最終話 まさにその通りなのである
それから、世界をニュースが駆け巡る。
“日米が互いに宣戦布告。再び世界大戦か?”
混乱が、恐怖が、世界に満ちる。この戦争は間違いなく、核を使った戦争に、人を滅ぼす戦いになるからだ。しかし、次に世界に降りかかったのは、核ミサイルではなく、とんでもないニュースだった。
“日米両首脳が行方不明”
笑い話である。戦争を始めた二人が、消えてしまったのだ。正田も大統領も、忽然と消えた。もともと戦争に乗り気ではなかった両軍は停戦に合意。人々も呆れるしかなかった。その5日後。
“臨時首相に日向氏が就任。米との講和へ”
月から奇跡の生還を果たした日向は、その日のうちに国会に戻り、アメリカとの和解を果たした。何がなんだか分からないうちに始まり、終わったのだ。
そして、世界は落ち着きを取り戻す。大統領も正田も、ついに発見されなかった。彼らが見つけ出されるのは、ずっと先の未来だ。ただ、それは別の物語だ。
ところで、月からの帰還を“奇跡”といえるのには理由がある。
“人類初めての試み、月面移住計画失敗”
“戦争”の混乱の中、ルナ・ドームからの通信が途絶える。終戦の後すぐ、日向は調査隊を送り、そこにいた人員の安否を確かめようとした。だが、彼らが発見したのは、大きなクレーターと、残った放射能だけだった。全ては無に帰したのだ。そこにいたとされる兵士350名は、名誉の殉職とされたが、もちろん、その亡骸は一つも発見されなかった。
その後すぐ、調査委員会が設立されたものの、現場が月ということもあり、捜査は難航した。月から帰還した元・住民達の証言も、大して意味はなかった。彼らはドームが爆破されたことすら知らなかった。ただ“軍の”命令どおりにシャトルに乗り込み、ルナ・ドームを離れただけだったのだ。
そんな中、爆破の寸前まで月にいた上、救命用シャトルに乗って大気圏に突入、太平洋に軟着陸し、生還した一団がいた。その“第二の“13号””と呼ばれた奇跡のメンバーの中に、日向もいたのだ。彼らもまた、真相を知らなかった。それは事実だ。しかし、勘付いていなかったというと、それは嘘になる。誰一人、それを口にしなかっただけだ。
それらのニュースは、世界を駆け巡ったが、真相を伝えることは、とうとうなかった。
いや、一人、もっと言えば二人、本当に真相を知っていたものがいる。
石井哲は、モニター越しに羽下兼に話しかけていた。
「どうして正田を殺した?そんな話は聞いてないぞ」
兼は頭をぼりぼりかいた。
「・・・・・・・・・復讐だよ。昔の“相棒”のな」
哲は不満そうにしながらも、それ以上は追及しなかった。兼はその顔をにらみつけた。
「お前こそ、何故全てを吹き飛ばした?あれはお前が一番嫌いな手じゃなかったのか?」
哲はにやりと笑った。
「復讐だよ」
それから兼も哲も、黙りこくってしまった。
「・・・・・・・・・・それで?」
長い沈黙の後、兼が問いかけた。
「世界を滅ぼすんだって?」
「違う」
哲はうめいた。
「地球を還すんだ。人間以外の何かに」
「そうか」
兼は興味がないようだった。それは当然のことである。哲と違って、彼には、護るべきものなどない。そんな彼にとっては、世界が滅びるかどうかなど、どうでもいい話なのだ。
一連の騒動が過ぎ去ってから数ヵ月後。とある新聞の三面に、ある研究データが掲載された。それは地球上の生命があと8年で滅びるという結論に至る、衝撃的な記事だった。
あらゆる角度から、あらゆるデータを取り、考えに考え抜かれたその予測は、確かに起こりえるもの、いや、明らかに実現してしまうものだった。
ところで、その日の数多くの新聞の一面は、人気女性歌手が、別の人気グループの男性メンバーと結婚したというゴシップを伝える記事だった。その中で、そのことについて質問された関係者はこう答えていた。
“あの二人が十年持てば奇跡だ”
くだらない記事ではあった。しかし、まさにその通りなのである。
完