第15話 凶敵 ~3匹のこぶた~ 現る。
当てもなく人目を気にしながら村の中をふらつく。
幸いと言って良いのか悪いのか、その後何人か目に入ったオーク達は、オレの姿を2、3度チラ見すると忙しいのか興味が無いのか、それとも単に避けられてるだけなのか、直ぐに朝の支度に戻っていった。
興味はあるけどよそよそしいそれらの態度に心にちょっとささくれが出来るが、ど頭に出会った女オークみたいにベラベラと喋り掛けられるよりかはマシだと言い聞かせる。
実際、もう一度あんな状況に陥ったら、話も途中に本気で逃げ帰ってしまうかもしれない。
そうなるとこの村でオレは『怪しい奴』のレッテルを貼られるだろう。
それは、こんな村人全員家族付き合いと言った感じの小さな場所じゃ、村八分にさらされて確実に生き辛い事になるのを意味していた。
それは向こうでの暮らしと同様、死にたくなるほど生き難くなる。それだけは絶対に避けないといけない。
それにしても何にも無いトコだな。
のろのろと歩いて村の中心にあるレバニラの家から5分と経たずに、昨日入ってきた場所とは違う村の出入口にたどり着いた。
村を囲う柵は、両手で持つには少し余る太さの丸太の尖らせた先端が森を向くように組まれている。しかし、丸太同士の間隔は柴犬くらいの中型犬サイズなら苦もなく通り抜けられるんじゃないかってくらい開いている。
これはそれ以上の大型の獣か、存在するのであろう獣型モンスターから守るために造られたって考えるのが妥当だろうか?
もし昨日ここに来るまでにそんなのに出会してたらと想像したらゾッとした。
その柵の内側にある家の数は30と少し。昨日見た時は少なく見積もり過ぎてたみたいだ。
その家のどれもがレバニラの家と同じが少しスケールダウンした感じの平屋の掘っ建て小屋然とした物ばかり。震度4か、下手したら震度3くらいの揺れでもぺしゃんと潰れてしまいそうな造りをしていた。詰まる所この地域には地震が無いって事か?
その家々の中、柵に近い所に二ヶ所、脇に切り出した丸太を積んだ小屋と、獣っぽい毛皮が陰干ししてある小屋が目に入った。
昨日の晩のレバニラとの会話から、この村の主要産業は『狩猟』と『木工』と『皮革加工』の3つくらいか。
村の中を通る道は人が行き来した結果出来たような土塊だった物で、アスファルトは勿論の事、石や砂利で整備したような道はどこにも無さそうだ。
後、轍の跡も無いのは車輪を作る技術が無いのか、すぐ外が鬱蒼と木々の生い茂る森で使えないからかどちらだろうか?
一通り見てみて――。
異世界転移物のラノベなんかだと文明・文化レベルは中世ヨーロッパくらいと相場が決まってそうなものなのに、この村を見る限り西洋建築と言うよりも東洋建築寄りの、それも縄文や弥生レベルしか無さそうに感じる。
いや、縄文や弥生の文化文明の事を詳しく知ってる訳じゃないから絶対そうだって言えやしないけどもさ。
何かオレの思い描いていた異世界転移と違う……。
異世界転移のテンプレと言えば剣と魔法のファンタジー溢れる中世ヨーロッパ風の世界じゃないのか!?
そこでぶっこわれスキルやチートな身体能力ぶちかまして一発逆転! 勇者になったりハーレム作ったりして異世界ライフを満喫するのがセオリーってもんじゃないのか!?
なのに今のオレはと言えば、穀潰しの豚ゲルゲからモノホンの豚人間に姿を変えられて情報集めヨロ♪ 的な案件ぶん投げられて森の中に放置。運良く同族と思わしきオークのマグドロとガリバロに連れられて二人の住む村に来てみたら、文明・文化の『ぶ』の字も見当たらないド田舎村。
胸アツな冒険を繰り広げ世界をこの手に的なサクセスストーリーを爆走する展開はどこにも無いのか?
こんな異世界の片隅でオークに囲まれてスローライフを送るのがオレの輝かしくも新しい人生なのか?
いや待て、そう結論付けるのは早計過ぎるんじゃないか?
オレがこの世界に来てから、まだたったの一泊二日じゃないか。もう少しじっくりと腰を据えて回りを見回せば、もっと別の『何か』が見つかるかもしれない。その『何か』はまだ全然皆目検討も付かないんだけどな。
しかし、そうするとオレはこれから何をすれば良いんだ?
解らない事が多すぎて何から手を付ければ良いのかさっぱりだ。
だが、解らない事を解らないままにしておく訳にもいかない。『無知は罪』であり知らなかったで済まされる程世の中甘く出来てやしない。
では、解らない事を解るようにする為にはと言うと、情報を集めないといけないと言う話で……。
情報収集か~~。情報収集するとなると人……じゃなくてオーク……って、いちいち言い直すのもめんどいな……もうこれからは人でもオークでもどっちでもいいか。別に誰かに話して聞かせる訳でもあるまいし。
でだ。情報収集するとなると人との会話が必須になるって事だろ?
人と話をする事に物凄いストレスを感じるオレにそれをしろって?
いきなり前途多難だな、おい。
でも、それをしないとオレの物語は進まない訳で、進める為には頑張ってするしかない訳で……あれ? 見知らぬ人との会話ってどうやれば良かったんだっけ?
ゲームならAボタン押せば勝手にペラペラ喋ってくれるんだが……。
「「「わっっっ!!!」」」
突然、何の前触れもなく背後から大声でぶん殴られた。
一瞬、心臓が止まる。
「うぉわぁっっっ!!!」
そして次の瞬間、自分でも気付かずにその場でしゃがみ込んでいたオレは、その大声に圧されるように前につんのめって四つん這いになった。
慌てて振り返る。
「「「きゃははははははははは」」」
そこにはイタズラが巧くいったと、弾かれたように笑う凶敵《3匹のこぶた》が立っていた。