第六十八話 俺は“Loki”だぜ?
「俺は・・・・・・・・・・仲間を殺されるのが気に食わなかっただけだ」
僕がそう呟くと、議論していた二人がぴたりと口をつぐんだ。
コンピューターが稼働しているときの、独特の音が聞こえてくる。
「だから、あんたらを止めた」
そう、僕のもっとも大きな理由は、それだった。神に誓ってもいい。僕は、 仲 間 を 護 り た か っ た の だ 。
が、視界の隅で、“Odin”は右手を持ち上げたのが見えた。そして銃声が響く。あろうことか彼は、正田が映ってる画面を撃ち抜いたのだ。当然、通信は切れ、システムはダウンする。明かりさえもなくなった。
「おま・・・・・・・・・・!!馬鹿野郎!マジで死ぬぞ!?」
隼が慌ててシステムを立て直そうとしていたが、“Odin”はそれを無視した。暗闇の中、彼の脅すような声が聞こえてくる。
「・・・・・・・・・“Loki”、芝居はやめようぜ」
「・・・・・・・・・何の話だ?“Odin”」
その時、隼が再起動を成功させ、明かりがともる。彼は拳銃の狙いを僕のこめかみに定めていた。
「分かってんだろ?お前の下手な芝居をやめろって言ってんだよ」
「芝居なんざうっちゃいねぇぞ。そして、嘘もついてねぇ。俺はお前や“Tour”―――そうだよ、お前だよ、隼―――。姉貴や、未来を死なせたくなかった」
“Odin”の腕は微動だにしなかった。彼は冷たく言った。
「それと同時に、人が滅びるべきだと考えていたってのか?」
「・・・・・・・・・・そうだ」
隼が唖然として僕を見た。
「何・・・・・・・・・??哲、お前・・・・・・・・!?」
「・・・・・・・・・悪いな。 俺 は そ う 思 っ て る 」
僕は“Odin”を睨み返した。
「知ってるだろ? “ L o k i ” が 、 世 界 を 滅 ぼ す ん だ 」
「まさかテメェ・・・・・・・・・・」
「そう、最初っからそのつもりだ。俺が世界を“黄昏”に導くってね」
引き金にかかっていた“Odin”の指に力が入る。ぼんやりと、“あぁ、これでジ・エンドか”と思った。“情けねー終わり方だな”と。ところが驚くべきことに、彼は銃をおろした。憎々しげな表情さえ、消えてしまっていた。
「・・・・・・・・・・どうした?」
「・・・・・・・・・・“Loki”。俺達の武器はピストルじゃない」
僕はにやりと笑った。相棒の言いたいことが、手に取るように分かった。
「おいおい、俺は“Loki”だぜ?お前、それを承知で、銃使わないで、俺と勝負するつもりか??」
「忘れるな。俺は“Odin”だ」
“Odin”は拳銃をくるっと回し、腰だめでぶっ放した。
「ゲ!?」
鼻の頭に、何か熱いものが通った。遅れて火薬のにおいが漂ってくる。鼻と鼓膜がジンジンしていた。
「テメェ・・・・・・・・・ホントに撃ちやがったな・・・・・・・・・?」
「ほら、お前なんかいつでも殺れる。“Loki”、もう、やめとけ。お前がいくら意気込んだところで、所詮、一人の人間に過ぎない。全人類を敵に回して、勝てるとでも思っているのか?」
僕は肩をすくめた。
「俺は俺の正義に従うだけさ」
僕はふらりと立ち上がり、操縦室から出て行った。
二人とも、追っては来なかった。
ただ、“Odin”の舌打ちだけが、扉をくぐり、僕に追いついた。
ふと窓をのぞくと、美しい地球が、無限の闇の中に浮かんでいた。
無意味なのかもしれない。最後の最後で立ちはだかるが、僕の護りたかったものかもしれない。
ただ、僕は凌ぎ切った。
とりあえず、護り切れたのだ。
それで満足することにしよう。