第六十三話 “詰み”だ
勝ち誇った南は、“それ”に気づくのが一瞬遅れた。
武装している7人の銃口が、全て自分に向いている、という事実に。
「・・・・・・・・・・?」
つりあがっていた唇の端が徐々に下がり、目が見開かれていく。
彼は暗視用のゴーグルで顔を隠した男達を順番に見た。
疑惑が確信に変わり、さらにそれが驚愕に変わる。
「まさか・・・・・・・・・!?」
僕のすぐ横にいた男が、にやりと笑って銃をおろし、ゴーグルを取った。
「はじめまして、“South-Pore”」
「“Odin”!?!?」
残りの6人も次々にゴーグルを取る。
詩織、未来、“Tarsier”、そして翔に、隼に、葵だ。
「そんな・・・・・・・・・!?貴様らは・・・・・・・・・」
隼は自分の足を見た。
「ちゃんと足ついてるよな。どうやら死んじゃいねぇみたいだぜ?」
「ありえない!貴様らは確かにあの部屋に・・・・・・・・・!」
「いたのは確かだね」
未来が楽しそうに笑う。
「でもね、南サン。どんな毒にだって、解毒剤はある。それを忘れちゃいけないね」
未来はしっかり仕事をこなしたのだ。
僕が頼んだ、““F・F”メンバーに解毒剤を配る”という仕事を。
誰一人、死にはしなかった。
南が聞いた悲鳴にしたって、単純な話だ。
あの盗聴器は、壊せなかったのではなく、断末魔を 聞 か せ る た め に 残 さ れ た だ け だ っ た の だ 。
「うちの馬鹿兄貴が言ったの、聞いてなかったんでしたっけ?“相手が聞こえるものをコントロールできる”んですよ、私たちは」
未来は例の携帯電話サイズの機械を取り出した。
彼女はこれの“達人”だ。極めているといっても過言ではない。
僕には、雑音や静寂を“聞かせる”ぐらいしか出来ないが、未来は会話や声、物音まで混ぜた“音”を作り出す。
想像もしたくないが、人間の耳をごまかす様な“音”は、いったいどれほどのデータ量なんだろう。天文学的な数字になるのは、まず間違いない。
そのくらい人間の聴力は繊細だし、デジタルデータってモノは雑だ。
それをいとも簡単にやってのける未来は、正直、人間とは思えない。
人間離れした少女が、にっこり微笑む。
「お分かりですかね、南サン」
その時、部屋の扉が開き、一人の男が入ってきた。
南の敗色はさらに濃くなる。
「・・・・・・・・日向・・・・・・・!」
日向政史は少々青ざめている。
「・・・・・・・・南・・・・・・・・」
二人はじっとにらみ合った。
いや、南の憎悪の視線を日向が静かに受け止めていた、とでも言おうか。
「・・・・・・・・・南。正田と話がしたい」
「無理、だ。地球との通信はとっくに途絶えている。犯人は分かっているがな!」
思い切り睨まれた僕は肩をすくめる。
「とっくに回復させましたよ。もう両国にミサイルはありませんし、ルナ・ドームの兵士達も制圧させてもらいましたし、ね」
制圧、というか、無力化、というか。計画通りなら、“Tarsier”の催眠ガスが全兵士を眠らせたはずだった(でも、例外がある。日向をメインコンピュータ室に連行した二人は、詩織の手刀の餌食になった)。
とにかく、南には、動かせる駒が一つも残っていなかった。
敵の“キング”を倒すのではなく、 全ての手駒を奪い、敵 の 勝 機 を 完 全 に 0 に す る こ と 。
これもある種の“チェックメイト”。
“詰み”だ。