第五十九話 ・・・・・クソッ
「・・・・・・・・・・南、作戦を中止しろ」
日向は顔をしかめたまま繰り返した。
「・・・・・・・・・・状況の把握が出来ていないらしいな?」
南は明らかに日向を見下していた。
「貴様、自分の娘を殺すつもりか?」
「・・・・・・・・・・南、 本 当 に 葵 は そ こ に い る の か ?」
日向は南をじっと睨みつける。が、彼には動揺や焦りは微塵も感じられなかった。
「・・・・・・・・・良いでしょう。日向さん・・・・・・・・・・おい」
南は部下を呼び出した。
「はい」
「日向氏に、“向日葵”の声を聞かせて差し上げろ。確か、最新型のは壊されなかったと思うが?」
「はい。了解しました」
実に機械的な男だった。
「・・・・・・・・・・最新型?」
「盗聴器だ。奴らは隠された盗聴器を破壊する手段を持っているのだが、最新型のだけは破壊を免れている」
「ほう・・・・・・・・・それで・・・・・・・・・・」
“プツッ”
この部屋のスピーカーが動き始めた。
“・・・・・・・・・・・・翔、なんか、変な音、しない?”
葵だった。
“変な音?・・・・・・・・・・これ・・・・・・・・・・空気が漏れる音じゃねぇのか?”
“まさか、ばれた!?”
緊縛する葵の声とは逆に、隼の声は落ち着いていた。
・・・・・・・・途中までは。
“安心しろよ、俺達には・・・・・・・・・・!?”
隼の苦しそうな呻き声。倒れる音。
“隼!?”
“伏せろ!!!”
翔が叫んだ。
““Panikhida”は上から満ちてくる!”
“で、でも!私たち、防護服を・・・・・・・・・”
“嵌められたんだ!!!!”
隼の歯を食いしばる音が聞こえる。彼は叫ばなかった。
“・・・・・・・・・・テメェ・・・・・・・・ら・・・・・・・・・!”
“隼!”
“・・・・・・・・・・・部屋から・・・・・・・・・出ろ・・・・・・・・・!・・・・・・・・・・早、く・・・・・・・・!”
ブチィ!!!!
ドサ
“隼!!!”
“・・・・・・・・・・行くぞ、葵”
“でも・・・・・・・・・!!”
“早く!!!”
葵は唾を飲み込んだ。
二人が床を這う音。
ガチャ!!
“駄目!!ロックされてる・・・・・・・!!”
“・・・・・・・・・クソッ”
直後、葵が息を呑んだ。
“グ・・・・・・・・・!!”
翔が呻く。
葵が悲痛な叫び声をあげた。
“・・・・・・・・・あおい・・・・・・・・・!!”
二人の声はぱたりとやんだ。
後には凄まじい静寂が残された。
息を呑んで耳を澄ましていた日向は呆然と膝をついた。
「葵・・・・・・・・・?」
「まだ、助かるも知れないぞ。今貴様が爆弾の在り処をはけば、すぐに彼女を治療して助けてやろう」
南は相変わらず冷たく笑っていた。
だが日向は知っていた。
“Panikhida”を無効化する手段はガスに触れる前に解毒剤を打つしかない、ということを。
今、ガスの中に倒れた葵を助ける手段はない、ということを。
日向は顔を上げた。
憎悪の表情だった。
彼は怒鳴った。
「“DAMN IT”!!!」
実のところ、特殊爆弾は彼の体内に仕込まれていた。
そして、この罵りこそ、起爆スイッチだったのだ。
日向は南を睨みつけながら、頭の中で最後の十秒をカウントした。