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スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 作者:森田季節

魔族の音楽祭編

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166 失敗師匠と失敗弟子

 その日の夜、ククと再会した私は、思いきり抱き合った。
「よくやったね! すごかったよ! 大歓声だったよ!」
「ありがとうございます! 私もこんなに上手くいくだなんて……」
 ククも泣きながら笑っていた。

「何もかも皆さんのおかげです。どう、お礼を言っていいかわかりません……」
「えー? そんな時に言う言葉は決まってるでしょ」
 私はククのステージを思い出しながら言う。
「ありがとう、でしょ?」
 はっとしたククが「ありがとうございます!」と言って、また抱きついてきたので、私はウサ耳の後ろあたりをよしよしと触った。

 その日は、ベルゼブブの好意で城の一室を打ち上げ用の部屋にしてもらった。どんどん料理が部屋に運ばれてくる。大宴会だと言っていい。

 ククも表情は晴れやかだ。無事に仕事が終わったのだから当たり前だけど。
「早速、今日の出演を見ていた劇場の関係者などから、出演依頼が殺到しておるのじゃ。ククよ、これがざっとメモした一覧じゃ」

 魔族語でいまいち読めないけど、大量に仕事が来ているのはなんとなくわかった。

「これ……この城下町で暮らしていける仕事量じゃないですかね……?」
 ククはそのリストを見て、あっけにとられていた。これまで、仕事依頼というものがほぼなかっただろうしね。

「そうかもしれぬな。まあ、お前が住んでおったのは人間の王都じゃろうから、しばらくは王都でもやれるか試しながら、仕事の量を調節すればよかろう。移動用にはワイヴァーンを貸してやるから、両立も無理ではないはずじゃ」

「よかったね、クク。一気に売れっ子じゃない! 魔族にはしっかり受けたわけだよ!」
 まだ、実感が湧かずにククは素直に喜べていないようだった。激変と言っていいほどのことが起きているのだから、それもしょうがないか。ククの音楽人生で最大の上り調子だ。

 そのまま宴会は進んでいった。終始なごやかなムードで、ハルカラはすでに酔いつぶれていたし、ファルファとシャルシャも疲れからか眠ってしまっている。
 酔っ払っているハルカラを笑っていたヴァーニアもそれから十五分後に酔いつぶれた。姉のファートラが「学習能力がない……」とイライラしていた。

 フラットルテはその中でほとんどお酒も飲まずに、そのくせ、ククとも話をしていなかった。

 私は家族全体を気にしてるから、もちろん意識にはのぼっていた。でも、どう踏み込んでいいかはわからないので様子をうかがうしかない。
 ほかの家族とは違う葛藤めいたものが今回はフラットルテにあると思うのだ。でなきゃ、もっと楽しんでるか、別れを惜しんでるか、どっちかの反応が出ていたはずだ。

 そろそろ宴会がお開きになるかなという頃合いにフラットルテがククに、「リュート借りていいか?」と尋ねた。

「はい、どうぞ」
 大事な商売道具ではあるが、ククはそれを認めた。ずいぶん、フラットルテが神妙な顔をしていたし、酔った勢いで余計なことをするというのでもなさそうだ。

「別れの曲を歌うのですか?」とライカが尋ねる。ライカも同じドラゴンとしてフラットルテのことが気になっていたんだろうか。

 フラットルテは「ちょっと違うのだ」と言って、ククの真ん前に立った。

「一曲、贈る。あまりいい曲じゃないけどな」

 そして、リュートで引きはじめたのは――
「「うおああああああ、破滅、破滅、破滅! うおあああああああ、処刑、処刑、処刑~♪」

 これ、元のスキファノイアの曲だっ!
 しかし、フラットルテがやると、スキファノイアより歌が上手いのでもっと味のあるものに聞こえる。それはそれでどうかと思うけど。

 ククは口も目も大きく開けて、その音をまともに浴びているようだった。

「スキファノイア! お前はスキファノイアとして気が遠くなるぐらい歌ってきたのだ。そりゃ、こんなのじゃ売れないとは思うけど、それでもお前が正しいと信じてやってきたのだから、戻りたくなったら戻ればいいのだ。絶対に永久封印なんて馬鹿げたことを考えるんじゃないぞ! お前は世の中の流行に合わせられるほど賢くはないのだ!」

 フラットルテの大きな声が部屋に響く。

「このフラットルテだって間違って、間違って、間違いまくって、今、ここで生きているのだ。正解なんてないけど、立ち止まらないかぎり、完全な失敗でもないのだ! だから好きなように歌え!」

 そして、フラットルテはリュートをククに差し出す。
 ククはぎゅっと抱き締めるように、それを受け取る。

「やっぱ、師匠と弟子だ」
 私がぼそっとつぶやいた横でライカと、それからベルゼブブがうなずいていた。
「師匠が間違ってきたから、弟子に伝えられる言葉もあるんですね」
 ライカもすがすがしい笑顔で二人の様子を見ていた。

 フラットルテもすっかり成長したな。人って、いろんな人に出会うことで、変わっていけるんだな。

「おぬしはおぬしで、こういう場所を作れたのじゃから、それは誇ってよいぞ。おぬしがおらんとこういう反応も起こらなかったからのう」
 そう言いながら、ベルゼブブがお酒を私のグラスに注いでくれた。

「このお酒、強いからそんなに入れないでほしいんだけど」
「明日の音楽祭の魔王様の舞台は夜じゃから問題ないわ」

 あ、国賓としてペコラが出るところは見ないといけないんだな。
「何をするの? 火のついた松明たいまつでも掲げるの? それとも閉会の辞みたいなのを述べるの?」
 ベルゼブブは苦笑いして「見ればわかるのじゃ……」と歯切れ悪く言った。
 これ、まだ何かあるな……。あの魔王が何もやらかさないわけないもんね……。

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