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スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 作者:森田季節

エルフ卒業疑惑編

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51 お別れ会作戦

 タイムリミットは実質、丸一日とちょっとぐらいしかない。大急ぎで準備をしなければならなかった。

「ライカはおもてなし用の料理をお願い」
「はい、わかりました。ところでハルカラさんが好きな料理と言うと何になりますかね?」
「ぶっちゃけ、料理というよりお酒が好きな子だからな……。どっちかというと、エルフだからか、野菜が好きだと思う」
「そうですね。野菜尽くしということにしましょう」
「私は私で高級なお酒を空飛んで買ってくるよ」

 こういう時にお金を使わずにいつ使うのか。ナンテール州で栄えてる町まで飛んで、ハルカラが引くほど高い酒を買ってやる。

「ママー、ファルファたちは何をすればいいかな?」
 そうだな……娘二人には……よし、子供の特権を最大限に利用してもらおうか。

「二人はメッセージカードを書いて」
「何それ?」
「紙にお手紙を書いてそれをハルカラの前で読むんだよ。今までハルカラさんと暮らしてきて楽しかったです、思い出はこういうことですっていうやつ」

 これはなかなか効くはずだ。じゃあ、やっぱり出ていくのやめようかな……ってなるかもしれない。


「あとねー、シャルシャは似顔絵がけっこう得意なんだよー」
 ここで姉から耳寄りな情報。
「あれ、そんなの、私、全然知らないんだけど……」
「シャルシャは絵を見せるの恥ずかしがって、ずっと隠しちゃうの。それに最近は描いてないからママは知らないんじゃないかな」

 シャルシャはファルファにそのことを話されて困ってしまっているようで、眉毛をハの字にしていた。

「う、上手くなってから人に見せるから……。それまでは封印してる……」
 単純にものすごく見たい。娘の描いた絵だぞ。見たいに決まっている。
「あのね、シャルシャがよかったら、見せてくれないかな? ママ、シャルシャの絵、見たいな~。私の知らないシャルシャのこと、知りたいな~」

 シャルシャはこくりとうなずくと、「持ってくる」と行って、部屋に駆けていった。

「こんなのだけど……」
 戻ってきたシャルシャは自信なさげにスケッチブックのようなものを差し出してきた。

 色はついていないけど、無茶苦茶上手かった。
 写実的な肖像画といったものが何枚もある。おそらく町とかでカコにシャルシャが知り合った人なんだろう。中にはシャルシャを描いたらしきものもあった。

「あの、これ、母親が『上手だね~』って褒めるやつじゃなくて、本当に上手いやつだよ……。しかも、上手いだけじゃなくて、こう、ちゃんとその人の心みたいなものも感じ取れるんだよね……。この人、優しいんだろうなって伝わってくるもん……」

 ライカも身を乗り出して絵を見てきたが、「これ、画家に弟子入りできますよ……。むしろ、この才能は是非伸ばすべきです」と驚きながら語っていた。

「まだ人に見せられるほど上手くないから恥ずかしい……」
 これで見せられないんだったら、どの次元になったら見せられるのか逆に教えてほしい。これ、十人中十人が上手い絵だと認識するものだぞ。

 私はシャルシャの両肩に手を載せる。
「シャルシャ、あなたをハルカラの肖像画描き係に任命する。少しラフな感じでもいいから、描いて。あの子がここを去っていったとしても、一生の宝物になると思うんだ」
「うん、母さんの頼みは聞く」

 こくこくとうなずくシャルシャ。

「だけど、完成するまで見に来ないって約束して。作りかけのを見られるの、もっと恥ずかしいから」
「うん、絶対に見ないよ。約束する。鶴の恩返しみたいなことはしない」
「鶴の恩返し?」

「そういう童話があるんだよ。罠から助けてやった鶴が、人の姿になって恩返しに来てはたを織ってくれるんだけど、覗くなって言われたのに覗いちゃうの。そしたら、鶴になって仕事をしてたのがばれちゃって、鶴は去っていくわけ」
「ああ、南部に分布するカルシュラー民話に類似している」
 人文学的な発言でその内容はよくわからないが……とにかく似た話があるんだろう。

 こうして、何の準備をするかはだいたい決まった。
 私はその日のうちに、お酒を買いに行った。
 三十万ゴールドの葡萄酒を一本、それと五十万ゴールドの蒸留酒も一本購入。
 スライム何匹分か考えるのはやめよう。薬なども売っているし、これぐらいの貯蓄は無論ある。なんなら、十本買ってやってもいいぐらいだ。

 さて、問題は当日だ。
 ずっとハルカラが家にいたらお別れ会の準備をしづらい。

「ハルカラ、ちょっとキノコの採集に行きたいんだけど手伝ってくれる?」
「ああ、はい、お師匠様!」
 よし、ハルカラを連れ出す作戦は成功だ。
「ですが、今日は採集がちょっと遅いんですね。たいてい午前中にやっていましたから」
「今日はちょっと事情があってね」

 もしかして、これが最後の共同作業かと思うと、少しばかりアンニュイな気持ちになってしまった。

「お師匠様、今日、なんだか表情が寂しげなんですか。何かありましたか?」
 休憩中、ハルカラに言われた。
「そうね、別れに関することを考えちゃったっていうのかな」
「ああ、恋人の命日とかそういうものですか」

 ハルカラは勝手に勘違いしていた。でも、そうなるか。
「死別じゃなくても、別れっていきなり知らされたりするでしょ」
「ああ、ありますねえ。別れるいつ言い出すか悩んだりしますもんねえ」
 あっ、思わせぶりなセリフ……。

「私もそこそこ破天荒な生き方してきましたけど、お別れはきれいなものにしたいなっていつも思ってますよ。お互いに意義のあるお別れにしたいっていうか。引きずらずに前に一歩踏み出せるような」
「……うん、そうだよね」
「あの、お師匠様、泣いてませんか」
「そ、そんなことないよ……」

 だんだんと日も暮れてきた。もう、準備はできているだろう。

「ハルカラ、帰ろうか」
「はい、お師匠様!」
 こう呼んでもらえるのも、あと数回かな。

 家に着いたら、「ちょっと玄関前で待ってて」と言って、中にいるみんなに帰ったきたぞと告げた。それから、また玄関に戻る。

「お待たせ。じゃあ、入ろうか」
「はあ、何があったんですか?」

 ハルカラが不思議そうな顔で家に入って、ダイニングに通じるドアを開けた。

「「ハルカラさん、これまでありがとうございました!」」

 みんなが声を合わせた。

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