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第19話 それは色々駄目だろう!

2018.06.01 牙の表現箇所に加筆。



 川岸から再び森に入る事暫し。

 オレとマニエラの二人は何事も無く村へ辿り着く事が出来た。



 ん? 何だ――?



 村と森とを隔てる柵の所まで来ると、村の中がガヤガヤと騒がしいのに気付いた。それは前を行くマニエラも同じだったのか「何事かしら?」と、首を傾げて騒ぎの元へと足を進める。

 その後ろを付いて行くと井戸の前にある自分の家を通り過ぎ、オレ達が入って来たのとは反対のもう一方の出入り口付近にこの村総出じゃないかってくらいの数のオーク達が集まっていた。


「一体何があったんです?」

「ああ、マニエラちゃんかい。何があったってあいつを見てくれよ」


 人集りの外側に居た男のオークにマニエラが声を掛けると、そのオークが興奮気味に指を差す。って、人集りで何も見えねぇから。


「ほら、お前等はもう十分見ただろ。マニエラちゃんに場所譲ってやんな」


 それに気付いたそのオークが手近なオーク達を半ば強引に押し退けて道を作って行く。その幅はおよそ人一人分。

 そりゃそうか。どこの馬の骨とも知れない野郎の分のスペースなんぞ確保する義理も道理もあるわきゃないか。オレは一歩身を引くと、踵を返して背中に担いだ背負子を下ろしにレバニラ宅へと足を運ぶ。


「ナツメさんも、ほら」


 しかし、それを阻止するかのようにマニエラがオレの手を掴み人集りの開けたスペースへと引っ張っていく。ちらりと横目で見ると、マニエラの為に一肌脱いだ男のオークが、手を引かれる俺を見ながら首を傾げていた。

 これは見た事も無いよそ者に対する反応か……よそ者と言うだけで迫害されたりしないだろうな……。


 そんな事を考えていたら人集りから抜け出る。その開けた視界に飛び込んできたものは――。


「ぅ…あ……」


 いくつもの動物の死骸だった――。

 いや、死骸じゃなくて狩りの成果――猟果りょうかか。


 数は全部で8匹。


 先ずは全身が赤茶色で、足先と額から首、背骨を通って尻尾まで一直線にソフトモヒカンのように逆立ったたてがみが黒い、押し倒されたら逃げようが無さそうな大型犬モドキ。どれもこれも後ろ足が異常な程太く大きく、こいつが四つ足で立ったら背中を弓形に仰け反らせて尻が上向きになっていそうだ。

 それが5匹転がっている。


 次は全身が茶色がベースで要所要所に焦げ茶と灰色が混ざった豪毛の大猪モドキ。身体は大型犬モドキよりも一回りも二回りも大きく、下顎が異様に発達して左右に野太い牙を突き上げるように生やした厳つい顔をしているが今は死んでだらしなく舌を出していた。しかし、オークが猪を……ぎりぎりセーフか?

 こいつ等が2匹転がっている。


 最後のこれは……駝鳥……巨大ヒヨコ? 背中に乗ると『テッテレテレテテ テッテッテーー♪』と軽快なBGMが流れてきそうな風体をしているが、如何せん愛嬌が全く無い。二人跨ってもびくともしなさそうな巨体は黒と茶の地味な羽毛に覆われ、足はカモシカのようにしなやかでゴツいうえ、鉤爪かぎつめがえげつない程に大きく鋭く尖っている。ついばみ易そうなくちばしの中には細かくギザギザな歯が並び、顔は凶悪そのもの。よくこんなのが一狩りできたもんだ。

 それが一際大きく、地面に並べられた猟果中央にデンッと転がっている。


 それぞれに『大型犬モドキの死体』『大猪モドキの死体』『巨大駝鳥モドキの死体』とポップアップウィンドウに表示されているそれらは、オレの知識にある地球のどの動物とも違って見えるが、そこまで掛け離れているようにも思えない。

 もっと例える動物も見当たらない、形容するのも難しい生き物のオンパレードになるのかと思ったが、存外環境が似るとそこに生息する生物も似通って来るのかも知れない。もしくは地球の生態系が多様過ぎて網羅し過ぎてるかのどっちかだ。


 しかし、ポップアップウィンドウに表示されるのが『○○モドキ』なんて言うんじゃ、何か味気無いな。取り敢えず仮の名前でも付けてみようか。オレの名付けのセンスは殲滅的だが、後でキチンとした名前を聞けばそっちの名前に変わるだろう。


「これは今夜は村総出のお祭りになるわね」


 マニエラがほぅ…とため息を付き困ったような、それでいて愉しむような声音の呟きを漏らすのが耳に届く。その後も何かぶつぶつと呟いているがそこまでは聞こえなかった。

 まぁ、いいか。



 先ずは『大型犬モドキ』からいこうか。

 こいつは後ろ足が大きいしビッグフットドッグで……う〜ん、それだとUMAのアレと被るしラージフット……けど大きいのは『足』と言うより『脚』な感じがするしな……なら、ラージレッグドッグ……ビッグレッグドッグ。韻は踏んでるんだが……いっそ『ビッグ』を取っちまうか。その方がスッキリする気がする。



『レッグドッグの死体』



 うん、変わったな。次は『大猪モドキ』なんだが、下顎が目立つし……ビッグジョーボア……ビッグチンボア……どっちも間抜けな感じがするな。やっぱり『ビッグ』が駄目なのか? なら、ジョーボア……チンボア……チンボア……チンボ…………一旦顎から離れるか。

 顎がゴツくて目立ち難いが、そこから反り立つ牙も結構太くて硬くて大きそうだ……よし、ファングボアでいこうか。



『ファングボアの死体』



 まぁまぁかな? さて、最後に残った『巨大駝鳥モドキ』だが……、



『チョ○ボの死体』



 おいぃぃぃーーーーーーーーーっっ!!!

      おいぃぃぃーーーーーーーーーっっ!!!



 それは色々駄目だろう! 何か絶対駄目だろうっ!! 破滅的に駄目だろうっっ!!!



 何て仕事してくれてんだポップアップウィンドウ!

 全っ然良い仕事してないからなポップアップウィンドウッ!!



 よし、コイツはあれだ! ネイルオーストリッチで決まりだっ!



『チ○コボの死体』



 おいぃぃぃぃーーーーーーーーーーっっっ!!!!



 …………落ち着け。取り敢えず落ち着け……まだ大丈夫だ。今ならまだ挽回出来る。ちゃんと考えればまだ全然オッケー……なはずだ……。

 コイツが特徴的なのは大きさもあるがやっぱり鉤爪か嘴だな? とすると、クロウかネイルかビークで、駝鳥はオーストリッチなんだが他に何か無いかな? 前の二つを英語読みにしちまったからな。コイツだけ『鉤爪駝鳥』とかじゃ駄目な気がする。

 う〜ん、駝鳥に似てて飛べない鳥は……キウィ……ロードランナー……ヤンバルクイナ……は小さすぎるか。そう言えばヒクイドリって凶暴な鳥が居たな。とすると、クロウファイアバード? ビークファイアバード? ネイル…も語呂が悪いか……エミュー……? ビークエミュー……もう鳥からの連想は止めてビーククロウなんて良いかも知れない。



『ビーククロウの死体』



 …………良かった…………もう本っっ当に良かった…………。

 オレは名付けはしない方が世の為人の為、自分自身の為に良いかも知れない。



 精神的にどっと疲れ果て、転がる死体から目を離し周りを見渡すと、多くの猟果を取り囲む人集りに向かって、今回の狩りの武勇伝を身振り手振りで語り聞かせているオーク達の中の一人がオレの方に近付いてきた。

 あれは確か……。


「お〜、マニエラも見にきたか〜。後ナツメも付いてきたんだな」


『ガリバロ オーク 男 狩人 [口が軽い 軟派?]』


 手を上げてオレをおまけ扱いするのは、やっぱりガリバロだったか。

 まぁ、目当てはオレじゃあなくてマニエラなのは当然っちゃ当然か。汚いおっさんより、多分若くて綺麗な娘の方が誰だって良い。

 名前を呼ばれたマニエラが呟くのを止めてガリバロへ顔を向けた。


 それにしてもオレも数多くのオークの中からガリバロであれば何とか判別出来るようだ。他に判別出来そうなのは隣のマニエラとレバニラ、後マグドロ……はどうだろう。

 ちょっと探してみるか。


「今日は凄い猟果じゃない、ガリバロ」

「だろ? もう一日粘ればもっと狩れたんだけど、流石にこれ以上は村に持ってくるのに難儀するってんで泣く泣く切り上げて戻って来たんよ。

 しっかし、お前にも見せてやりたかったぜ。おいらの活躍を〜」


 俺の前で称賛の言葉を掛けるマニエラに、自慢気にエアで弓を構え、矢をつがえて放つ仕草を見せるガリバロ。


 マグドロが見当たらない。一体どこに居るんだろうか。まさか死んだのか!? とも思ったが、人死にが出てればこんなにワイワイガヤガヤと賑やかにしてられないだろう。

 あっ。他のオークと話しているレバニラを見付けた。


「所で随分びしょ濡れだけど、マニエラは今日は何をしてたんだ?」

「わたしはナツメさんと川向うの薬草を採りに行ってたわ」

「へぇ〜、ナツメは役に立ったのかい?」

「勿論よ! お婆様が足腰を悪くしてから2回往復しないといけなかったけど、ナツメさんのお陰で1回で済んだんだから」


 マグドロが見当たらない。こうなったら少し本気を出してみるか。


「お〜、そいつは良かった。ナツメを村に連れて来た手前、ちゃんと仕事が出来てるか心配だったんだ」

「それなら大丈夫じゃないかしら? 慣れればそれなりの事は出来る筈よ」

「マニエラがそう言うなら安心だ〜」


 目に意識を集中するとオーク達にポップアップウィンドウが立ち上がる。『オーク 男』や『オーク 女』のウィンドウが並ぶ中――、


『マグドロ オーク 男 狩人 [通称 おやっさん][息子が「渡り鳥{家出? 旅人?}」]』


 レバニラと話しているオークにマグドロのポップアップウィンドウが付いた。

 どうやらオレにはマグドロの区別は付かなかったようだ…………。


 そ、それにしても、さっきからマニエラとガリバロの会話がそれとなく耳に入ってきてはいたのだが、何だかマニエラの評価がやけに高い気がするのは気のせいだろうか? これまでろくでもない姿しか見せていなかったと思うのだが……これはひょっとしてあれだろうか?


 オレがあまりにも駄目過ぎて怒りや呆れを通り越して憐れみの域まで達してしまい、他の人にその駄目さ加減が伝わらないよう庇ってくれているのでは?

 だとすればありがたい反面不甲斐なさに涙が出そうだ。迷惑を掛けまくって申し訳ない気持ちになる。穴があったら入ったまま誰か埋めてしまえば良いのに。


 と――、

 マグドロと話していたレバニラが会話を止めて人集りの方へと向き直る。


「皆の者! 今日はマグドロ達、狩人衆の手腕により多くの糧が村にもたらされた! 森が与えたもうた恵みと、そして狩人衆に感謝を籠めて今宵は宴を催す事とする!」


 老人にしては意外な程大きく張りのある声でレバニラが宣言すると、周囲に集まっていたオーク達がワァーッと歓声を上げる。

 少し待ち、その歓声が下火になった所で再びレバニラが口を開いた。


「男衆で力強き者は獣を川まで運ぶのぢゃ! 革職人衆は革を剥ぎ肉を捌くのぢゃ! 残った男衆で竈を作り女衆は料理の支度をするのぢゃ!」


「「「「「「おおーーーーっっ」」」」」」


 掛け声を上げたオーク達が一斉に動き出す。

 ある者は二人、三人、あるいは数人掛かりでレッグドッグやファングボア、ビーククロウを反対側の出入口から川へと運び、ある者は革を剥ぐ道具を取りに仕事場へ。またある者は家へ森へと散って行く。



 …………オレは何をすれば良いんだ?



「ナツメさん、ナツメさん」


 忙しなく動き出す周りに取り残されて呆然と立ち尽くす。そんなオレにマニエラが声を掛けてきた。


「取り敢えずわたし達は、薬草を家に置きに行きましょうか?」

「わ、かった……」


 頷いてマニエラの後に付いていく。

 何も出来ない自分がホントに辛くて情けなかった。



夜中のテンションって怖いですね。

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