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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

I Love T

作者: 桐葉

この作品は自サイトからの転載になります。

「俺の好みのタイプ…? そうだな、まず身長は170センチ以上だ」


 美貌の風紀委員長。

 俺が周囲からそう呼ばれていることは自分でも知っている。

 こんなつまらない男をとっ捕まえて美貌も何もあったもんじゃないとは思うが、他人の評価はありがたく受け取っておこう。

 そう言われて俺が嬉しいかどうかはともかく、皆が褒めてくれているということは分かるからな。


 書類整理が一息つき、副委員長の煎れてくれたコーヒーで休憩をしていた所に乱入してきた生徒会の役員どもに妙な質問をされたが、別段隠すようなことではないので素直に答えている。

 唐突なタイミングではあったが、俺の好みを知ってくれるというのなら構わない。


「えー、身長制限あるのー?」

「ああ。絶対に170以上とは言わないが、高い方が良い」


 不満そうに尋ねてきたのは、可愛い系の顔をしていると一部の生徒から人気が有る会計だ。

 くりくりっとした目は女子のように長いまつげで縁取られている。

 小さな唇は赤く色づいていて、幼い容姿の中にあるその妖艶な唇がチャームポイントだとかいう噂だ。


「大きい方が好きだということですか?」

「小さいよりは好きだな」


 会計を押しのけ隣に座って来た副会長の問いに頷きながら答えれば、奴は何故か嬉しそうに微笑んだ。

 優しい王子と噂をされているらしい副会長だが、実は腹の内が黒いんじゃないかと俺は思っている。

 あの会長を御するには、優しいだけでは無理だろうからな。

 副会長と反比例するかのように会計は何故か拗ね、ソファの端っこに座りすっかり背中を向けてしまった。

 なにがそんなに気に食わないのが分からないが、あの状態の人間に関わるのは面倒くさいからしばらく放置しておこう。


「顔…は?」

「ん、顔か? 顔は割とキリッとしている方が好きだと思うぞ。ただあまりにも男らしすぎるのは駄目だ」


 武士だワイルド系だと噂の無口書記にそう言えば、尋ねてきた本人がショックを食らったような表情で顔を背けた。

 だからなんなんだ、お前らのその反応は。


「中性的な方が好きなんですか?」


 さっきからやけにくっついてくる副会長が尋ねてきて、俺は小さく頷く。


「そうだな。そういう顔の方が好きかもしれん」


 腕に抱き付きそうな勢いで迫ってきていた副会長を少し追いやれば、やけにしゅんとしながら離れて行く。

 あまり近い距離に居られても動きにくいから離れる分には構わないんだが、やっぱりこいつらの動きは唐突だな。


「まとめると、身長は170前後の中性的な、しかしキリッとした顔立ちのやつが好みってことか」

「ああ、今までを考えるとそうなるな」


 脳裏に浮かぶ幾つかの顔の共通点を探してみれば、そういう特徴になるだろうか。

 どこか憮然とした表情の会長の言葉に頷きつつ、飲みかけていたコーヒーを一気に飲み干す。


「さあ、俺は休憩を終える。お前らもいい加減に生徒会室に戻れ」


 さりげなく空いたカップを受け取って給湯室に運んでいる副委員長の背中に目をやりながら言えば、いかにも渋々といった感じで生徒会役員どもが部屋を出て行く。

 まったく、あいつらは一体なにをしに来たんだか。


「何だったんだろうな、あれは」

「委員長は気にしなくて大丈夫ですよ」


 にっこりと微笑みながら副委員長が戻ってきて、小さな声で「身の程知らずが」とかなんとか呟いているが、その毒舌は聞かなかったことにしておこう。下手に突っ込んで藪蛇になっても困る。

 まず何が身の程知らずなのかも分からないからな。


「そうだ委員長、これなんですけど」

「ん? ……こ、これは!」


 まるで内緒話をするかのように耳元で囁かれ、机の上にそっと滑らせてきた二枚の紙片。

 それは俺が愛してやまない……


「宝○歌劇団、本公演のチケットじゃないか! どうしたんだ、これは」

「僕の親戚が劇場の近くに住んでるんです。ちょっとしたツテでチケットを入手したものの、自分も交友関係にもその日に観に行ける人間がいなかったらしくて…。それで委員長がこの劇団をお好きだと聞いていたので、ならば、と」


 にっこりと微笑んだ副委員長は俺のポケットからスマホを取り出し、カレンダーアプリを起動させる。

 トントンっと何度か画面をタップさせると、今月末の日曜日に一つの予定が追加されていた。


「この日なんです。予定は無いっておっしゃってましたよね? もし良かったらご一緒しませんか」

「しかし…」


 この歌劇団のチケットはそう安いものではないし、何よりこの高校からはそれなりの距離がある。


「誘ったのは僕ですから、交通手段については心配なさらないで下さい。それに、せっかくのチケットを無駄にする訳にはいかないですし。好きだと言っている人に観てもらった方が劇団の方達も嬉しいでしょうし」


 肩に手を置き、ごく至近距離でにっこりと微笑まれる。

 腹黒副会長に引けを取らない腹黒さが見え隠れしているが、このチケットの前ではそんな些細なものなどクソ喰らえ、だ。


「分かった、ありがたく誘いを受けよう」

「はい、ありがとうございます。詳しい時間はまた後日にでもお知らせしますね」

「ああ。…なにか礼をしなくてはな」


 チケットを入手したという親戚筋にも、それを俺のために使おうと思ってくれた副委員長にも。


「ふふ、礼は当日の委員長の表情ということで」


 しかしそんな思いは副委員長の何かを企んだような笑顔で飛ばされてしまう。


 ……もしや、何か早まっただろうか。


 好みを聞かれたときから頭に浮かんでいる何人もの歌劇団女優に引けを取らぬ、綺麗で中性的な顔が浮かべるその笑顔にどこか寒々としたものを感じつつ、僅かに頷く。


「では、当日を楽しみにしていますね」

「…ああ」


 しかしそんな背筋の寒さも、二つ折りにされたチケットが胸ポケットへと押し込まれたことですっかり吹き飛んでしまう。


 ああ、愛しの彼女たちを間近で観る機会に恵まれようとは思ってもみなかった。劇場へ足を運ぼうにも、男子高校生が一人で行くにはとても敷居が高かったからな。

 二人連れならばまだ気も引けないだろうし、俺の趣味を十分に分かってくれている副委員長とならちゃんと楽しめそうだ。

 今やってる演目は俺がいつかは生で観たいと思っていたものだし、男役トップも歴代の中で一番好きな人だ。


 書類の決裁をしながらも、頭の中に浮かんでいるのは愛しい人達の美しい姿ばかり。

 副委員長の本心がどうなのかはよく分からないが、今はただ楽しい予定のために少しでも仕事を減らすべく書類に目を通すのだった。


*****


 うちの委員長はとてもモテる。

 その美貌と、カッチリとした服装にも関わらずほのかに漂う隙が相手を誘う。

 本人に全く自覚が無いのが危ういのだけれど、自覚が無いなりに怪しい奴らを自然体で撃退するのだから末恐ろしい。

 自分を愛するよう誘惑をし、けれど一定の距離からは近寄らせず、好意は持たせたまま相手の恋愛感情のみを砕いていく。

 今日も生徒会の連中が全滅させられた所だ。

 各個撃破をしていく様はとても痛快で、委員長を自分のものにしようなどとほざく身の程知らずなあいつらには良い薬になっただろう。


 彼は恋愛に関して根っからのノーマルであり、同性がそういう対象になるとは露程も思ってはいない。

 男からのアプローチには酷く鈍感で、アプローチだと気付かないままに恋愛感情を削いで行くのだ。


 だから僕は策を巡らせる。彼を手に入れるための策を。


 じわじわとスキンシップを続け、今ではかなり際どい所まで触れることを許されている。

 彼の密かな趣味であった有名女性歌劇団について調べ、一緒に楽しめるだけの知識を身に付けた。

 コネを使ってチケットを入手し、観劇に誘った。


 そして今日の退治劇の時に明かされた、彼の好みのタイプ。

 それは本来ならば女性についてのことだったけれど、ほぼ全てが僕に当てはまっていると委員長は気付いて……いないな、絶対。

 でも生徒会の奴らは気付いた。そして委員長の好きな人は僕ではないかと考えた。

 だからこその落胆であり、ライバルが減るという大収穫がもたらされた。

 この状況を活かさず無駄にするというへまはしない。


 覚悟して下さいね、委員長。

 決戦はすぐです。

 素晴らしい歌声の後には、あなたの甘い啼き声を聞かせて下さいね?

委員長逃げてー!

自分で言うのもなんだけど、全力で逃げてー!

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