ってなんですか?」
「あ!獣札はですね…」
可愛らしい女性が持っていたカバンから写真を取り出し見せる。そこには見たことのあるものが写っていた。長さ10センチ、幅5センチくらいの古めかしい紙切れに動物の絵が描かれているものだった。彗はポケットからその紙切れを取り出し見せる。
「すみませんこれ、さっきぶつかった時まぎれこんじゃたみたいなんですけど…」
「あ、お前それ。それだよ獣札」
「これ何に使うんですか?」
「見ての通りだ。ケモノだよ、獣。これを使って動物の力を引き出すんだ」
スーツの男は少しだけ考えてから口を開く。
「お前、これ使え」
「え?」
「もし使えたらな、ここにいる負傷者を安全なところに運べ。初めてでもそれぐらいはできんだろ」
そう言いながら横に立っている「鈴鳴」と呼ばれていた、可愛らしい女性に札の使い方を説明するようにいう。
「じゃあ俺はあっちの加勢に行くからあと頼むぞ」
「わかりました!じゃあ説明しますね。まず今、愛着のある物はお持ちですか?」
「愛着があるかわかんないですけどこれなら…」
彗はリュックサックにくくりつけていた竹刀を差し出す。
「はい、これで十分ですよ。では次にその獣札を竹刀に貼り付けてください」
「こうですか?」と、聞きながら彗は札を竹刀に貼り付ける。その札は竹刀にぴったりと貼り付き取れなくなった。
「かちょー!貼り付きましたよ!」
鈴鳴は先程のスーツの男を呼ぶ。男は前線を離脱し、こちらへ来る。
「よし、第1段階は成功だな。次はその札に描かれている印がわかるか?」
彗はコクリと頷く。
「その印を時計回りになぞれ。そうすりゃ印が開ける」
札に描かれた印を時計回りになぞる。その瞬間、札に書かれて「坂東鯆」の文字が空中に浮かび上がり竹刀に吸い込まれる。文字を吸い込んだ竹刀はその刀身を竹製から水へと変えた。そして数頭の小さなイルカがその水でできた刀身をまるで水面かのようにとびはねている。
「すごい!これが獣札!」
「じゃあお前はこれからあそことあそこにいるけが人を救急隊のとこまで送り届けろ」
彗はすぐに負傷者のもとへ向かった。そして一人を送り届けすぐにつぎの負傷者のもとへ向かう。そこにいた負傷者は親子だった。子供は頭に怪我をしていたため子供の方を先に送り届けることにした。
「お母さん、お子さんから救急隊のところへ送ります。それからお母さんの方もすぐに迎えにくるので待っていてください」
「…はい…お願いします」
母親の声は弱っていたが、子供を助けたいという気持ちは強かった。子供を背負い竹刀を片手で持つ。
「じゃあ僕、しっかりつかまって」
そう言って彗ははしり出した。札の効果で体は強化されていたが、それでも彗は全員に傷を負っていたため体力も限界だった。だがまだ足を止めるほどではない、と自分に言い聞かせ走り続ける。
しかしそんな彗へ追い討ちをかけるかのように大きな瓦礫が飛んでくる。
飛んでくる瓦礫に向かって竹刀を振る。竹刀に当たった瞬間、瓦礫は跡形もなく粉々に弾け飛んだ。
その威力は凄まじかった。
子供を救急隊のもとへ送り届けた後、母親もおくりとどけた。そしてその場を後にしようとした時、救急隊員に呼び止められる。
「ちょ、ちょっと君!君も怪我をしてるじゃないか!さあこっちに!」
「でもまだ怪我をしている人が…」
「大丈夫。あとは我々が助けるから心配しなくてもいい。それに君だって負傷者だ、救急隊員としてそんな君を行かせるわけにはいかないよ」
「…わかりました」
「よし、じゃあ手当てをしよう」
しばらくして犯人が捕らえられ、彗は護送車に押せられて行くのを見ていた。犯人は先程とは打って変わって大人しくしていた。
そこへあのスーツの男がやってくる。
「さっきは、ありがとな。よく逃げずに人命救助できたなお前」
「あ、僕今、警察学校に行ってて」
「警察官志望か。そんなら納得だよ。じゃあ、この春に卒業か?」
「は、はい!…あと4ヶ月ぐらいです」
「そうか。お前、名前は?」
「水上 彗です」
「水上か。覚えとく。今日はありがとな」
スーツの男はそう言い残すと去って行った。
彗は何か忘れているような気がした。そこまで重要ではないが、気になっていた何か。
「あ、あのスーツの人の名前聞いてない」
彗が気づいた頃にはもうその姿はなかった。
イルカの漢字は「河豚」と書くことが多いですが、ここでは「鯆」と漢字一文字で書かせていただきます。
もし誤字脱字があればご報告いただけると幸いです。