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スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 作者:森田季節

魔族の音楽祭編

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165 ククの晴れ舞台

 ポンデリとの再会も果たしたので、私たちは自分たちが泊まる部屋に戻った。
 それからしばらくすると、ククも練習を終えて部屋に入ってきた。

「やれることはやりました……。明日が来るのを待ちます……」
 ククのいい顔を見ていたら、何も心配いらないなと思えた。

「人間、戦わないといけない時もあるからね。しっかりやってきてね」
「あっ、それとこれは関係者席に座るチケットです。皆さんの人数分ありますから」
 家族という扱いで用意してくれたのか。魔族ってこういうところは気が利いてるんだよな。

 でも、ククは家族というわけじゃない。新しい曲もいっぱい作ったし、また王都に帰って活動していくことになる。
 だから、この音楽祭は私たちとククとのお別れ記念のイベントでもある。
 悲しくない訳はないけど、そこはしょうがない。

 しっかりと両手でそのチケットを受け取った。
「うん。ククの歌で魔族たちをボロボロ泣かせちゃえ!」

 その日、私たちは翌日のククのことも少し早めにベッドに入った。客人用だけあって、無茶苦茶大きなベッドだ。魔族には大きいのもいるから、そういう人でも眠れるようにしているわけか。

 ふっと、誰かが枕元に立っていて、目が覚めた。
 ククだった。
「あの……どうしても不安になってきて……今日だけ同じベッドで寝てもいいですか……?」
 私は微笑んで、ちょっと横にスライドした。
「どうぞ。ベストコンディションでのぞまないといけないからね」

 ククがウサ耳のポジションを調整しながら寝るのがちょっと面白かった。



 そして、音楽祭二日目。
 ククは一人だけ先に会場へ、ほかの家族はゆっくり、墓場ステージへと向かった。

 チケットを渡して中に入ると、たしかに会場がよく見えるところに椅子が並べてある。ここで観戦しろということらしい。
 すでにアーティストの演奏ははじまっていて、ファンの魔族が声援を送っている。

 しばらくすると、そこにリヴァイアサン姉妹のファートラとヴァーニア、ブッスラーさん、それからベルゼブブまでがやってきた。

「わらわの席はそこじゃな?」
 そういえば私の隣の席が空いてたんだけど、ベルゼブブの席だったのか。
「やっと仕事が一段落したのじゃ。品種改良でできたおいしい野菜・珍しい野菜のブースで働かされておった」
 ぱたぱたと扇子であおぐベルゼブブ。あっ、そこは農相らしい仕事をしてるんだ。

「ククって魔族の間での知名度ってないよね。そこは心配なんだけど……」
「あほか。音楽祭の大きなステージに立てるのは実力を認められた者だけと客は認識しておる。しっかりと聞こうとしてくれるじゃろう」
 それじゃ、ベルゼブブの言葉を信じるか。

「それと、わらわはチャンスをやっただけじゃ。そのチャンスをつかまえるかどうかは、結局あやつが決める。大観衆の前でいい結果を残すか、それとも失敗するか、あいつ次第じゃ」
「突き放してるみたいだけど、そのとおりだね」
 私たちができるのは見守ることだけだ。

 ファルファとライカは自然と手を祈るように組んでいた。

 一方で、フラットルテはドリンクを飲みながら、リラックスして待っているようだった。でも、目を見るかぎり、そうでもないかも。

「あんまり吟遊詩人に接近しすぎると、情が移るからよくないのだ。吟遊詩人の人生まで背負ってたら、マニアには慣れないのだ」
 それは詳しすぎる人間ゆえのぼやきに聞こえた。そういうものなんだろうな。

 少しずつ、ククの番が近づいてくる。
 ククの前はオペラ歌手みたいに太ったトロールで、実際、オペラ歌手みたいな声を出していた。

 そして、ついにククの番が来る。
 司会者が「ククさんは最近、ジャンルを大幅に変更した期待の新人アルミラージです」などと紹介する。芸歴的には新人じゃないけど、今の方向性にしてからは初めてか。

「アタシ、落ち着かないんで浮き上がって見てます!」
 ロザリーが席から離れて、のぼっていった。私もできることならそうしたいけど、できるわけがない。

 いよいよククが舞台袖から現れる。
 リュートは紐がついて肩に提げている。完全に弾き語りスタイルだな。

「ククです。一曲目は『ありがとう』という曲です」

 そして、リュートの物悲しくも、やさしい調べが奏でられだした。

「本当は~さよならと言わないといけいないところだけど、それじゃ悲しいから~、私はこう言うね、ありがとう~♪」

 こんな曲は今まで家での練習で聞いたことがなかった。
 でも、歌詞を聞いて、すぐにわかった。これ、私たちに向けた曲だ。

「私は消えてなくなるわけじゃなくて、引っ越した先で生きています~、お互いに違う場所で、でも同じ時間をしっかりと生きています、生きているから忘れてしまうこともあるかもしれません、でも生きているから思い出すことだってできるんです、だから気が向いた時にでも会いに来てください~♪ ありがとう、ありがとう、ありがとう♪」

 一曲目が終わった時、私は立ち上がって、泣きながら拍手をしていた。ロザリーがじっとしていられない気分がわかったよ。
「クク、よくやったね!」
 娘二人もそれにつられるように立ち上がった。私たちだけじゃなくて、魔族の観客もたくさんの人がスタンディングで喝采していた。

 その中で、フラットルテは座ったままで、手で目を押さえて、静かに泣いていた。
 師匠が偉くなった弟子を見ているようだと思った。

 暗いだけじゃない。しっかりと、心を揺さぶる最高の曲だ。

 結局、ククは十七曲をやって、一度ステージを降り、すぐに熱烈なアンコールの声でイベントが押しているはずなのに急遽呼び戻され、さらに二曲をやって、出番を終えた。

「ほれ、新品のハンカチじゃ。何枚もあるから、奥まで回していけ」
 たしかにベルゼブブが渡してきたハンカチは大量にあった。

 そういえば、私たち、みんな泣きまくってるね。
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