挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 作者:森田季節

魔族の土地訪問編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

86/282

84 魔王になつかれた

 振り返ると、ドアを開けて、ペコラが入ってきていた。
 ほとんど無意識的にハルカラが身構えている。たしかに、危なっかしい目に遭いかけたからな。ライカも身構えている。ただ、身構え方が二人で違う。ハルカラは逃げ腰で、ライカは戦ってもいいんだぞって感じだ。

「ペコラ、何なの……?」
「皆さん、お食事もまだと伺いまして。せっかくなら、お食事をご一緒できないかと思ったんです」 
 なるほど、それは悪い話じゃない。むしろ、食事という言葉を聞いて、自分がものすごく空腹になっていることに気づいた。
 そりゃ、みんなの安否が確認できるまではごはん食べてる場合じゃなかったしな。人間の体というのは、そのあたり、空気を読んでくれるものらしい。

「ちょうどいいな。場所はどこ?」
「わたくしが来賓の方用の食堂にご案内いたします。さあ、お姉様、行きましょう」
 私の腕をナチュラルにペコラがとってきた。

 これまで会ってきた人の中でも、この子ってとくにボディランゲージが多い気がするな。ただし、ファルファは娘なので、別格とする。

「あっ……アズサ様……」
 少しライカが寂しげな顔をした。たしかにライカってあくまでも自分が弟子ってことで、一歩退いてるもんね。あとで、もう少し甘えさせてあげたほうがいいかな……。

「お師匠様がとられちゃった気がして、やっぱり敗北感が……」
 ハルカラも似たような感想を抱いているらしい。これって、意外と距離感を考えるのが難しいな……。今後の課題だ。

「ねえ、ペコラって、ひっつきすぎじゃない?」
 でも、ペコラは私の言葉も気にせず、むしろ私にひっついてくる。
「擬似姉妹関係というのはこういうものですよ。わたくしのあこがれに少しだけ付き合ってください、お姉様」
 まあ、魔王の姉役をやれる人なんていなかったんだから、しょうがないか。この子はこの子で寂しかったんだろう。

「はいはい。そういう約束だったしね」
 私はペコラの頭――羊っぽい角と角の間を撫でた。
「あ~、わたくし、今日は気絶しちゃいましたけど、そんなのすべて帳消しになるぐらい幸せです~」
 こうもてらいなく幸せと言われると、こっちも光栄に思えてくる。

「あの、お姉様、食堂までお姫様抱っこでお願いできませんか?」
「あなた、けっこうぐいぐい要求してくるね……」
「だって、わたくし、魔王ですから」
 たしかにそこに申し訳なさも、人を使ってやってるってセコい歓びの感情も何もない。人に何か頼むのが当たり前という人生送ってきてるんだな。

「人に要求するのは慣れてるってことか」
「それに、キスができなかった代わりと言いますか。お姉様と妹の間にはそういう特別な時間が流れるべきなんですよ」

「それもそうだね。じゃあ、キスの代わりっていうことで」
 ペコラを抱き上げた。思った以上に軽くて、毛布を抱いてるみたいだ。
「お姉様の腕の中……。お話の中であこがれていたシーンは、やっぱり素晴らしいものでした……」

 後ろからライカとハルカラがあまり楽しくなさそうな顔でついてきていた。

「ハルカラさん、我はあの人は少々苦手かもしれません」
「わたしもどちらかというと、ダメですね。ああいうお嬢様は世間の厳しさをどこかで味わったほうが成長できると思うんですけどね。たとえば、わたしのところの工場で月に八十時間ぐらい残業付きで働くべきかもしれません」

 まさか、こんなにペコラの存在が二人を刺激することになるなんて……。あとで、フォローを入れておこう。私は事なかれ主義なのだ。別にペコラも悪い人じゃないしな。むしろ、頭突きで気絶させられても、ハルカラ自体は恨んでないみたいだし。

「あっ、今、わたくし以外のこと考えてましたね、お姉様」
 ちょっとペコラが頬をふくらませた。
「別に私が何を考えても自由でしょ」
「ですけど、お姫様抱っこしてる時は、抱いてる妹のことを考えるのが自然ですよ」
 お姫様抱っこにもいろんなルールがあるらしい。

「ほら、何かご感想はありませんか? 『あなた、軽いのね』とか」
「多分、服が豪華なせいだけど、そこそこ重いよ」
「お姉様、意地悪なんですから」
 また、ペコラが頬をふくらませたが――
「そういう意地悪なお姉様に翻弄されるのもいいですねえ」
 結局、楽しそうだった。

 途中、ほかの魔族がぎょっとした顔で見ていたが、何も言わなかった。魔王に文句を言える魔族は誰もいないのだろう。
 食堂の前でベルゼブブとヴァーニアが待っていた。ベルゼブブはちょっとというか、かなりあきれていた。

「魔王様、少しやりすぎでは……?」
「だって、お姉様と認めるに足る人材がこの世界にはいないんですもの。ベルゼブブさんもお姉様候補になるかなと思っていたんですけど、一度もわたくしを叱ってくださいませんし」
 ペコラがくちびるをとがらせた。けっこう、おてんばらしい。ベルゼブブたちも苦労してるんだろうな……。

「はぁ……アズサよ、お姉様役をしっかりつとめてくれ。わらわは手に負えぬ」
「わかったよ。この数日はやるから」
「できれば、二か月に一回ぐらいここに来てほしいのじゃ」
 もしや、この変な関係、ずっと続くのだろうか……。まずいことになったかも……。

「そうだ、ベルゼブブさんも食べていきませんか? そのベルゼブブさんの部下の方も」
 結局、私の家でパーティーする時にプラスアルファでペコラとヴァーニアという顔ぶれになった。まあ、にぎやかでいいか。

 魔族の宮廷料理は全体的に味付けが濃かったけど、おいしかった。虫とか食べる料理じゃなくて、よかったと思う。

 食事中、ペコラが何度も「お姉様、飲みたいお酒などありませんか?」「お姉様、好きな料理あったら教えてくださいね」「お姉様、お姉様」と声をかけてきた。
「もうちょっと、魔王らしく振舞ったら……?」
「それじゃ、いつもと同じでつまりませんもの。妹としてお姉様に尽くしたいんです」

 魔王を自在に使役できるこの権力、どうやって使えばいいのかな……。

「じゃあ、あとで、魔族の土地に生えてる植物、いろいろ教えてくれる? 新しい薬の元になるかもしれないし」
「はい! すぐに手配いたしますね!」
 これで、私の地元にも恩恵をもたらすことになるし、よしとしよう。

「明日はいよいよ褒章をお渡しする日ですね。楽しみです!」
「そういえば、そっちがメインだった……」
 さてさて、どんなイベントになることやら。

「ああ、そうだ、ライカさんでしたっけ」
 珍しく、ペコラが私以外の名前を呼んだ。
「はい、いったい何でしょうか、魔王様?」
 どうも、私にペコラがくっついてくるので、ライカがまだ、むすっとしていた。

「明日、意外な方と再会すると思いますよ」
「はい?」
 答えを言わずにペコラはいたずらっぽく微笑んでいるだけだった。

20161213_slaim_syoei01.jpg
GAノベルさんより発売中です! 5巻は2018年1月15日発売! 1巻は10刷を達成いたしました! ↑をクリックしていただければ紹介ページに飛びます!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ