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第九話 魔王、ふたたびエルフと逢う

 さて。ではここらで、新しい仲間の情報でも書いておこうか。


 《エルフのおねえさん》

 名前:サティ

 年齢:しらない(見た目は18歳くらい?)

 容姿:あごよりすこし長い金色の髪。

    一部に緑のメッシュあり。

    緑の瞳。

    とにかく色白。スタイルよし。

    身長はおれより少し低いくらい。

 装備:フード付きのコート(いつでも耳を隠せるように、らしい)

    緑を基調とした膝丈ぐらいのワンピース

    ピアスや腕輪をしているが、一応マジックアイテムらしい(詳細は不明)

 


 サティの家のまわりには、亡者どもが近寄ってこられないように結界が張られていた。

 しかし、一歩そこから外に出ると、ふたたびものすごい数の亡者たちが襲いかかってくる。

 おもに、膨大な魔力を持った、極上のエサであるところの、魔王様を狙って。


 これには、ふだんこの亡者の森と町を行き来しているサティも多いに驚いたようだった。


「やっぱり魔王なんだねえ」


 などと、わけのわからない感心をしながら。

 

 サティは、回復魔法と風の魔法が使えて、戦闘面でもどこかの魔王様と違い多いに頼りになった。

 そしていつもやさしく、笑顔をたやさず、言うなれば、実に陳腐な言いまわしではあるものの、まるで女神のようであった。


 みたいに思ったことがすっかり顔に出ていたのか、あるとき思いっきり魔王様に足を踏まれた。

 本人は、「ゴッキーが見えたから踏みつけただけじゃ」とか言ってたけど、実にうそくさい。

  

 しかし、おれは早々にして……そのサティが怒った姿を、目にすることになるのであった。


「うーん。アキラくん。これはちょっと、ありえないとおもうなあ」


 おれたちは無事に港町トリースカまで帰り着き、宿にいた。

 倉庫にあずけてあった、おれのセーラー服……になれなかった布たちを見下ろしてサティが言ったのが、上記の台詞だったのである。


「エルフは、自然と共生しておる。モノの無駄遣いというのを、一番きらうのじゃよ」

 

 しれっと魔王様が今更になって説明した。


「う……す、すみません……」

 

 たしかにおれは、かなりの量の布を無駄に使ってしまっていた。

 トップス用の白地の布、スカート用の紺地の布。

 型紙からして間違って切ってしまったものやら、寸法違い等々。

 なんとかがんばって服の形っぽくなったものもあるけれど、でもこれを着たいかと言われれば、おれ自身が首を横に振ってしまうような代物。

 

「でも……こうなっちゃった以上、この布、もう使えないですよね……」

 

 ついつい敬語になる。

 ふだんおだやかな人、というのは、怒るととてつもなくこわいものなのだ。

 

 サティは、首を振った。

 そして、言った。


「……ちょっと、一カ所つきあってもらいたいところがあるんだけど、いいかな?」


 

*    *    *



「……ここ?」


 おれの問いかけに、サティはうなずいた。

 

 港町トリースカから東に4フォートほどいけば、死霊の森がある。

 逆に西北に5フォートほどいけば山があり、その麓には洞窟があった。

 

 暗く、じめじめしたそこを松明片手になれた様子でサティは先導し、そしてたどり着いた先には、またもぽつりと家があったのだった。

 洞窟のなかにはたいした植物などなかったはずなのに、そのまわりにはサティの家とおなじようにふしぎなきのこがあり、花々があって、そしてそれらが青白い燐光をはなっている。結界なのだろう。


「もしかして、ここにもエルフが?」


 おれが問いかけると、サティは「ご名答だよ」と笑って言った。

 死霊の森の奥深くとか、人のよりつかない洞窟の先とか、どうやらとにかくエルフというのは、人間には縁がないところに住む傾向があるらしかった。


「わらわはもうくたくたじゃ。できればお茶ぐらいいただきたいものじゃのう」


 さっそく魔王様はもてなされる気満々のようだった。


 たしかに、足場の悪いところをだいぶ長い間歩いてきた。

 つっても、魔王様は手ぶらなのだ。

 重い荷物を運んでここまで来た、おれの身にもなってほしい。


 そう。おれは台無しにしてしまった布一式を持ってここまできたのだった。

 サティいわく、どうやらそれは必要なものらしいのだ。


 サティがこんこん、とドアをノックする。

 すると、すこしおくれて、「だあれ?」と声が帰ってきた。


「メグ、わたしだけど」と、サティが答える。


「あーいいよお、入って」


 ……なんかだいぶ、ゆるい声だな。


「お客さんがいるんだけど。いい? ほんとうに入って」


「え〜。でも、いまさら言われたってこまるしい。いいよお。なんとかなるっしょ」


 なんで、念押ししたんだろう。

 おれはふしぎに思ったが、その答えはすぐに明らかになった。


 サティがゆっくりと開けた扉の先は、たしかに家のなかであったのだが……。

 いたるところに布という布が散乱していて、床が見えないぐらいであった。

 

 ソファのようなところにも、テーブルのようなところにも、いすのようなところにも、いずれも様々な色柄の布が散乱している。

 正直、足の踏み場がない。


 そして、その布の山ともいえるところで、寝っ転がって足をぶらぶらさせながらくつろぐ家主がいた。


 が、おれは思わず顔を背けた。


 その家主が身につけていたのが、まるで下着のような服だけだったからだ。

 それで、こっちに足をむけてくつろいでいるものだから、否が応でも尻のあたりが目に入る。


 エルフのイメージがすっかり清純そうなサティから構成されていたけれど、それを完全に改めなければならないようだった。


 しかし、いつまでも顔をそむけているわけにもいかなかった。

 そろそろと向き直ると、家主が起き上がって、こちらを向いた。

 上半身もやっぱり、下着だか水着だかとしか思えないほどにしか、隠していない。

 たわわな胸がたゆんと揺れるのが、否が応にも目に入った。

 

 桃色のふわふわの髪をツインテールにしていて、顔にはあどけなさもあるが、やはり耳の先が尖っているからエルフなのだろう。

 しかしなんなんだ、この、ほとばしる犯罪臭。

 

「あれえ。サティ、そんなひさしぶりだったっけえ。カレシと、そんなおっきなおじょうちゃんまでこさえちゃって」


「いや、誤解!! つーか誤解しかない、その文章!!」


「そうじゃ! わらわは魔王じゃぞ! こんなパンピーの娘なんかであるはずがなかろう!」

 

「うふ。かんわいい、純だねえ」

 

 おれと魔王様が真っ赤になりながらも慌てて訂正しても、家主——たしか、サティがメグと呼んでいた——は余裕だった。

 つーか魔王様、開始数秒で自ら魔王って明かしてるよ。

 まあ相手が信じるかは別だけど、ほんとうに煽り耐性ないよなあ。


 しかし、それにしても。


「あの……。できれば、なにか着てもらえるとうれしいんですけど……」

 

 おれは言った。

 さすがに、目のやり場に困る。


「ああ、これ? だってさあ、見たらわかるでしょお? おうちのなかぜーんぶこんな感じだから、いっつもベッドのなかにいるようなもんだもん。ふつーの服なんか着たらあつくってあつくって」


 そういう理由なのか。

 というか、おれの頼みは聞き入れられなかったらしい。

 なんか、とんでもない人のところへ来てしまった気がする。


 っていうかこの家も家だよなあ。

 至るところに布が散乱してるから、自然、ほかの日用品やらなんやらもしっちゃかめっちゃかだ。

 汚部屋って、こういうのを言うんだろうか……。


「なんか、また増えてるね。売ればいいのに……」


 旧知のなかであるらしきサティも、思わず言わずにはいられなかったらしい。


「めんどくさあい。別に人間のお金なんていらないしい。サティはものずきだよねえ、おみくじスライムだっけえ。あれまだ売ってるのお?」


「最近まではやってたけど、でも、しばらくはおやすみするかも。このひとたちの手伝いをすることになったから」


「ふへえ、そうなのお? よくよくみたら、このおじょうちゃんはなんだかよくわかんないけど、このおとこのこは魔力量からみても人間だよねえ。ま、べつにどうでもいいけど。あ、そうだ、でもいちおうお客さんだったねえ。うん、てきとうなとこ座ってー」


 なんかほんとうに、えらく適当だな。

 そう言われても、座ろうと思えばどこでも座れるかもしれないが、もともと座るために用意されたであろういすやソファは、ことごとく布という布に占拠されているのだった。


 魔王様がたしか、「エルフは長命なうえ、人間よりも往々にして温和で思慮深いものじゃ」とか訳知り顔で言ってた気がするけど。

 まあ、温和、ではあるんだろうが、はたして思慮深いのだろうか、この人。

 

 そして、サティはなんだってまた、こんな(見た目が)犯罪臭ただよう、変わったエルフさんのところに、おれたちを連れてきたのだろうか……?


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