挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 作者:森田季節

おかしな吟遊詩人編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

150/280

148 ククの歌詞コンペ

 続いて二曲目だ。ハルカラが自信満々の顔を見せている。ハルカラに自信があればあるほど、だいたいろくなことにならない。

「この歌詞はいいですよ! 売れますよ! ぜひ、ナスクーテの町で広めていきたいです!」
 ナスクーテの町とは、ハルカラの工場ともともとロザリーが住んでいた家があったところだ。なぜ、そこ限定なのか。

「別に歌詞がおかしいからといって、とくにトラブルも起きないからいいや。やって、やって」
「お師匠様、対応がひどいですね……。しかし、この歌詞を聞けば売れるとわたしが言った意味を理解してくれると思います。本気で広めていく気ですから」
 ほう、じゃあ、見せてもらおうじゃないか。まあ、曲を作るのはククだけど。

 また、リュートがつま弾かれる。かなりポップな前奏だ。

<ハルカラ製薬の『栄養酒』 作詞ハルカラ 作曲クク>

「今日の仕事をもうひと頑張り! 『栄養酒』~♪
 試験の一夜漬けにもこれを使って! 『栄養酒』~♪
 ノンアルコールで子供も安心! 『栄養酒』~♪
 すべて生薬、健康にもいい! 『栄養酒』~♪
『栄養酒』~♪ 『栄養酒』~♪ 『栄養酒』~♪ あなたを応援、ハルカラ製薬の『栄養酒』~♪」

 なるほど、こう来たか~。そうか、そうか。
 私はいい笑顔で、手で「×」印を作った。
「はい、次に行ってみようか~」
「ちょっと! お師匠様! せめてコメントをお願いしますよ! スルーされるの、一番痛いんですから!」

「なんで宣伝用の曲にしてるのよ! 論外でしょうが!」
「しっかりと売れる曲にしてるじゃないですか! これなら『栄養酒』も売れますよ!」
「アーティストのほうが売れる曲でなきゃダメだから!」
 商品を売るってコンセプトじゃないぞ!

「あのね、こういうのは何かの間違いで仮に受けても一発屋で終わるの。せいぜい二か月半ぐらいでまた廃れていくものだから! 一発屋がちやほやされるのは七十五日だよ!」
「に、二か月半もチヤホヤされるなら……私、これでいいかも……」

 ククも卑屈な感じになってる! ダメだから! 最初からそういうスタンスだと、一発屋にすらなれないから! 夢や理想に関してはデカく持ってるほうがいいから!

「なお、全国ツアーをしながら、わたしの会社の商品を宣伝する曲ばかり歌ってくれるのなら、ハルカラ製薬の広報課の社員として雇うこともやぶさかではないです」
「じゃあ、それでいいですかね……。音楽で食っていくっていうことでは正解だし……」

「クク、落ち着いて考えて! 最初の半年はよくても三年後とかに『自分のやりたいのはこういうことじゃない!』とか言って辞めちゃうパターンな気がする!」
 人生決定に関することなので、私も強めに干渉する。就職は慎重にしすぎるぐらいでちょうどいいからね! 元過労死経験者だから、そこは口を出すよ!

「むっ……。お師匠様、わたしの妨害をやたらとやってきますね……。わたしの会社、経営状況も、社員の待遇もホワイトですよ。賞与もしっかり出てますし」
「そこは否定しないし、生活が安定するっていうのもプラスだけど、音楽性どころか職種の次元で変化が起きてる気がするんだよね……」

 破滅を歌ってた人が七年後に無難なラブソング歌ってるとかいうのは、日本でも割とあったりした気がするし、それは音楽性が徐々に普遍的なものになったとかで説明できる。
 けど、会社の宣伝の歌を歌い出したら、それは猫が犬になるぐらいの変化ではないか。グラデーション的な移り変わりとは違う。

「あの、ほかの歌詞も見てから決めたいのですけど……」
 ククが遠慮がちに言った。それもそうだ。途中で決定するのはおかしい。
 ちなみに、解説のフラットルテはノーコメントらしい。語ることもないということか……。

「次はファルファとシャルシャの合作だね。うん、かわいいね、いいねー」
「わーい! ママ、ありがとう!」」
 ハルカラが「司会が縁故でえこひいきしてます! 娘さんの時だけ扱いが違います」と主張していたが、認めません。

「ひいきの必要などなく、この曲が勝つとシャルシャは断言する。なぜなら自分たちだけ二人で参加してるから。十万のパワーと十万のパワーと足すと二十万ではなく、百万のパワーになる」
 シャルシャの理論はよくわからないけど、とにかくククに歌ってもらおう。

<のはら 作詞ファルファ・シャルシャ 作曲クク>

「カマキリさん、怖いよー。カマを持ってるから怖いよー♪
 バッタさん、跳ぶよー。足をふるわせて跳ぶよー♪
 大自然、広いよー。私もまた大自然だよー♪
 神様は大きいよー。極大なるものにて全てなるものだよー♪
 私とは何なのー? バッタさんでもカマキリさんでもなく、私とは何なのー♪」
 ほかの何者でもない存在が、つまり私であることだと思うの。それはすべてを否定し続けた先に残ってる最後の肯定とでも言うべきものだと思うの。全てを失ってもはや何も残ってないという時になってこそ、自分というものが逆説的に発見できると思うの♪ つまり、タマネギの皮を永遠に向き続けていくような仕事の先にあるべきものなの♪
 そんなことを考えながら、わたし、のはらでバッタさん追いかけてるの♪」

 最後のほう、メロディを意識せずに歌詞が作られているので、ククはフォークソングぽくなっていた。
 終わった後の空気がなんかこれまでと違っていた。

 最初に口を開いたのはフラットルテだった。
「これ、最初は子供っぽい歌かなと思ったのだが……そこに神学的な要素が入って……あれ、もしかして新境地かもしれないぞ? 前衛的で一つの可能性は感じられる」

「うん、私も思った……」
 前半がファルファで途中からシャルシャが書いたのはほぼ確実だろうけど、その結果、奇妙なストーリー性が生まれたような気がする。ククのリュートともけっこうあっている。

 それに音楽ってもともと宗教的な意味合いも強かったし、説法にももちいられたはず。なので、親和性もあるのかもしれない。

 ククはしばらくぼうっとしていたけど、その表情がだんだんと明るくなってきた。

「いいですね! こんな曲をやってる吟遊詩人、王都でもいないと思います! これまでの説法で歌われる曲とも全然違いますし! この方向性はいいかもしれません!」

 ファルファが「わーい!」とジャンプしてはしゃいで、シャルシャはまんざらでもない顔でうなずいている。
 まさかの娘二人の歌詞がコンペで勝つとは。

「うん、じゃあ、ククはこの方向性でもう一度吟遊詩人をやってみようか」
スライム倒して300年2巻、無事に公式発売日を迎えることができました! また活動報告の記事にサイン本などの情報を追加いたしました。よろしければご覧ください!

20161213_slaim_syoei01.jpg
GAノベルさんより発売中です! 5巻は2018年1月15日発売! 1巻は10刷を達成いたしました! ↑をクリックしていただければ紹介ページに飛びます!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ