第六十七話 答えは、“Yes”だ
僕はコンピューターを置いたまま、シャトルの操縦室に戻った。そこでは、翔、隼、“Odin”がシャトルの軌道を計算していた。
「計算、終わったか?」
「ああ。もう、15分ぐらいで出発だ。長いトイレだったな」
「まぁ、ね」
僕はドカリと腰を下ろし、シートベルトを締めた。
「翔と隼、皆んとこ行っていいぞ。俺と“Odin”で十分だ」
翔は何の疑いも抱かなかったが、隼は僕をじろりと睨んだ。
「哲・・・・・・・・・」
「分かったよ!勝手にしろい」
翔はそんな隼を見て、途端に不思議に思ったらしく、立ち上がった姿勢のまま止まってしまった。こいつだけは、なんとしてもここから離れさせなければならなかった。
「こいつ、俺の操縦の腕が信用できないんだと!まさか、翔までそんなことほざくつもりじゃねぇよな??」
僕がふざけたように言うと、翔は笑った。
「何だ、隼、そんな心配してんのか??馬鹿馬鹿しい!俺は皆んとこで居眠りでもしながら到着を待つよ」
彼が出て行った後、“Odin”が呟いた。
「操縦の腕??こいつは機械で飛んでんだっつーの!」
「うるせぇ!・・・・・・・・皆、ベルトは締めたか??」
部屋との通信を取ると、皆が口々に同意した。
「よーし、じゃ、大船に乗った気分で待っていてくださいな」
と、皆がなぜか曖昧な声を出した。
「おい、何だよそりゃ!?」
「哲、あと20秒」
“Odin”は冷静に言った。すると、未来らしき声がこういった。
「あ、“Odin”ってか洋介君は信じてるから!」
僕は通信を切った。
「あ、ひでーな。今俺がお礼言おうとしてたのに」
「カウント!」
「はいはい。10秒前」
テンカウントの後、シャトルは発射された。
同時に、僕は正田との通信を開始する。
「どうも。今、シャトルが発射しました」
“愚かだな。君は死に向かって飛んでいる”
「お知らせしとこうと思いまして。大統領は、死にましたよ」
“・・・・・・・・・何・・・・・・・・!?”
「正確には死んでないですが、もう、考えることも、感じることもないでしょう。それは死に他なりません」
“・・・・・・・・”
「まさか!?」
“Odin”が大きな声を上げた。
「うるさいぞ。今は正田さんとしゃべってんだ」
「あれを使ったのか!?あれを!?」
「あれ・・・・・・・・・?」
隼は怪訝な顔をしたが、僕に構う気はなく、“Odin”にそんな余裕はなかった。
「おい!!そうなのか!?」
「ただの実験だよ」
何故だか分からない。ただ、“Odin”はたじろいだ。目を見開き、顔を恐怖に染めて。僕は怪訝に思ったが、口を開く前に、彼は目をそらした。僕は出ばなをくじかれ、何もいえなくなってしまった。
沈黙の後、結局、僕は正田に向き直った。
「さて、正田さん。一つだけ、教えてください。何故、あなたは大統領を助けたんですか?」
正田はため息をつくと、僕の顔を睨み返してきた。
“決まっているだろう・・・・・・・・人類を滅ぼすためだ”
「ええ。ですから、その理由をお伺いしてるんです」
“・・・・・・・・・大統領と話したか?”
「はい」
“なら聞いたはずだ。人は醜い。汚い。生きる価値がない。だから滅ぶべきだ。理由として十分だと思わないか?”
「そんなはずはない!!」
叫んだのは隼だった。
「あんたは、一部の人間の、一部の部分を、人間全体であるかのように言ってるだけだ!」
“だとしても、真実だ。誰かの一部であるなら、全ての人がそれを持っているのだから”
「そんな馬鹿な!皆が 同 じ 可 能 性 を 持 っ て い る だ け で、 同 じ も の を 持 っ て い る わ け じ ゃ な い !!」
二人は激しく論じ合っていた。僕は妙に静かな気持ちでそれを眺めていた。
どんな議論も僕には、もう関係ない。
答えなんて、とっくに決まっているのだから。
そう、僕が“Loki”を名乗った、その時から、揺るがないものがある。
人は滅ぶべきか、否か。
答えは、“Yes”だ。