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第七話 魔王、エルフに逢う 其ノ弐

「その……なんて言ったらいいか。突然押しかけた上に、家のものをいじったあげく、おまけに窓まで……」


 おれ、魔王様、そしてエルフのおねえさんの三人は、テーブルについていた。

 

 謎の大爆発を見とどけて放心するおれたちに、まず最初にエルフのおねえさんが投げかけてくれた言葉が、「とりあえず、お茶飲もっか」だったのである。

 お言葉に甘えて席に案内されて、開口一番おれが言ったのが、さきほどの言葉だったわけだ。


 となりでは、魔王様がしゅんとうなだれている。

 さすがに、じぶんの勝手な行動がこんな結果を引き起こしたことを反省しているようだった。


 しかし、おねえさんは見た目通り、いや、見た目以上に優しかった。

 こんなことをしでかしたおれたちに対し、


「ううん、いいの。ふたりともケガがなくてよかった。わたしも、あんなところにあれを隠しておいたのがまずかったのだし……」


 などと、ありがたいお言葉を投げかけてくれたのである。


「あの。聞いてよければ……あれはなんだったんですか? というか、大丈夫だったんでしょうか。やっぱり、弁償とか……」


「ああ。弁償とかそういうのは気にしないで。きみの投げたほうはひとがやってくる方向とも違うし、むしろナイス判断だったと思うよ。あと、そんなにかたくならないで大丈夫だから」


 そう言って、おねえさんはやわらかくほほえんだ。

 いい香りのする紅茶をひとくち口に含んだあと、ゆっくりと説明を始める。 


「……それで、あの石のことだけど。あれは、爆晶石だね。魔力を流すと、一定の時間が経ったのち、爆発するの。でも、おかしいね。あれを発動させるには相当な魔力がいるはずだから、たいていは起動するのにトリガーになるマジックアイテムを使うのだけれど……。きみたち、そんなもの持ってた?」


「いや……。たぶん、おれはよくしらないけど、魔……こいつは尋常じゃない魔力を持ってるみたいだから、たぶん触っただけで発動しちゃったんじゃないかと思う。そういうこと、あるのかわからないけど」


 おれが答えると、おねえさんは人差し指をあごにあてて考え込んだ。


「うーん。少なくとも、一般人にはそんなことできないと思うけれど……でも実際そうだったのなら、そうなのかもしれないね。さっきも魔法で、きみの右手を強化したみたいだし」


 そういえば、いつの間にか右手の感触は元に戻っていた。

 強化魔法の持続時間は、とっても短いらしい。


「なんか、やけにあっさりと納得してくれるんだな」


「まあ、わたしエルフだから。長いこと生きてると、たいていのことはそうかな、って思えるように、なるものだよ」


 そう言って、おねえさんは笑った。

 

「でも、あんな物騒ともいえるもの、なんでおみくじスライムのなかに?」


「うーん。そうだなあ。べつに話してしまってもよいのだけれど、先にきみたちの用件を聞きたいかも。一応ね、その理由を明かしちゃまずい相手っていうのも存在するから」


 そうだった。

 突然押しかけて、しかも人の家を破壊しておきながら、おれたちはじぶんたちの目的を一切話していなかった。


「おれたち、ゆえあって裁縫スキルのスペシャリストを探していて」


 そう言って、おれは四つ折りにしてしまっておいた、恥ずかしのセーラー服のデザイン画を取り出して、おねえさんに見せた。


「こういう感じの服を、作ってもらいたいんですけど……」


 ああ。

 こんなきれいなおねえさんに見せることになるとは思っていなかった。

 恥ずかしさのあまり、おれは顔から火がでそうだった。


 一方のおねえさんは、そんなおれの心など露もしらず、興味深そうにデザイン画をのぞき込んでいる。


「ははあ。たしかにちょっと、変わった服かも。でも、そのためにわざわざここまで?」


「酒場の女将さんが教えてくれたのが、ここだったんですよ。……難しいですかね?」


「そうなんだ。それでも普通来るかなあ。おもしろいね、きみたち。それで、実際の内容のことだけど……うーん。できなくは、ないと思うよ」


「……あ。報酬のことですか? そうですよね、すみません」


 おねえさんの言い方がどこか煮え切らなかったので、おれは察した。

 でも……そういえば、あまりしっかり考えてなかった。

 

 裁縫スキルのスペシャリストを仲間にしよう!

 と、仲間という安易なことばを使って意気込んではいたけれど、いまのおれたちって、じつは仲間を必要とするほど、仲間を求める口実があるほど、大それた冒険をしているわけでも、人様のためになることをしているわけでもないのだった。

 

 ただ単に、魔王様のわがまま——もとい、異世界転生を果たすために、手始めにセーラー服を作ろうとしているだけなのだ。

 それなのに、仲間になってください、つまり、仲間としてタダ働きしてください、なんて言えないよなあ。言えるわけないよなあ。


 っておれ、気づくの遅すぎだろ。


「いや、そうじゃなくて」


「え?」

 

 言われておれは、いつのまに考え込んでいた顔をあげた。


「もうちょっと聞いてもいいかな。きみたちはどうしてそんな、変わった服をつくろうとしてるの?」


「えっと……それは……」


 おれは言葉につまって、ちらりととなりに座って茶をすする魔王様を見やった。

 だって、ことこまかに話そうとすれば、魔王様が魔王様であることも、明かさなきゃいけなくなる。


「……べつに、無理に隠すこともなかろうよ。それに人間ならまだしも、エルフなら明かしてもそう問題にはなるまい」


 魔王様はおれのそんな様子を察したのか、落ち着いた様子を崩さぬまま言った。


「エルフの娘よ。わらわは魔王じゃ。エルフならば、ことわりの存在は知っておろう。魔王や勇者など、選ばれし存在がことわりによって、ずっとずっとその役割を繰り返しておることも。わらわはな、もうその一切合切に飽いたのじゃ。どこまでいっても魔王であらねばならぬのには、もうこりごりじゃ。それでな、このアキラというのは魔王も勇者もおらぬ世界から異世界転生でやってきたという。じゃから、わらわは決めたのじゃ。なんとしても、このアキラが元いたという、魔王も勇者もおらぬ世界に行くのじゃ。そうしたらこれ以上、魔王であることに縛られずに済む」


 って、話すにしてもそんなになにからなにまで一気に話しちゃって大丈夫なのかよ!

 このおねえさん、こんなトンデモな話についていけるんだろうか……。


 心配になっておねえさんの顔を見やったとき、たしかにおねえさんはぽかんとした顔をしていた。


「はあ、なるほど。魔王か」


「えっ、今のはなし、信じるの?」


 おれはおもわず、思考を声に出してしまった。

 おねえさんは、こくりとうなずく。


「それなら、爆晶石がさわっただけで起動したのも納得がいくからね。それに、そのことわりについてのこと……たしかにエルフはしっているけれど、人間はしらないことだとも思うし。この女の子は見たところエルフではないようだから、これらのことを総合すると、たしかに魔王って言われれば、ああ、なるほどってなるよね」


「そう、か。そんなもんなのか……」


 なんか、ついていけないと思っているのはおればかり、って感じだな……。


「エルフは長命なうえ、人間よりも往々にして温和で思慮深いものじゃ。細かいことにとらわれて、ぴーぴーきゃーきゃーわめくパンピーと一緒にするでない」


 ああ、なんかまた久しぶりに聞いた気がする。パンピーって。


 でも、たしかに魔王様の言うとおりなのかもしれない。

 見た目が似ているから、はなしが通じるから、いつの間にか同じだと、同じようなもんだと決めてかかってしまっているだけで、おれはこのおねえさんのことも、エルフのことも、なにもしらないに近いのだ。


「……エルフはたしかに記憶を保ったまま転生とかはしないけれど、でも一度生まれ落ちたら寿命が何百年、ながいときには千年近くあって……だからその、もうこりごりっていう気持ちは、わからなくもないんだよね」

 

「え……?」


 おねえさんは笑って言ったけれど、その表情はすこしだけ、ほんのすこしだけ、さみしそうにも見えた。

 

 魔王様は、顔色をかえずにお茶を飲んでいる。


 ——だから。

 だから魔王様は、このおねえさんに魔王であることを明かしても大丈夫って言ったのだろうか。

 エルフなら、魔王様の気持ちが多少なりともわかるだろうと、知っていたから。

 

 ……なんかほんとに、魔王様がおれをパンピーって言うのがわかる気がする。

 悔しいけど。


 一週間でだいぶ慣れた気になっていたけれど、やっぱりおれは、この魔王様のことでさえ、まだまだしらないことばかりなのだ。


 今あらためてそれを、思い知った。

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